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黒鷲の旅団
20日目(22)交差した世界で

「あの、大丈夫ですか? 何か問題が」

 ああ、いや、気にしないでくれ。
 君が、あんたがどうした話ではないんだ。

 商人フベルトを城へ案内、騎士団に預けた後。
 トール少年はフベルトへの同行を辞退した。
 城での聞き込みは彼に任せ、街で友人を探したい。

 トールは黒鉄等級の冒険者。ギルド権限で宿を取る様子。
 フレスさんもギルドに用事があり、俺も同行しよう。

 で、その道すがら、彼に話を聞いたのだが。
 どうしても時系列が合わない。

 トールの転生前。獣医『青沼透』氏。享年24歳。
 彼の死亡時刻は西暦2042年となる。
 その時点で日本国は存在していた。
 守護する女神に頼めば、垣間見る事さえ出来ると言う。

 他方、俺の元居た世界。
 日本という国が消滅したのは、確か2027年だ。
 俺の生まれるより遥か昔の話になる。
 社会的にというより物理的に消滅してしまった。
 電脳化社会以前の話であり、垣間見ようにも現物が存在しない。

 それで……いきなり心を覗くと言うのも気が引けたのだが。
 しかし、読心魔法を使った限り、彼の証言に偽りは無い。

 人格コピーを保存しておいて……ではないか。
 彼の生きていた時代は、電脳化が実用化されていない。

 並行世界、パラレルワールド。
 俄かには信じがたいが、それらしい何か。

 まあ、だとして何が出来るワケでなし……多分。
 当面は気にしても仕方が無い事だろうか。
 こっちから、そっち、別の世界に行けるワケでも……

 ……ワケ、でも……うーん?

 まあ、気には留めておくとして。
 夜も遅いが冒険者ギルドへ。

 フレスさんの用事は、魔女協会として薬の納品。
 ギルドの売店で冒険者向けに売るポーション等。
 魔法のカバンから次々に薬瓶を出して行く。

 明らかにカバンの容積を越えた質量の品々が出て来る。
 魔法仕掛けと分かっていても、何だか面白い光景だ。

 それと、発行していた依頼の進捗状況確認。
 フィリッパの両親の捜索……
 そうか、依頼を出すという方法もあったか。
 尋ね人の張り紙はこちらでも作っていたのだが。

 すいません。気が付かなくて。
 報酬はこちらで用意しますので。

「あっ、いえ、そんな。
 フィリッパさんは私にとっても教え子です。
 少しは力にならせてください」

 頼りになるお姉さん先生、大魔女フレスヴェーナ。
 頼るばかりでなく力になりたい。
 新魔法探しなんかも、もっと頑張らんと。

 それはそうと、フィリッパの両親探し。
 今の所、進捗らしい進捗は無い様だ。

 それと……空振りはこちらだけではなくて。
 トール少年も、宿を取り損なってしまった。
 遅い時間、外部の冒険者……満室だ。
 支部の客室から提携している宿屋まで。

 満室、と。そうかな。探知魔法。
 幾つか空き部屋がある様にも見えるのだが。
 誰かが長期契約でもしているか。
 そうでなければ……宿泊拒否?

「ボクがテイマーだから、かな。
 えー、あー、まあ、よくある事ですよ……あはは」

 諦めた様に笑うトール少年。
 肯定もしないが否定もしないギルド職員達。

 魔物連れ、怖い。手下に戦わせる、軟弱者だとか。
 荒くれ剛腕冒険者達の世界は、テイマーに厳しい様だ。

 主への冷遇に不満か、低く唸るリトルウルフ。
 沸々と細かく泡立つスライム達も、どこか不機嫌そうで。
 何となく感情が分かるのは、俺の方の翻訳スキルか?
 気持ちは分かるが、落ち着いてな。
 話し掛けると、一斉に振り向かれてしまった。

 しかし、どうするかな。
 魔女協会は男を入れないのが原則で。
 うちに連れて行くんでも、男子を嫌がる子が何人か。
 知己は東下層区のボロ教会……も、今は苦しいか。
 朝食を出す余裕が無いかも知れん。

 ああ、そうだと思い立ち。
 東区の酒場、女将のエノーラを訪ねる。
 俺の使っていた物置部屋は空いてるか?

 ……俺が出た時のままになっていた。

 何となく片付けられなかったという。
 何だか寂しい思いをさせてしまっているだろうか。

「良いんだよ、気にしないでおくれ。
 それより、まあ、可愛いお客さんだね。
 悪さしない分には、魔物連れでも気にしないよ」

「すいません。宿までお世話になってしまって。
 何かお礼が出来ると良いのですが」

 それぞれに、また寄らせて貰うと約束して。
 フレスさん……ん? フレスさん、大丈夫か?



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