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黒鷲の旅団
20日目(4)君よ何を思う

「いっちばー……あ、あ、うわああ!」

 どがらばたかこーん。

 建設予定地に到着、までは良かったが。
 資材にカーチャが飛び乗って、しかし崩落。
 資材は散らばり、カーチャは派手に倒れ込んだ。
 大丈夫か。診察。あちこち擦りむいている。

「ご、ごめん。すぐ片付け……あちち」

 無理しない。傷を治してからでいい。
 しかしホント、慎重に頼むぞ斥候担当。
 お前さん自身の身も守らないと。
 身をもって危険を知らせるのはヤメナサイ。

 ああ、でも、そうか。
 罠の見分け方とかの指導が足りていないのか。
 役割分担しつつ、お勉強にも気を回したいな。

 斥候と参謀役は、俺と一緒に工作作業。
 村の防柵を作りながら、簡単なトラップの指導をする。
 工作については、鍛冶屋のデトレフにも助言を貰おう。

 各隊隊長と経理担当は家屋建設の手伝い。
 経理担当、足りない物とかがあれば纏めてみてくれ。
 釘何本単位でも、およそ何部屋分とか大雑把でも良い。
 不十分なら後で見てみるから、あまり気負わずに。

 サンドラと各隊副長・衛生担当。
 レイニ隊と食料の加工。
 ボアやら何やらの肉の保存処理を頼む。

「え、あ、手を洗って?」

 そうです、アイリス。
 食べ物を扱うので清潔感を気にしてください。

 あー、と……ローダは衛生担当へ。
 テクラは一先ず経理担当で良いか?
 自信無さげに頷くテクラ。
 経理でない子でも、最終的には計算を教える。
 不足は補うから、まずは頑張ってみて。

 花人隊は農地の整備を。
 およその場所はこちらで指定する。
 何を植えるかは、農業経験者と相談して決めてくれ。

「もっと川に近い方が良いよー」

 農家の娘リュシールさん、農業だけ見ればそうだけれども。
 水害とか防災面も考えると、近過ぎても怖い。
 前の村は森の中で、イマイチ想像つかないだろうか。
 後で水路を引くから、指定した場所へお願いします。

 リザードマン2名と、アラクネのネーラさんは周辺の探索へ。
 ハーピー隊は上空から周囲の監視。
 何かあったら通信を。地上組には帰還スクロールも持たせる。

 それと……村に携行ポータルを設置して、新人チームが合流。
 新人6人は工作チームに合流してくれ。
 少し得意げな顔をするのはフリーダ。器用自慢。

 リリヤは何でも嬉しそうだな。
 孤児院を追い出された子。
 仲間が居るのがとにかく嬉しい。

 他方、ちょっと不満げなのはマリッタ。
 細かい作業は得意でないか。
 急かしたりしないから、まずはマイペースで。

 工作チームの指導。まずは防柵造りだ。
 支柱と横木を組み合わせ、敷地を囲って行く。

「こんなんじゃ下から入っちゃわない?」

 少し作ってみた所で、ツェンタの問い。
 まずは人が居る、人工物があると見せるのが目的だ。
 警戒心が強い動物なら、いきなり入って来ない。
 あと、旅人が知らずに入って畑を踏み荒らすのは防げる。
 仕掛けてみて、何か被害が出るなら対策していく。

 小動物用のネットとかも欲しい所、ではあるが。
 その辺は段々に用意していくしかないかな。

 さて、トラップの授業だ。
 この柵と組み合わせて罠を置く場合。
 例えば落とし穴なら、どこが良いと思う?

「えー、分かんない」「どこだろ?」
「柵を乗り越えた所じゃないかしら」

 ヘルヴィ、及第点だ。
 どっこいせ、と柵を越えた所で落とし穴にハマる。
 越えて油断した所を狙っている訳だな。

 逆に、手前に落とし穴を仕込む方法もあるが。
 たまたま近寄った、越える気が無い奴まで巻き込む。
 そこら辺の道に仕込むには、ちょっと不適切だろう。

 近付く奴が悪い、というスタンスならそれでも良い。
 防犯設備、貴重品や要人の守り、ダンジョンのトラップとか。
 仕掛ける側の意図によっては、そういう傾向もあり得る。

 上手に罠に掛けるには、相手の気持ちを考える事。
 どういう意図で寄って来るのか、どんな奴が想定できるか。
 巻き込む気が無い相手は通らないか、大丈夫か。
 それら要因を踏まえて、仕掛ける側の目的を果たす。
 罠と一言で言っても、場合によって必要な罠が違って来る。

 逆に仕掛けられる側として見た場合。
 仕掛ける奴は、どういう意図で仕掛けて来るのか。
 これも、相手の気持ちを考えないとな。

 他人の気持ちが分かるに越した事は無い。
 それが敵であれ味方であれ。
 陥れるのであれ支えるのであれ、だ。
 分かったつもりになるのも危険だけれどな。

「正々堂々勝てれば、罠なんて」
「相手が3人だったら2人罠にハメて、とか……」

 搦め手は好かない様子のマリッタ。
 横から提案するのはマルカだが。
 そっけなく視線を逸らされて、残念そう。

 考え方はマルカが俺に近いと思うのだが。
 1人だけ我慢させたくないな。
 マリッタにせよ、マルカにせよだ。

 マリッタは少し話そうか。
 お前さんにも譲れない一線というのがあるのだろう。
 分かったつもり、じゃなくて、ちゃんと知りたい。



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