黒鷲の旅団
20日目(21)雨とトカゲと転生者
「あっ……これ、いいですね。
わあー。良いです良いです。生き返るぅー」
魔女のホウキで飛行中。
雨に晒され、フレスさんの身体が冷たくて。
後ろの俺は彼女に断熱・温熱魔法を付与。
気に入ったのかグネグネされてしまった。
「ややっ、フレスたんが幸せそうな顔をしている」
「さては何かエッチな事だなっ」
ヘリヤとシャンタル。違うから。
お前らにも掛けてやるから、こっち来なさい。
ああ、そうだ。思いついた。
治癒、温熱、活力、鎮静、鎮痛、整脈魔法。
派生、温癒魔法ホットヒール。
癌治療なんかに使われる様な専門技術じゃない。
せいぜい温湿布みたいな効能だが。
それでも、冷えや肩こりぐらいには効きそうだ。
魔女とホカホカ。ホカホカ魔女。
しまった、メガネが曇って……曇ってない?
フレスさん、メガネに曇り止めか。
防霧魔法アンチフォッグ。
流石は大魔女様。生活魔法はお手の物だ。
ちゃっかり伝授して貰う。
「あっ、居た居た。あれじゃない?」
シャンタルが指差すのは、林間部。
焚き火の様な明かりが見える。降りてみよう。
降りてみると……少々剣呑な雰囲気。
人間の2人連れと、リザードマン1人。
焚き火を挟んで睨み合っていた。
人間の方は、商人かな。
剣を構え帽子を被った大人の男と。
彼に庇われつつも、身構えた様子の少年が1人。
その足元にはスライムらしい塊が3つ。
小さなオオカミ1匹、さらに小さい飛竜1匹。
しかし2人はこいつらを気にしていない。
敵対していない。ペット、あるいは使い魔だろう。
リザードマンの方は、表情が分かり難いな。
腰の鞘の剣に手を掛け、しかし抜いてはいない。
積極的に戦いたいワケでもない様子。
と、リザードマンがこちらに気を取られて振り返り。
好機と思ったのか、商人が意を決して駆け出す。
おい、急に無茶すんな。
「今だ! うわっ!?」
「あれ、そっち!?」
交差する束縛魔法。
シャンタルのそれはリザードマンを捕縛して。
しかし俺のは商人の動きを止めた。
手荒ですまないが、落ち着いてくれ。
悪い様にはしないから。
まずリザードマンだが、単独か斥候か。
下手に仕掛けて惨事にならないか。
話し合いを……あれ、束縛魔法の解除って?
麻痺にはキュアパラライズだが、バインドは?
ヘリヤが解除魔法、マジックキャンセルを教えてくれた。
まだまだラインナップに穴があるな。
さて、リザードマンの思惑は。
後詰が居た場合、こちらに野戦をやる余力はない。
退けと言うなら退くが、どうする。
「俺……た、単独。1人。
名前、チェンバレン。
クロワシ、町、作った。
仲間、なる。なりたい」
……こっちが移住希望者だった。
借り物の町。魔物を住まわせるのは難しいのだが。
俺の従者の方なら受け入れても良い。
先任のレナードやライナスと話が合うと良いんだが。
「レナード……あ、あに、兄者」
同郷だった? 大丈夫だ。会わせてやる。
人間語は得意じゃない様だが、段々に覚えて貰おう。
リザードマンは良いとして、そっちの商人は?
雨に夜間、無理な国境越えをして来たと見えるが。
聞けば公主宛ての密書を預かっているという。
北からの越境、シュテルン側で何かあったかな。
密書とあっては、勝手に見る訳にも行かないが。
まあ、とにかく首都へ連れて行こう。
騎士団に引き渡せば、めったな事も出来まい。
建設予定地とは言え集落。ポータルがある。
触れてしまえば自由に転移可能になる。
あとは俺の領地を経由すれば一瞬だ。
俺の家を通すに当たって、登録が要るか。
商人フベルトと……少年の方は身内じゃないのか。
行きずりだと言うテイマーの少年、トール。
友人を探してルーマニアを目指していたらしい。
「あ、あの、貴方も転生者ですか?
リザードマンってテイム出来るんだ」
トール少年が訪ねるが……転生?
異世界人、ではあると思うが。
神人の解釈としては少し違う気もする。
「じゃあ、転移者かな?
俺、過労で死んじゃったらしいんですよ。
気が付いたらこっちの世界に居て」
この少年……何を言っているんだ?
『7th Earth』は、俺達の世界から見たらゲームだ。
電脳の人格コピーを介したオンラインゲーム。
仮に異世界だとして、元の身体は元の世界のまま。
電脳コピー体をオンライン上から送り込まれている。
しかし、違う経路で入って来ている奴が居る?
試しに聞くが、お前さんはどこの出身だ?
「あ、俺、日本って国の……」
そこまで聞いて十分だった。
ああ、何てこった。
俺達の世界、高度電脳社会に今、日本という国は無い。
昔あったのは聞いているけれども。
時間軸が、あるいは世界線だかが違うというのか。
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