黒鷲の旅団 >20日目(9)憂鬱の留守番姫


黒鷲の旅団
20日目(9)憂鬱の留守番姫

「おや、旦那じゃないすか」

 物資手配と状況確認の為、領主の館へ。
 丁度良い事に、イェルマイン達と居合わせた。
 彼らもキャスティーナ領の経営手伝いか。

 元奴隷兵の子供達について、話を持ち掛ける。
 彼は少し迷いつつ、すぐに受け入れに同意してくれた。
 いつも悪いな。巻き込んでしまって。

「いやいやまあまあ、他ならぬ旦那の頼みですし。
 ガキンチョ達に懐かれるのも悪かない。
 人気取っときゃあ、日雇い兵士の集まりも良くなる。
 ただ、ぼちぼち大人の方も増員しないといけませんや」

 イェルマグ隊の基本編成。
 大人1人に子供の従者が1人、を基礎とするらしい。

 お姉さん騎兵に子供の面倒を見させる。
 騎士候補として、統率者としての自覚を磨かせる。
 子供達も先達の指導で鍛錬を積む。
 自分の手間も掛からないし、一石二鳥なのだと。

 しかし、問題は戦闘指導。
 お姉さん騎兵隊の大半は前衛職。
 後衛の大人は竜騎兵の彼と、前後兼任のマグちゃんだけ。
 大人の銃士や弓騎兵なんかも仲間にしたい、か。
 雇用費や支度金はこちらからも援助しよう。

「お客様、こちらへどうぞ」

 領主の執務室へ。
 出迎えたのはキャスティーナ……じゃない。
 顔立ちはよく似ているが、若い娘。
 一番上の娘で、名前はキュリア。
 キュラとキュネの姉に当たるらしい。

 年は12歳で、領主代行補佐。
 不在がちな母に代わって領地を経営してきた。
 今回は実質的な領主としてトゥルチャを任されている。
 戦闘適性は低いが、政治に秀でているのだとか。

 神人の血を引く少女。
 神人が使うウインドウについても教えを受けている。
 領主の席に座り、各ウインドウを展開。
 こちらの要件に合わせて指示を行っていく。

「東北の港町に船の手配を。
 商船と漁船と……あっ、お金」

 お金はこちらで立て替えておきます。
 必要な額を教えてください。

 中型商船2隻、1千万。
 小型漁船8隻。400万。中型漁船4隻。800万。
 保存の利く食料の手配が300万。
 キュリアがウインドウをタップする。
 マップ表示、船のマークが海上を港町へ向かって行く。
 これは運搬が始まったという事だろうか。

 イェルマインの方の用事は、人材募集。
 俺の所の港町から南、港町を2つ受け持っている。
 資材は届いているのだが、人手が足りない。

「首都の難民に対し、改めて募集を掛けます。
 何かアピールする物があると良いのですが。
 でも、まだ設備とか無いですよね。
 あとは、うーん……お写真とか。
 記録や転写の魔法はお持ちですか?」

 キュリアの発案。記録・転写による魔法写真か。
 募集のチラシに載せるらしい。
 遊ぶ子供達とか撮ったら、楽しそうに見えるだろうか。

「ああー、それ良いっすな。
 こっち一段落したら、旦那の方お邪魔しますわ。
 エリック坊や達も会いたがってるみたいなモンで」

 写真を撮って来て、募集に載せる、と。
 人が集まるまではテントで凌ぐしかないかな。

 と、方針を決めて立ち去ろうとしたのだが、

「あ、あのっ!」

 呼び止めるのはキュリア。どうした。

「あのあの、お客様。もうお帰りですか?
 お茶やお菓子も、ご用意したのですが」

 えーと、遊んでる暇は……と言い掛けて。
 何だか凄く残念そうに見えるキュリア。
 母親が不在がち。屋敷に籠りがち。
 少なからず寂しい思いをしてきたのだろうか。

 守るってのも難しいな。
 連れて行くのでも、置いて行くのでも。

 まあ……もう少しお邪魔しようかな。
 告げるや俄かに明るくなるキュリア。
 参ったな。あんまり急いでも悪い。

 子供らには先に遊んでいる様に通信する。
 膝より深い所には行かない様に。
 必ず3人以上で行動する様に。
 フレスさんやアンヌ達に引率を頼む。

 こちらはお邪魔ついでに、幾つか情報を貰う。

 集落、領地ごとの条例制定……
 領主本人でないとダメで、内容にも制限がある。
 差別を禁じる等は、もっと爵位を上げないと。
 加えて、関連団体との関係も変化するらしい。
 難民が出ている中、神聖教会との関係悪化はマズイ。
 この件はまだ見送るしかないか。

 それと、内政の入門書を1冊見せて貰った。
 得たのは農耕、治水、建築、投資、治安スキル。
 それぞれの分野で作業効果が上がり易くなる。
 この辺は早々に利用できると思う。

『おっちゃん、まだー?』
『早く遊ぼー?』
『あっ、船だ! 船が来てるよ!』
『リリヤが何か出した』
『エメリナがドボンっていった』

 子供達からの通信が次々と。
 分かった。すぐ行くから。
 エメリナのドボンは大丈夫なのか?
 泳いでる。あまり沖に出ない様に。

 これ以上はうちの子達が待てそうにない。
 行かないと……キュリアも行くか?
 勝手には行かれないか。
 またの機会にでも誘うよ。

 楽しみだ、と寂しそうに手を振る少女を残して。
 俺とイェルマインは屋敷を後にした。



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