黒鷲の旅団
20日目(19)イーブンな言い分
『ヘリヤと、えー……クラウスさんチーム。
配置に就いたよ。どうぞ―』
『同じくシャンタルたんでーす。
ルドルフさんチームもスタンバイ、おっけーい』
ヘリヤとシャンタルから報告。
どうにか布陣が間に合った様だ。
前方から蹄の音が多数。探知反応は200と少々。
ケンタウロス、どうやら本隊と見える。
農村襲撃に本腰を入れたのだろう。
後方にはイェルマグ隊の大人チーム。
木陰から、今駆け付けたみたいな挙動で姿を見せる。
牽引しているのは捕虜、斥候のケンタウロス2名。
連中も気付いたのか、進軍を中止。
こちらは拡声魔法で呼び掛ける。
話し合いがしたい。応じるなら捕虜は解放する。
歩み出て来るのは3人……3頭?
ケンタウロスの数え方がよく分からんけれども。
それぞれ部族だか派閥だかを纏める長だという。
蛮族戦士風の井出達は『ブラックロック』のアロイス。
騎士風の甲冑騎兵『ブルーシュバリエ』のヴィクトリエ。
派手に着飾った剣士集団『レッドハード』のゲープハルト。
まあ、内訳はこの際どうでもいいんだが。
こちらの要望としては、農村への襲撃を中止して欲しい。
食料の提供ぐらいなら応じても良い。
連中の要望は、略奪しなくても村には入りたい。
非戦闘員が安心できる、落ち着いた居場所が欲しい。
分からなくはないが、このまま全員押し掛けるのは困る。
連中に対して村人の方が遥かに少ない。
実質的に占領状態になってしまう。
こちらが難色を示すと、焦れて来たのだろう。
連中は口々に不満を零す。
「ヒヨりやがって。人間の肩を持つのか」
「そうだ。亜人の味方ではなかったのか」
「嘘つきめ!」「嘘つき!」
勝手な言い分だな。日和ったとは心外な。
俺の方針は何も変わっちゃいない。
迫害されている亜人、子供に手を貸している。
それは迫害の仕返しに迫害したいワケじゃない。
単に迫害を止めて欲しいだけだ。
亜人救済を掲げて神聖教会と全面戦争をする気は無い。
奴らを根絶するのは現実的ではないだろう。
加えて、例え一部でも融和を望む派閥の未来を閉ざす。
子供達の未来の選択肢を狭める事にもなる。
無法者まで無条件に守ってやるのは無理だ。
守ってやるからには規則を守って貰う。
規則を守れないなら、俺も守ってやれない。
集落を襲って略奪するなんてのは論外だ。
そもそも、もっと違った生活は出来ないのか。
傭兵はナメられたら終わりだと。
別に終わりじゃないと思うけどな……
素行が悪いから非戦時、警備兵みたいな仕事すら来ない。
クランだかトライブだかの威信は、同業者の間の話だろう。
もっと広い世界と折り合いを付けないと、先が無い。
それでも人間による迫害は忘れないと言う。
傭兵、不遇な扱いを繰り返されて。
非戦闘員を時に人質、あるいは見せしめに殺されて。
報復だ。人間の村を襲うのだと。
『彼らを襲った人間』の村でもないだろうに。
それでも報復を是とする……ならば。
俺の報復もまた、是とされて良い。そうだな?
こちらにも憤りがある。
情けは既に掛けてやった。にも拘らず。
調子に乗って刺客を送って寄越す。
俺はともかく、子供達まで標的にして。
それでも尚、俺は警告した……警告したからな?
交渉決裂だ。踵を返して連中に背を向ける。
隙だ好機だと思ったか、追って来る気配。
「馬鹿め、おめおめ逃がすと思ぶおあっ!?」
爆音と共に吹っ飛んで来たのはヴィクトリエ。
俺を追い越して右斜め前の草地に墜落した。
発動は設置魔法罠、燃料気化爆発魔法。
複数連結の連鎖爆裂。
直線上に連続発動して帯状範囲を焼き払う。
無策で待ち受ける訳が無いだろう。
ここは既に地雷原だ。あらかじめ設置させて貰った。
魔女達が用意してくれた魔力薬を大量投入。
俺の魔法力、フルゲージをたっぷり20本分だ。
後退しては別の罠が発動。
左右に迂回しては骸骨騎士団の奇襲を食らう。
上空からは大魔女フレスヴェーナの魔法監視。
位置情報を受け取って、俺とイェルマインが狙撃。
マグダレーナ率いる騎兵隊が遊撃、追撃に出る。
瓦解して行くケンタウロス部隊。
これじゃレッドキャップ6人の方が手強かったぞ。
「くそっ! 前だ、突破しろ!」
「させません! 煌弓天破!
ヴァーミリオンズ・ミリオン!」
攻勢に転じるアロイスにマグダレーナが先手。
何か弓の必殺技?をぶっ放して、爆発した。
ケンタウロス達が宙を舞っている。
やがて抵抗も無くなり……まだ息があるかな。
アロイスとヴィクトリエ、他数名を捕縛。治療。
殺せと言って暴れるが、殺さんよ。
恩に仇で返したと証言して貰う。
残る非戦闘員達とも折り合いを付けないと。
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