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黒鷲の旅団
20日目(11)イカ穿ち

「頭が出てるよ!」
「あっ、目だ!」
「何かウネウネしたのが出てる」

 丘の上に避難した子供達。
 商船を沈め、港町に寄って来た怪物を観察している。
 観察は大事だな。どう動くか、どこが弱いか。
 まずは安全な距離から探っていこう。

「あれ、何? イカ? タコって奴?」

 ティルアの問い。見るのは初めてか。
 あれはイカ、かな。尖った頭にヒラヒラが付いている。
 解析。名称はグレータークラーケン。
 レベル200台の高レベルモンスターらしい。
 フレスさん曰く、準災害級の大物だと言う。
 あんなモンが自然界にウロウロしているのか。

 しかし、いつぞやの火竜ほどではない。
 巨体でHPこそ高いが、丘まで上がっても来るまい。
 まずは俺達で撃退を試みよう。

 攻撃……する、前に。全員居るか。点呼。
 子供達、花人隊。魔物従者隊にガイゼル隊、残され移民。
 余す所無く丘まで避難。逃げ遅れは居ないか?

 エメリナは居る? 人間の足に戻っている。
 パンツ履いたよって、それは報告しなくて良いです。
 だからって履いてなくても困るけれども。

 あとは、漁船や商船を放棄して逃げて来た船員が数人。
 逃げ遅れが襲われていて、助けを求められるのだが。
 巨大イカの大木みたいな太さの足が水面を叩く。
 海が荒れ狂い、渦を巻いている。
 あの場に飛び込んでいくのは自殺行為だ。

 引き離してから、だな。
 遠射で攻撃して注意を引き付け、誘導する。
 引き離せればアンヌやジュスに救助に向かって貰う。
 無理なら……まあ、とにかく倒してしまうしか。

 隊列を整え、遠射用意。
 電磁加速、測量魔法展開。一斉射。
 ぱぱぱん。ばららら。きゅきゅきゅきゅん。
 矢弾は正確にイカを捉え、しかし障壁に弾かれた。
 あのイカ、障壁系の魔法を使うのか。

 ならば魔法で、と試してみるが。
 こちらもダメだ。反射魔法まで使って来る。
 距離があるので、こちらまで戻って来る事は無いが。
 対物・対魔どちらにせよ、突破する必要がある。

 フレスさん、あの手の魔法を突破するにはどうしたら?

「魔法を封じる事が出来れば簡単なのですけれど。
 それには魔力も熟練度も上回る必要があります。
 年月を経た大型の魔物、熟練度が高く難しいかと。
 このまま障壁を使わせて魔力切れを待つか。
 瞬間的に攻撃が障壁の力を上回ってしまうとか」

 瞬間の攻撃力が上回れば、貫ける。
 すぐにユッタとイェンナが同時射撃。
 弾丸は障壁を貫通した……様だが。
 弾力がある為か、イマイチ効果が薄い様だ。

 魔法付与。雷、爆薬、凍結……効いていない。
 ノーダメージでもないが、相手が巨体過ぎる。
 付与される魔法の量が足りないだろうか。

 魔法付与により付与される魔法の量、威力。
 これは素材の魔法との親和性と、体積で決まる。
 同じ体積なら、金属より木材の方が魔法が乗る。
 同じ金属なら、大きい方が魔法が乗る。

 対象の表皮は厚く弾力もある。
 致命傷を与えるには魔法が欲しい。
 しかし銃弾は小さく金属製で、あまり魔法が乗らない。
 弓弩の放物線軌道では、同時射撃のタイミングが難しい。

 単発で障壁を貫ける武器か……
 対物火器では遠過ぎるし、近付くのは魔法の反撃が怖い。
 いっそ大砲でもあれば良いんだが。

「た、大砲! フレスしぇんしぇ、大砲!」
「えっ……あ、あああああ!」

 サンドラちゃんとフレス先生に当てがある?
 すぐ手配に掛かって貰う。
 通信と、転移魔法……ごとごとん。

 呼び出されて来たのは細長い筒状の物体。
 弾丸質量9ポンド級、デミ・カルバリン砲が6門。
 弾丸質量18ポンド級、カルバリン砲が2門。
 魔女協会の式典用、花火を打ち上げるのに使っていたのか。
 有難く貸して貰おう。

 カルバリン砲、試射……どふん。

「ぎゃっ!」
「んわ!」
「あぶねっ!」

 反動で後退する砲身。
 後ろに居たカリマが上に倒れ込んだ。
 大丈夫か。挟まれてない?

 砲弾の方は障壁を貫通した様で。
 しかし、このままじゃ危ないな。

 重力、遅延、念動、防御、鎮静、中和。
 制動魔法スタビライズ。
 反動を殺す地味な魔法を使って安定させる。
 第2射……大丈夫。反動が収まっている。

 手分けして各砲門、このまま撃ち続ける。
 火薬は爆薬・精製魔法、砲弾は錬成魔法から。
 付与魔法はまだだ。手元で暴発したら被害が甚大になる。
 船員の生き残りが居ると巻き込むかも知れん。
 もう少し慣らして、もう少し港から誘導して……

 あれ、誘導し過ぎた。
 イカがユルユルと港を離れて行く。
 障壁を破られ、不利を悟ったのだろう。
 撃退、という事で良いのかな。

 倒し切れず、撃破報酬は無し。
 残ったのは巨大ゲソ3本だけ。

 うん……おやつはゲソ揚げにしようか。

 まずは生存者の捜索からだな。
 イェルマイン達も追いついて来た。
 手を貸して貰おう。



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