黒鷲の旅団
20日目(2)折り合い
「いいなー、おデートだぁ〜」
「あー、レーネちゃん、抜け駆けだっ」
「ち、違いますよ。お仕事のお手伝いですって」
フェドラとエメリナに茶化されて、レーネたじたじ。
しかしレーネはレーネで、少しめかし込んで来た感。
いいなー、といった声がチラホラ。
まあその、おデートというか個人面談というか。
他の子達にも、個別に話が出来る時間を作ってやりたい。
しかし、それはそれで順番待ちになってしまうか。
何か目安箱みたいなのも要るだろうかな。
ああ、でも、まだ読み書きが苦手な子も居ただろうか。
おじさん、考えなきゃならん事がいっぱいだ。
「あ、あのっ」
駆け寄って来たのはマルカとペトリナ。
マリッタには午後、ジルケも後で話すから。
うんうんと頷くマルカと、ペトリナは?
ああは言ったけど、レーネちゃんを叱らないで、か。
大丈夫。踏み止まった所を褒めよう。
馬商人の所へ向かいながら、レーネと話す。
近況、隊員の状態、主な戦果とか……
内心はおデート気分でいる様子のレーネ。
マイナスな話になると、ちょっと切り出し難い。
難いけど、しかし言わないと。
貴族軍にダニエルを見つけて、突っ走りそうになった件。
話題に上がった途端、暗くなってしまうレーネ。
そんな自分を責めなくて良い。
今度はちゃんと踏み止まったんだから。
「でも、その……私は隊長です。
皆の命を預かっていて。
以前にもご指導頂いたのに」
勿論、冷静にな、というのは確かだが。
今回は前回、自分の都合で突っ走ったのとは違う。
仲間を脅かす存在を発見し、対応の検討に迫られた。
周囲の意見を取り入れて、守りを固める事にした。
流れとしては悪くないと思う。
感情は、無くならない。
効率主義の人間でも、他人の非効率に腹を立てる事がある。
腹を立てる、それ自体が非効率だと分かっていても。
どんなに理性を働かせても、感情を切り捨てるのは難しい。
感情。友情とか、悪を憎む心とか、勇敢さとか。
それはそれでレーネの財産だろう。
感情を全否定するんじゃなくて、上手く付き合うんだ。
自分の中の、理性と感情の間で折り合いをつける。
そういう傾向があると踏まえた上で、打つ手を考える。
止めてくれる人が居て止まれるなら、それも良いだろう。
止めてくれたヘルヴィに礼を言って。
ペトリナとかも心配してくれてるから、ごめんねって。
今回の件は、その位で決着としよう。
ダニエルについては、対応を考えている。
貴族軍の壊滅で、少なからず心労を負ったとは思うが。
ペトリナの仇討ちとしては不十分だ。
最低限、死んだ方がマシ、と思う所までは追い詰めないと。
簡単に死んで終わりになんてさせない。
……などと考えてしまうのがまあ、俺の傾向だな。
「あっ、おおおおお嬢さん!」
「おっ、スゲェ美人」
馬商人ゴドフレードの所へ。
ちょっと面白い顔ぶれだ。
居合わせたのは馬飼いフェリクスと、配達屋のヨアヒム。
それと元難民の男女、フリオとベルナデット。
それぞれ募兵に応じて、今は騎士見習いと近衛隊見習いだ。
仕事柄、馬の面倒を見る為、フェリクスに教わっていた。
注目の的・レーネお嬢は、澄まし顔で軽く手を振る。
外面は大人の女というか、クールビューティー気取り。
わざとらし過ぎて、少し笑ってしまった。
「あっ、お、おじさまだけなんですからね?
ありのままの私を見て良いのは、おじさまだけです」
そうか……まあ、光栄に思っておくけど。
表現が微妙なせいか、フェリクス君の視線が怖い。
そんな色っぽい話じゃないぞ。
ゴドフレードに馬車の手配を頼む。
敷地を見た限り……品薄だな。
国軍の物資運搬とかで、結構徴発されている様だ。
荷馬8頭、ホロ無しの荷馬車を4台。
天候が少し不安だが、ホロ付きは売り切れだった。
「旦那の方が金払いが良い。融通したかった所ですが。
お上には逆らえませんで……すんません」
ゴドフレード、その辺は仕方ないさ。
国軍にも復興支援とか頑張って貰わないと。
お馬さんについては、レーネの方が目利きだろう。
フェリクスと一緒に選んで来ておくれ。
その間、俺はヨアヒム達と話をした。
マルカ達の村が無くなってしまった事。
ヨアヒムを無理に行かせなくて良かったと思う。
マルカ達、子供は概ね無事だ。
向かった村の子は、全部は助けられなかったが。
「ああー、最近見ないと思ったら。
送る先が無くなってたんだな。納得したぜ。
あんたアレだろ、子守の何とかって。
あんま気にすんなよ?
助けにも行かない奴のが多いんだから」
それはそれで問題だけどなあ……
ヨアヒム、フリオやベルナデットも。
移住希望者なんか見掛けたら教えてくれ。
魔女協会に知らせれば、通信してくれるから。
レーネとフェリクスが戻って来る。
馬車に人手を集めて、先遣隊から出発しよう。
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