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黒鷲の旅団
20日目(20)講和とその先へ

「ま、待て! 待ってくれ!
 そうだ、話し合おう! な、な!」

 ケンタウロス非戦闘員のキャンプへ到着。
 頭目の1人ゲープハルトの姿があった。
 どこをどう逃げたか、逃げ延びていたのか。
 包囲陣形を見直さなきゃならんかな。

 それはそうと、話し合い。
 虫の良い申し出だが、落し所としては妥当か。
 この期に及んで言い分があるなら、聞いてみよう。

 このゲープハルトの提案が、大したクズ提案で。
 敗者は勝者の物だからと、非戦闘員は俺にくれる。
 で、自分達の事は見逃して欲しいと。

 いや、何も奴隷にしようってんじゃないんだが。
 他に差し出す者も無いしさ、とゲープハルト。
 こいつ、詰まる所はお荷物を押し付ける気だな。

 残存するケンタウロス部族。
 降伏した戦闘要員、アロイス達を含め12名。
 逃げおおせたゲープハルトと供回り4名。
 残りの非戦闘員が86名。

 ゲープハルトに限らず、去りたい物は去って良い。
 賠償金とかは、欲しいっちゃ欲しいのだが。
 そんな物を払う余裕があったら、そもそも略奪しないだろう。
 今回は講和自体を戦果としよう。

 ただ、集落を諦め、もう刺客を寄越さないと約束してくれ。
 その上でなら、こちらも遺恨にはしない。

 しかし念を押すが、これは子供達に被害が無かったからだ。
 誰か殺されていたら、少なくとも戦闘要員は皆殺しだ。
 よくよく肝に銘じた上で、行ってくれ。

「へへ、すんませんね……へっへっへ」

 ヘコヘコ頭を下げるゲープハルトと手下4人。
 足早に去っていくので、まあ、こいつらは放置。
 野盗の襲撃とか、不安要素はこいつらに限った事じゃない。
 引き続き警戒していくまでの話だ。

 あとは、アロイス達もこの場を去る様で。
 しかし何だかコソコソしているな。
 女子供に気付かれて、あっ、酷い、最低、といった声。
 アロイス達は振り返らず、そそくさと退散した。
 こいつらもまた、薄情な連中だ。

 で……困っちゃうよな。

 残されたヴィクトリエと供回り4人と、非戦闘員達。
 その非戦闘員、実に86名。女や子供、老人達。

「奴隷の身分でも構いませぬ。
 どうか、庇護下に置いて下さらぬか」

 歩み出て来たのは年老いたケンタウロス。
 長老スラヴォミール。非戦闘員の纏め役だという。

 別に奴隷扱いする気は無いが。
 ともあれ、こちらに従う、と……
 他の者達に異論は無いのか?

 女達は口々に、逃げた男達のクズっぷりに愛想が尽きたと。
 子供達に不満は? 例えば俺を誰それの仇だとか。
 ヴィクトリエ曰く、子供は皆、一族の子。
 性的にオープンなのか、誰の子か分からん子も多いらしい。

 まあ、憎まれスタートでないのは良いとして。
 単純に養うには数が多過ぎる。
 自分達の力で生活出来る様になって欲しい。

 自活する。労働力を提供して、糧を得る。
 武器の扱いは分からない……としても。
 半馬人の労働力は、文字取りの馬力だ。
 鞭打たなくても意思の疎通が出来る、馬相当の労働力。
 男手に限らずとも、需要はある。必ず。

 農村の手伝い……では、難色を示すケンタウロス達。
 彼らの身体構造は、畑に種を植えるに向かない。

 いや、何も全部ケンタウロスでやらなくて良い。
 手作業は村人に任せて、水や収穫物の運搬だとか。
 足の速さを使って配達や伝令みたいな事も出来るだろう。

 そうだ、もう、いっその事。
 運搬業者みたいな物を立ち上げてはどうか。
 ケンタウロス運送、みたいな。

 無茶な量を運んだり、無茶な距離を走らせたりしない。
 中継点を置いて、伝馬制、駅伝制みたいにする。
 農村や港町、いずれは鉱山町まで。
 ここら一帯の物流を一手に引き受ける。
 発展途上の地域だ。ライバルもそう居ない。

 元気な若者や女達に働いて貰って。
 身体の弱い者は中継点の管理、来客の対応を行う。

「あたし、やってみたい」
「大丈夫かな。盗賊とか」
「子供はどこに預けたらいいかしら」

 ケンタウロス達、ざわざわ。

 事業が軌道に乗るまではサポートもする。
 不足の物は順次取り寄せ、設置して行こう。
 運搬業の案1つに拘らなくても良い。
 他にもアイディアが上がったら試してみる。
 とにかく、戦争に依存した放浪生活を止められたら。

 ひとまずは、農村側。
 未開拓な一角を駐留地として貸し出す。
 林があるので、雨露は凌げるだろう。

 雨……雨が止まないな。
 元々こんな気候、季節だったか?
 それとも魔法的な何かの作用だろうか。
 魔王で水の女神な人の影響もあるだろうか。

 夜も遅くなって来た。
 川と農地を軽く見回って帰ろう。

 そんな折、神人用ウインドウ表示。
『移住希望者が来ています』……は良いとして。
 場所が、鉱山町……マジか。この時間にか。

 何か不穏なものを感じるが、仕方がない。
 フレスさんが俺をホウキの後ろに載せてくれて。
 ヘリヤとシャンタルが追従。
 とにかく様子を見に行ってみよう。



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