黒鷲の旅団
20日目(10)悩めるマルカ
「ひゃっほーい!」
どばっ、しゅるしゅる、どばしゃーん。
勢いよく水面を飛び出すエメリナ。
そのまま2回転半、また水中に戻っていく。
まるで曲芸だな。
ハーフマーメイドの血が覚醒したらしい。
エメリナの下半身は今、魚の尻尾になっている。
「エメちゃん、ぱんつ! ぱんつー!」
テルーザが振り回しているのはエメリナのパンツ?
魚体化した時に脱げてしまったのだろう。
しかしエメリナが泳ぐのが速く、追いつけそうにない。
戻って来た時に返してやんなさい。
あと、他人の落した下着をそんな振り回すのはヤメテ。
港町、ビーチ。遊び回る子供達。
泳いだり、泳げない子に教えたり。
貝殻を拾ったり、魚を捕ったり。
アンヌは泳げなかったが、すぐに覚えた。
ユッタ、マリナ、もっと力を抜いて。
サンドラちゃんが意外と得意げ。
半吸血鬼、ダンピールのレーネは平気な顔。
流水がどうこういうのは伝承上だけか?
その子供達だが……水着だな。
どこかの神人がデザインを持ち込んで、広めているらしい。
そりゃあ水着が無くて全裸でも困るのだが。
しかし、あまり際どいのもどうかと思う。
白いビキニ姿のフェドラが、何というか眩しくて。
少年チームが彼女を見る目が熱い。あっちい。
フェドラも随分と嬉しそうに手を振っちゃって。
俺はもう少年らに、怒ったら良いのか自慢したら良いのか。
うちの子、可愛いだろーって……そりゃ可愛いけれども。
「ご主人ー。お水まずいー」
「しょっぱい、やだー」
花人隊は海水が苦手か。
陸地側へ後退させて、狩猟や探索に当たって貰おう。
とりあえず水魔法。真水を飲ませる。
「オヤジ、あのさ……リリヤなんだけど」
マルカ、難しげな表情。リリヤがどうした?
半分スキュラのリリヤもまた、血統の力が覚醒した。
腰の辺りから、犬みたいな頭のヘビ?が生えて来た。
人間の血の方が濃いのか、2本だけではあるのだが。
周囲に凄くビックリされて、自分が凄くビックリした。
泣きそうになって、フェドラやアンヌが宥めてくれて?
尻尾仲間だよ大丈夫だよって、落ち着かせてくれたのか。
で、リリヤは一応落ち着いた……のだが。
周囲。農村の子からキモチワルイみたいな声が上がっていた。
これに村出身のマルカは傷ついてしまった様だ。
差別しないと信じていた旧友達の反応が悔しい。
「どうして差別って無くならないんだろ」
マルカの問い。村の子はというか、世間一般な話か。
差別が発生するには幾つか要因がある。
例えば、抑圧されてた不満の捌け口を求めて。
単純に加虐趣味、意地が悪い個人の性質。
そういう環境とか個々人の問題とは別として。
人間という種全体の傾向もある。
身内贔屓。内集団バイアスとか言ったか。
手軽に結束を高め、自尊心を満たせる考え方だと聞いた。
自分の所属する集団を持ち上げようとする。
優れた集団に所属しているから自分も優れている、だとか。
優れた集団に仕立て上げる為に、外集団を貶めるのだとか。
現実は、全くの錯覚なんだけどな。
歴史上の偉人でも、政治家でも、スポーツ選手や何かでも。
凄い人の仲間だからって、それで自分が凄くなる訳じゃない。
ライバルの失点はライバルの失点だ。
自分の得点が増える訳じゃない。
広い視野で見たら、相手が落ちても自分達は変わらない。
人間の価値に相対性理論は適用しないんだ。
マヤカシだ。帰属しただけで価値が上がるだとか。
相手が落ちれば自分が上がるだとか、みんなマヤカシだ。
それでも、手軽さ故に流されてしまう。
人間とは結局、低きに流れる生き物なのか。
それが人の性だと言うのなら。
差別を根絶するには、人間を根絶するしかないのか。
……いや、結論が性急過ぎるな。
マルカの様に異を唱える人だって居るだろう。
「あ、あ、あのねパパさんっ」
こちらの視線に気づいて、リリヤが駆けて来た。
恐る恐る、犬尻尾?を見せる。
「き、き、キモい? ごめんね?」
キモくないよ。可愛いよ。
撫でてやるとハフハフ言う犬尻尾達。
リリヤもだらしない顔になって、ヨダレが……
あれ、繋がってる? 触っちゃマズかった?
くすぐったい? 何かゴメン?
えへへと笑って戻っていくリリヤを見送って。
マルカ、差別はすぐどうこう出来る話じゃないが。
火の粉が降りかかるなら、俺達で守ってやろう。
あと、村の子達も、あまり追い詰めるな。
間違ってたと謝ってくるなら、受け入れてやるのも良い。
俺達が根絶したいのは差別であって、人類じゃない。
和解の余地は残しておこう。
と、落とし所を得て安心したのだろう。
マルカの表情が明るくなった。
リリヤも守りたいが、村の子と和解もしたいんだ。
さあ、マルカも安心したら遊んでおい……
おい。何だ。何が起きた。
遠目に近寄って来ていた商船が、唐突に沈んだ。
外力で2つに折られた様に見えた。
水中に何が居る。探知に反応は……薄らぼんやりと。
くそ。何で気付かなかった。
水中に対しては探知距離が短くなるのか。
広域通信。念話。総員、陸に上がれ。迎撃用意。
付き合って水中戦をやる必要は無いだろう。
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