黒鷲の旅団 >20日目(13)アンチョビとべしべし


黒鷲の旅団
20日目(13)アンチョビとべしべし

「もう1本貰えば良かったのに」

 アイリス、食いしん坊発言。
 どうやらゲソ揚げを食い足りなかったらしい。

 一難去った後、遊び足りない子達と再びビーチへ。
 子供達から、巨大イカを従えた女について質問された。

 海洋の女魔王、ウルリカ・ウルリケ・ウルバーニャ。
 開示に応じたフルネームは、まるで何かの呪文みたいだが。
 そんなファンシーさとは裏腹の脅威度だった。

 奴隷使いが嫌いと言っていたな。
 イカで船を潰しておいて、交渉に来る。
 救助目標に被害が出ない様に、か。
 剛と柔を使い分ける人物らしい。

「イカの飼い主と友達になったから、もう大丈夫?」

 ティルアの問い。その大丈夫は、船を出して大丈夫って事か?
 どうだろう。他にも野生の巨大イカが居るかもしれないし。
 港の守り。それはそれで固めた方が良い様な気がする。

 さて、ぼちぼち帰還準備に。
 沢山泳いだ子は疲れ気味だろうか。
 レーネやユッタが少しぐったりしている。
 エメリナはまだ元気そうだ。
 テルーザ曰く、昔は病弱だったというのだが。

 浜辺で遊んだ子は、まだ余裕がありそう。
 ペトリナ、フィリッパ、ルーシャ。
 ちょっと日焼けしただろうか。

 あと、魚やら小さいカニを捕まえていたチーム。
 カーチャやマリッタも頑張ってくれた様だが。
 リリヤの釣果が凄い。犬尻尾を使ってズバズバ捕ってた?
 バケツいっぱいのニシンやアンチョビ。が、3杯。
 2本の犬尻尾それぞれと、両手でバケツを運んでいる。
 魚大好き・猫人ジェマ、完全に尊敬の眼差しだ。

 褒めて? うん、褒める褒める。
 それ重くない? 持とうか。
 晩飯のメニューを考えないと。

「おっしゃあ、まだ居たあああ!」
「ビーチだぜ、おりゃああああ!」

 不意に飛来した魔女……ヘリヤとシャンタル?
 水着姿でホウキに跨って、アグレッシブな。

「チッ……あ、いえ」

 ん? フレスさんが舌打ちした?
 仕事は任せて来たと言っていたが、実質押し付けたのか。
 この先生も案外、茶目っ気があるな。

「へいへーい! どーよ水着、褒めろ褒めろー!」
「ってゆーか、何でフレスたん、まだローブなのさ」

 フレスさんは陸で子供達を見守ってくれていて。
 普段通りの魔女ローブ姿、なのだが。

「な、何でって何がですか」
「授業の後で、こそこそ準備してたじゃん」
「さては、その下が水着だっ!」

 ずばっ。ぶるん。

 ヘリヤとシャンタル、両脇からフレスさんのローブを掴む。
 掴んでホウキで飛び上がって、強制脱衣。
 フレスさん、確かにローブの下は水着だったのだが。
 引っ掛かったのか、ビキニの上が取れてしまって。

「あ、あっ、わあああ! ぎゃーっ!」

 慌てたフレスさん、
 両手で俺の顔をべしべしべし。
 痛っ、ちょ、おち、落ち着いて。
 俺の目より自分の胸を隠してくれ。
 俺は目を覆いながら音を拾う。

「ひょーう」
「うひょおー」

 喜んでるのは誰だ。イェルマインとエリックか。
 まるでスケベ親子だ。
 悪い影響までジワジワ受けて来ている感。
 船員達の方からも歓声とか口笛とか。

「こらー、男子!」
「見るな! 散れ! シッシッ!」

 トゥーリカとレーネが少年チームを追い散らしている。
 ゲラゲラ笑っているのはイェンナとアンヌ、ティルア。

 やがてガヤガヤも収まって来て。
 残るはフレスさんの息遣い。
 フレスさん、落ち着いた?
 もう目を開けても大丈夫?

 目を開け……ノー。まだ手ブラ。
 シャンタル、早く水着を返せ。
 通信魔法で催促する。

「す、すいません。とんだお目汚しを」

 いや、そんな、お目汚しだなんて。
 フレスさんはお綺麗ですので。

「あ、や、わああ、恐縮です。デヘヘ」

 一応は落ち着いた様だが、デヘヘって何だ。

 とんだハプニングだったが、改めて帰還準備。
 置き去られ移民達は連れて行く。
 船員達も亜人種を気にしなさそうではあったのだが。
 母親達の方が海洋の魔物に不安を感じた様だ。

 子供達の方は、戦いを見て少し意識が変わったか。
 帰還希望者だったセリムが、一緒に戦いたいと。

 ともあれ、移動開始。
 農村までは港町に設置したポータルで戻る。
 先の話は戻ってからにしよう。



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