黒鷲の旅団
2日目(2)少女従者隊〜初陣〜

 半時と言っていた。
 もう時間も無いだろう。
 あと何か出来る事は無いか。
 輜重隊で貰った回復薬を子供達に配る。
 靴紐や矢筒のベルトを点検させる。

 子供達の生残性を高める為、スキルを。
 初期リストから軍事系スキルを取る。
 統率、陣形、行軍スキルだ。
 被統率者のパラメータに補助を掛ける。
 無いよりマシ程度でも、あった方が良い。

「おぅ、お前さんトコも子供兵士かい?」

 ランカーと名乗る男に声を掛けられた。
 神人で傭兵だと。少女兵を2人連れている。
 身なりが良くない。

 聞けばNPC兵士は消耗品。
 多くは鍛える前に死ぬ。
 装備なんて買い揃えるだけ無駄。
 安上がりの子供兵や奴隷兵を囮役に。
 頭数を揃え給金を回収するのがお得だと。

 ……同意を求められても困るな。
 この子達を使い捨てるつもりは無いんだ。

 ラッパの音。駆け出す兵士達。
 いよいよ始まったか。

「始まった! 始まったよ!」
「ど、ど……どうすればいい?」

 少女従者隊(仮)諸君。
 我々は何を置いても生き残らなければ。
 指示に従ってくれるかな?

 まずは後方で待機。
 前衛の衝突を待つ。

 次に、勇気を振り絞り、転進。
 左を向いて転進する。

 ぶつかり合う兵士達を横目に林へ。
 側面の林へ逃げ込むぞ。
 林に隠れて。あとの説明は着いてから。

 激突する前衛を横目に、走る。
 歯を食いしばって走って行く子供達。

 と、マリナがコケた。
 治癒魔法を掛け助け起こす。頑張って。

 俺は走りながら探知・空間魔法で索敵。
 解析魔法……敵にも弓兵が少なからず。

 矢が降って来る。剣では捌き切れない。
 風魔法で反らし、炎魔法で焼き落とす。

 敵、第二射。遅れがちなマリナを庇う。
 武器受け……損ねた。
 矢が2本。俺の肩を貫いた。

「お兄さん!」

 ユッタ、振り返るな! 林へ!

 先頭を行くフェドラが林の端に着いた。
 もっと奥に行け、奥だ!

 木々を分け入り5本ばかり奥へ。
 奥に入って右へ折れる。
 探知、索敵……
 追って来ている敵は居ないな?
 敵の斜め後方。ここらで良いだろう。

 全員に活力魔法。
 疲労回復、呼吸を整え……いてて。

「だだだ大丈夫? ちっ、ち、血が……」
「わああ、どうしよう! 私のせいだぁ!」

 大丈夫、俺の傷は致命傷じゃない。
 大丈夫だが、戦場の怖さは分かったな。
 それなら俺も怪我をした甲斐がある。

 矢は貫通している。
 破片が散らない様に先端を刀で切断。
 反対、背中側が引っ掛かるな。
 膝をつく。ユッタ、後ろから抜いてくれ。

「あ、あ、あう……」

 血が恐いか、手の震えが傷に響いて来た。
 フェドラにも手伝って貰い、矢を摘出。
 然る後、治癒魔法と解毒魔法。
 毒は塗ってなかった様だが、消毒代わりだ。

 ちょっと血を失ったが、動ける。
 帰ったら血肉になる物が食べたい程度。

 それより、始めるぞ。

 ユッタは小銃。練習して来たという。
 マリナとフェドラも、借りの経験はある。
 弓の使い方は分かるな?
 食い詰めてて良かったか悪かったか。

 まずは俺が撃って見せる。
 敵の後ろから射撃を開始する。

 乱戦中に後方側面を突かれている。
 敵は何をされているか分かっていない。
 分かっていないが、それでも倒れる。

 狙撃、狙撃……
 子供達は、まだ撃てていないか。

 ユッタの手が震えている。
 人を撃つのは初めてだろう。
 ユッタを後ろから抱き抱える。

「ふぁッ!? なななな!?」

 落ち着いて。殺そうと思わなくていい。
 頭や腹を撃たなければ簡単に死なない。
 急所を外して当てるんだ。

 と、先にフェドラが矢を放った。
 見た目おっとりだが思い切った子だ。
 肩に矢を受けて敵兵が悶える。
 悶える間に、友軍が正面から斬り倒した。

 振り返るとフェドラ、得意げにVサイン。
 狙って当てるとは、やるじゃないか。

「お兄さんのカタキだよっ」
「カタキ……」
「っそ、そうだ。やらなきゃ」

 意を決した。
 ユッタが撃つ。マリナが射る。

 相手方には鎧もある。
 子供らの攻撃で致命傷にはなるまい。
 戦った名目を立てるのが目的だ。
 何もしないと低い給金を払い渋られる。

 弓兵2人は半身を木に隠して。そう。
 ユッタは伏射姿勢。俺の真似して。
 子供達が少し慣れて来た。
 俺は狙いを切り替える。
 気付かれない内に敵の間接攻撃役を減らす。

 弓兵を、弩兵を撃つ。
 なるべく隊長役を。
 見た目偉そうなのを探して撃つ。
 例え1つでも、被害を出すワケには……

 と、敵兵が1人。
 こちらを指差して指揮官と話している。
 どうやら位置がバレたな。
 接近される前に移動しよう。



前へ黒鷲の旅団トップへ次へ