黒鷲の旅団
20日目(18)レッドキャップの事情
「ごめんなさい。ごめんねパパさん。
パパさんと一緒にご飯食べようと思って」
怒りが引いたと思ったら、モロモロ泣くトゥリン。
大丈夫。大丈夫だから泣かないで。
「ダメよ。ちゃんと叱っとかないと。
他の子が真似しても困るじゃない」
両手を腰に当てて怒るアンヌ。
分かったから。言う事はちゃんと言うから。
何だかもう、小さいお母さんの様な貫禄だ。
「ぶっふー! 何それ。照れくさいんだけどー。
お兄っ、おに……に、にいにい、にいにいにい」
『おにいちゃん』を牽制妨害して、喋る途中で撫でた。
何だか変な泣き声みたいになったが、後半わざとっぽい。
「怖がらせて、すまんかったのう。
許しておくれ、お嬢ちゃん」
「わしらとて、好んで子供を殺すでない。
まあ、悪ガキは泣くまで追い回すがな。がははは」
止血を済ませたレッドキャップ達。
噂で聞くより温厚そうに見える。
平時、人間以外には、そこまで敵対的ではないのだろうか。
この分なら、子供達と引き合わせても大丈夫だろう。
レッドキャップ達6人を夕食に招く。
ぼちぼち寒そうな花人達も引き上げさせよう。
見張りは再生した骸骨騎士団を中心に頼む。
劣勢だった汚名を返上すると言って張り切っている。
「あっ、帰って来た!」
「ごはんっ、ごはんっ♪」
「ふぶぉっ!?」
「うぉえうむぐもぐむぐ!」
屋敷に戻ると、出迎える子供達。
ティルアとツェンタは先に摘まみ食っとる。
落ち着け。いいから落ち着いて食え。
夕食のメニューは?
ヘリヤとシャンタル、レストラン気取りで紹介してくれる。
貝と野菜と小っちゃいカニのグラタン。
窯焼きでグラタンか。普段より頑張ってる感。
マリナに加え、マイナさんも料理方面でハイスペック。
あと、大小の魚のフライ。
リリヤがいっぱい採った奴。
いつものフライドポテトも並んでいる。
カロリー高めだが、みんな沢山遊んだから丁度良いだろう。
よく遊んで、よく食べ……言うまでもないか。
もうみんなして、モリモリ食べ始めている。
「なかなか良いモン食わしとるなあ」
「おうおう。子供ら、よう笑っとる」
「悪い方の噂はガセネタじゃったかな」
「ちいと親近感って奴じゃな」
レッドキャップ達、俺の悪い方の噂を聞いていて。
親近感、というのは?
どうも話を聞く限り、レッドキャップ。
神聖教会に貶められた過去がある様だ。
彼らは元々、妖精界の傭兵みたいな物らしい。
小さいが強靭な身体を持つ、恐れ知らずの妖精戦士。
神聖教会勢力もまた、繰り返し版図拡大を阻まれた。
その並々ならぬ戦果を危険視されたのだろう。
悪評を流され、方々で追い立てられ。
挙句、隠れ里を特定されて襲撃されたのだと。
女子供を殺され、怒り狂ったのは彼らの先達だ。
教会勢力と血みどろの抗争を繰り広げた。
誰が望むまでも無く、その帽子は返り血で染まったという。
因縁は深く、今でも散発的に抗争が続いているそうな。
強力な敵意は、一族の非戦闘員を守る為。
隠れ里に近付いた者は生かして帰さない。
悪い噂は流されるままに流す。
顔を合わせただけでビビってくれるなら楽な物だと。
恐怖を煽って遠ざけるのは分かるが。
しかし、危険視され過ぎても退治屋が来ないか?
「そこは、ほれ。帽子さえ取っちまえば。
わしらドワーフかレプラコーンと大差無いでな」
そんな簡単な偽装手段があったのか。
人間は見た目で判断するからなあ……
ドワーフとか見たら、本当にドワーフか気を付けないと。
豪気な彼らだが、戦闘要員は少数精鋭。
敵が大挙して押し寄せて来るなら、集落を移転する。
だから教会のシンボルめいた物を見聞きしたら一時撤退。
襲撃を警戒して集落移転に掛かったりもする。
なるほど、伝え聞く行動様式と矛盾はしない。
信仰に跪かないが故に、少なからず歪められた様だ。
拡散する巨大宗教に飲まれた土着信仰みたいに。
食事を済ませ、休戦の取り決め。案件は3つ。
子供達を狙わない約束で、こちらも命までは取らない。
ケンタウロスの情報と引き換えに、後を追わない約束。
あと、ゴールドのインゴットを1つ渡す。
手付金代わりだ。何かの折には手を貸して貰う。
「こりゃ助かる。わしらの村も裕福とは行かんでな。
吸血鬼の伯爵様も、すまんかった。
血吸い虫などと無礼な事を言ったわい」
「何、詮無き事。戦場では怒りを誘うのも手練手管よ。
あまりお気になさるな」
吸血鬼側とも改めて和解。
交渉が纏まって、帰途に就くレッドキャップ達。
俺と吸血鬼チームで見送りする。
と、エントランスで入れ替わりに骸骨さん。
伝令に来た骸骨騎士ヘルマンから報告。
ケンタウロスの斥候を見つけて捕虜に取ったと。
分かった。後で見に行く。
先に子供達を寝かしつけたい。
奴らへの逆襲は、子供達抜きでやる。
酷い事にならんとも限らないからな……
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