黒鷲の旅団
2日目(1)少女従者隊〜結成〜
「集合! 集合ーっ!」
「南門が手薄だ! 急げーっ!」
鐘が鳴った。招集の鐘らしい。
走り回る兵士達の声。
南門が手薄だと言っている。
向かうなら、そっちかな。
「ご、ごっ、ごぶっっ! じっ、じじ!
うぎゅうぅ!」
「あはは、落ち着いて。
ご無事でって言いたいんだね」
「傭兵の事はよく分からんが。
気をつけてなー」
サンドラや女将、ガイゼル達。
俺は見送られる形で出立。
南門前へ。
自陣の向かい側に、敵軍の陣営が見える。
自陣にも敵陣にも天幕が立ち並ぶ。
兵が準備にと行き交っている。
「傭兵の方は、こちらでお願いしまーす!」
整列に従い、募兵官の所で登録を……
募兵官さんから解析魔法を掛けられた。
ステータスを見ると。
NPCからも見られるのか?
「あ、神人さん。冒険者の方ですね。
無等級なので日当は一般扱い。
10万となりますー」
等級が上がると給金が上がるんだろうか。
実績に応じて、という事だろうかな。
「……よろしいですか?」
あ、はい、よろしいです。
考え込んでいたら先を促されてしまった。
労働条件に同意する。
と、傭兵の登録票みたいな物を渡される。
受け取るとウインドウに文書化された。
傭兵、新参・一般。評価A。
広く適正あり、とはスキルの事だろうか。
評価のA、良さげにも思えたのだが。
隣のウインドウをチラ見すると、評価SS。
……あまり自分を過信しない様にしよう。
ふと顔を上げると、見知った顔。
騎士団長が難しそうな顔。
彼の前にユッタ達、昨日の子供が3人。
どうした? 何かあったか。
「君か。確かハインリヒ君だったな。
この子らが参戦すると言って聞かないのだ」
お金が必要なんです、と子供達。
稼ぎが危険に見合わないと騎士団長は言う。
大人の傭兵なら、最低基本給が10万。
だが少年兵となると、満額出た例が無い。
まず、子供だというだけで半減される。
素性が知れないと、更に半減。
不健康そうだと見込みの労働量で半減。
薄汚いだけでまた半分むしり取られる。
以下諸々の難癖をつけられて。
後に残るのはごく僅か。
より良い兵を集める為、か。徴兵ルール。
貧しい子供を救済する様に出来ていない。
ああ……よし。
3人は俺の従者という事にしよう。
俺の身分証は、と。
無等級の冒険者認定証ならある。
あとは見てくれを整えたら、どうか。
それなりにならないか。
「素性までは保障する、か。
分かった。編成を待つ。
輜重隊には話を通そう。
まだ半時ほど猶予があるだろう。
本来、参戦もさせたくないのだがな」
その辺は俺も異論無いんだが。
勝手させて前に出られても怖い。
指揮下に置いて後方に回す。
せめて生き残れる様に配慮したい。
子供達の身支度を。朝ご飯は食べたか?
フェドラは普段から朝食の無い清貧生活。
マリナは返事より先に腹が鳴った。
輜重隊で2人分の軽食を。
あと、布切れと鍋。
水魔法で水を入れて炎魔法で沸かす。
食べ終わったら顔拭いてなー。
金が要るという事だが。
具体的な事情を聴いても?
マリナは実家に借金がある。
月々の利息だけでも返さないと。
でないとマリナが売られて行ってしまう?
これがユッタとマリナの理由。
フェドラは魔族の血を引く半魔人。
その半魔故に、教会の孤児院に居辛い。
教会本部から役人が来る度、逃げ隠れ。
自分の家を買って温かな暮らしをしたい。
昨日のイェンナも時々手伝っている。
今は姿が見えない様だが。
……分かった。協力しよう。
「あのね、あの……どうして?」
どうして助けてくれるのかって?
大人は子供を助けるモンだ。
理由なんか要らないさ。
手持ちの武器は?
ユッタの武器は小銃。
小銃ウィンチェスター。
実家からこっそり持ち出して来た。
マリナとフェドラは……棒切れ。
鎧を着た大人の兵隊相手だ。
武器が棒切れではマズかろう。
クオータースタッフと言ってもだな。
輜重隊で弓を2つ手配する。使って。
間違っても、俺より前に出るなよ?
ヘルメットを手配して被せ、はい整列。
頼りなさげだが、敬礼が返って来た。
改めて募兵官に鑑定して貰う。
契約はC評価、子供新兵。
給金は子供だからの減額に留めてくれた。
「すまんが、規則は規則でな。
これ以上の譲歩は出来ない」
騎士団長から弁明。分かってる。充分だ。
あとは死なせない様に最善を尽くそう。
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