黒鷲の旅団
20日目(5)高潔のマリッタ
「いえ、その……すいません」
しょんぼりマリッタ。
いや、話を聞こうとしただけなんだが。
上手く説明出来ないのか、謝ってしまう。
やや大人ぶった印象の、しかし子供は子供。
あまり追い詰めたくも無いが、このままも良くない。
「あ、あの、マリッタちゃんを虐めないで!」
割り込んで来るのは、同じく新人のアルメル。
マリッタが囮となって魔物と戦って。
彼女はその後ろに隠れていた子、だったな。
今度は自分が助けなきゃと息巻いている感。
後ろめたさのみならず、大切に思っているのだろう。
ああ、うん、虐めない。虐めないけれども。
マリッタも、自分の味方がいた方が話し易いか?
アルメルにも、一緒に座って話を聞いて貰おう。
マリッタ、とにかく何でも話してみてくれないか。
合わない意見を口答えだなんて言わないから。
マリッタのこれまでと、考え方を知りたい。
マリッタは、故郷ではどんな暮らしを?
マリッタの故郷は水竜族の集落。
半竜人、特に水竜だけが集まったコミュニティに居たらしい。
厳しくも愛情深い両親との日常。
それは、ある日突然奪われた。
集落を襲ったのは人間の集団だったという。
両親、同族も抵抗するが、多くは殺されてしまった。
マリッタを含め生き残りは、奴隷商人の手に落ちる。
その後、奴隷として各地を転々と。
希少種の半竜人。物珍しさから需要があったが、一方で。
使用人をやるには不器用で、何かと壊しては返還され。
奴隷紋やらも水竜には効果が薄いのか、暴れて抵抗する。
奴隷商の方でも、彼女を持て余していた様だ。
それでも懲りずにオークションに連れて行かれた。
今度は食用として出される所だった?
竜人の肉で長寿云々……人魚の肉みたいだな。
そんなオカルトめいた俗説も出回っている様だ。
それで闇オークションの裏手で待たされて。
そんな折、魔王軍が来て大暴れ。
で、拘束は解けたが魔物にやられて負傷した。
不遇な扱いの日々。
支えとなったのは死んだ両親の教え。
誇り高き水竜の末裔として、か。
どうせ奴隷だなどと腐らずに、弱きを助く。
その結果としてアルメルが助かった。
その誇りを、教えを捨てろとは言うまい。
マリッタにトラップの使用を強要はしない。
ただ、弱者を守る為、強者を退ける為。
俺達の方で使う事があるのは、了承して欲しい。
それと、トラップの知識は持っていて。
自分が使わなくても、罠の知識があれば看破も出来る。
知らない、と、知っているけど使わない。
両者には天と地ほどの差がある。
正々堂々を悪いとは言わない。
力比べの切磋琢磨とか、全部を否定するつもりはない。
だた、その勝負に賭すのは何か。
相手より自分が弱くて、しかし絶対に譲れない局面もある。
およそ掛け金は強者が決めるのだろう。
強者が非道でない保証は無い。
大切な物が、人が、狙われるかも知れない。
弱さは負けて良い理由にならない。
そして世間は、俺達が強くなるのを待ってはくれない。
水竜族として、自分自身も強くなりながら。
うちの子として、自分より強い奴を倒す知恵を磨いて欲しい。
「わ、分かりました。
貴殿を、第2の父と思って」
そんな畏まらなくても。
おじさんでも先生でも何でも。
まあ、慕ってくれるなら何よりだが。
それと……話は変わるが。
マルカ、火竜についての認識が知りたい。
マリッタが言うには、近隣に火竜の集落があり。
粗暴な連中で、時折諍いを起こしていた。
事ある毎に、奴らが、火竜がやったんじゃないか。
大人達が口を揃えて言うのをマリッタは聞いていた。
人間を水竜の集落に差し向けたのは火竜ではないか。
マリッタの中には、そんな疑惑が芽生えていた様だ。
マルカについては……奴らの仲間かも知れない?
それは無いな。マルカは親の顔も知らないんだ。
森に捨てられていて、村の教会、孤児院で育った。
火竜が人間を使って水竜を襲った、かどうか。
それは集落の火竜族に聞いてみないと分からんが。
少なくとも、マルカはそいつらの仲間じゃないな。
「わ、私……自分が恥ずかしい!」
聞いていたマリッタは駆けて行って。
マルカを抱き締め、泣き出してしまう。
マルカはマルカで、何を聞いたか、釣られたのか。
一緒に大声で泣き出して……
ああ、うん、泣け泣け。
泣くだけ泣いてスッキリしなさい。
確かめもせずに敵だ何だと疑って。
嫌な態度を取った自分が恥ずかしい、か。
素直に非を認める。それもまた高潔さだろう。
マリッタ、その誇りは捨てるな。
それは勝った後でこそ必要になる物だ。
勝ち方は俺達で考えよう。
さて、各隊状況確認。
探知情報に赤マークがチラホラ来ていた。
通信が無かったのは、大した相手じゃなかったか。
報告1件。外回りのネーラさんから。
巡回中、ゴブリンの巣を見つけたという。
分かった。すぐに向かう。
昼食前に対処してしまおう。
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