黒鷲の旅団 >20日目(15)スローって何だっけ


黒鷲の旅団
20日目(15)スローって何だっけ

「何だっけ、これ。
 ケンタロ……ロス?」

 ティルア、惜しい。
 ケンタウロス、だな。

 村人達に呼ばれて出向いた所。
 畑の柵に引っ掛かっていたのは、半人半馬の男が4人。
 柵を乗り越えた所で、大小の落とし穴にハマっていた。
 仕掛けたのはヘルヴィ達か。
 褒めたら調子こいて掘りまくっていたらしい。

 ケンタウロス達、軒並み転倒しているのだが。
 周囲に取り落とした武器が散乱している。
 武装してのご来訪。穏やかな理由ではあるまい。

 まあ、まずは情報を貰おうか。
 他にも仲間は居るのか。目的は何だ。
 素直に喋らんだろう。さっさと自白魔法を掛ける。

 どうやら連中は、傭兵を生業とする半馬の部族らしく。
 ランツクネヒトとモンゴル騎兵を合わせた様な連中だ。
 規模にして300人程度。女子供も居て、戦闘要員は200ほど。

 戦争が一旦落ち着いた現状。
 雇用主が戦死した事もあって、契約を解除された。
 食うに困った連中は略奪を開始。
 戦後処理の終わらないドサクサを狙っている。

 略奪……狙いは食料、金品、あと女と子供。
 誘拐まで企てていたとは酷い連中だ。
 憲兵に突き出すか、見せしめに吊るそうか。

「ま、待ってくれ。あんた黒鷲だろ。黒鷲団」
「亜人には甘いんじゃなかったのか。話が違う」

 俺達の事を知らないでもない様だが。
 どこで何を聞いて来たんだ、この連中は。

 亜人種なのを理由に咎めるつもりは無いが。
 それは亜人種なのを理由に、罪を軽くする話でもない。
 悪い奴は悪い。亜人でも人間でも、犯罪者は犯罪者だ。

 それでも、腹を空かせた仲間を残して来ていて。
 同情する余裕が無いでもない。
 今回に限り釈放。食料を持たせて帰らせる。
 しかし今度襲って来たら、問答無用で撃つからな。

 4人を言い包めるだけ言い包めて、放逐して。
 どうなるかしら、とアンヌ。
 連中のボスないし首脳陣の気質次第だろうな。
 恩に感じるか、ナメられたと怒るか、逆に侮って来るか。

 より悪い方を想定して、早々に備えよう。
 悪い方。小さからぬ規模の襲撃があると想定して。
 村の北側に石柱魔法から城壁を敷く。
 馬防柵、落とし穴、いつもの茨バリケード。
 可能ならバリスタやカルバリン砲も欲しい。

 そんなタイミングで……雨がポツポツと。
 この陰りは襲撃側に都合が良い。
 防備、設営は急がないと。

 手伝うよ、とユッタ。
 しかし、子供達に風邪を引かせたくもない。
 一度、屋内へ……凄く残念そうな顔。
 あー、待て。分かった。ちょっと考えてみよう。

 防音魔法と同じで、水を弾ければ良い。
 作った時のレシピを改編してみる。
 水魔法から『水』と『遮る』の遮光魔法。
 障壁、結界、防御……隠密は要らないか。
 水滴を弾くのに反射魔法を取り入れてみる。

 生成は防水魔法。初級はウォーターレジスト。
 帽子やケープマントが水を弾く様になった。
 完全防水ではない様だが、短時間なら大丈夫だろう。
 そして短時間で仕上げなければ。

 分担。ジュス姉さんはハミルトンの店へ。
 セリムとルステムの小銃を受領。
 あと、大型兵器の在庫を見て来て欲しい。
 バリスタがあったと思うが、他にも何かあれば。
 運搬の手伝いに、ヘリヤとシャンタルも向かってくれる。

 アンヌは新人トゥリンとヒュリヤを引率。
 カーラの仕立屋で基本装備、旅の装いセットを手配。
 新人2チーム、一旦こちらのセットで揃えて貰う。

 新生従者隊セットは刺繍とかで手間が掛かる。
 フリーダ、ルジェナ達のから8人分。
 資金を渡すので、発注だけ済ませておいてくれ。

 防壁の作成は石柱魔法から。
 数人連携でも何でも、使える者は取り掛かって貰おう。
 村の方から順に3列作っていく。

 それとは別に、先端を尖らせた長い枝を多数用意。
 片側を地面に刺して突き立てる。並べる。
 逆茂木とかセルブスとか呼ばれる簡易の馬防柵だ。
 材料は植物魔法から作成。
 手隙の者でどんどん立てて行って貰う。

 石の防壁の1列目が完成した頃、遠目に騎馬が2頭。
 騎馬……ケンタウロス、だな。
 見ていると逃げて行った。偵察だろう。
 探知反応は中立。友好的ではない。

 偵察をそのまま帰らせて。
 これで多少なりとも対策しているのは知れたハズだ。
 いきなり正面から全軍突撃もあるまい。
 向こうが対応を考える間、時間が出来る。

 対策。何もしない、という結論に至ってくれれば良いが。
 希望的観測は損害を増す。悪い方を想定して備える。
 連中では攻め様が無い所まで防備を固める。
 犯罪でも何でも、そもそもさせないのが一番だ。
 結果的に何も起こらなければ、それはそれで良い。

 逆茂木をロープで結び合わせて固定して。
 配置した石柱を城壁の形に錬成し直して。

 まったく、忙しいな。

 農村開発。田舎暮らし。
 スローライフなんて単語も脳裏に浮かんだが。
 どこにスローの要素があると言うのか。

 これと決まった納期があるワケじゃない。
 マイペースに、やりたい事をやる。
 しかし、やりたい事、やるべき事が多過ぎる。
 建築、農地開拓、略奪への備え、人材勧誘……

 子供達の表情にも疲労が見え隠れ。
 交代での見張りを残して、夕食にしようか。

 夕食が済んだら……また作業をしないとなあ。



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