黒鷲の旅団
20日目(23)大魔女フレスヴェーナ、忠誠を誓う?
「…………しゅいましぇん」
フレスさん、ふにゃふにゃ。
居合わせたガイゼル隊のベデリアに酒を勧められて。
酒と気付かずに、グイっと飲んでしまった。
そしてフレスさん、お酒が全然ダメらしい。
横向きにヘタり込んでしまった。
「や、ホントごめん。そんな弱いなんて知らなくて」
「だ、だ、大丈夫でしゅるるる」
語尾がもう全然ダメっぽいんだけれども。
立てる? 無理か。負ぶって連れて行こう。
魔女協会なら酔い覚ましの薬もあるだろう。
負ぶさると、にゅふふんと変な笑いが聞こえて来て。
何だ、随分ご機嫌みたいだな。
酒、強くは無いが、嫌いでも無いのだろうか。
フレスさんを負ぶって魔女協会へ。
転移魔法でも良かったが、少し夜風に当たろう。
幸い雨もあがった様だ。
フレスさ……すりすりすりすり。
振り返ろうとしたら頬擦りされた。
ちょ、おい、何やって……
「んふへへへへへ」
子供の様にニヘラと笑う。
本当に、どうしてしまったんだ、
ストレスでも溜まっていたんだろうか。
思えば、大魔女フレスヴェーナ。
おっとりした物腰でも、魔女協会を束ねる重鎮だ。
真面目な印象もあり、しかし自由な風潮の魔女達。
門弟の世話には日々手を焼いているだろう。
魔女協会。恵まれない女達の拠り所。
限られたリソースをやり繰りして。
技術や知識を糧に繋げて……苦労は少なくない。
俺なんかが手を貸す前からだ。
子供達の事も気に掛けていてくれている。
俺としては、とても頭が上がらない存在だ。
たまの奇行ぐらい、目を瞑ろう。
いつも、すいません。
それから、ありがとうだな。
俺はフレスさんを尊敬しているんだよ。
「ハインしゃんこしょ、しゅごいのれすよー。
しゅきー。結婚したいー。ひゅーひゅー」
何やら小芝居を始められた。
一人二役っぽいそれは、誰が誰に言っている設定なのか。
「こんなオバしゃんでは魅力無いでしゅか?
結婚いやー? しくしくー」
まさかの自分自身だった。
とても素面で同じ事を言えるとは思えんな。
酔っ払いに口でしくしく言われても困るんだが。
まあ、その、フレスさんは魅力的な女性だよ。
俺が結婚を考えていないだけさ。
子供は好きだと……まあ、嫌いじゃないが。
俺の血を分けた子供が欲しいとは思っていない。
自分が生きた証は、何も血統だけじゃない。
俺の技と知識を引き継いだ、俺の子供達。
本当に、みんな我が子の様に思っているつもりだ。
誰も欠ける事無く大人になって欲しい。
欠ける事なく……それには、俺はまだ不十分だな。
戦略に徹すれば、個々の相手が出来なくなる。
前へ出て戦えば、戦略の方がお留守になる。
魔王軍の捕虜、奴隷兵士達も随分と死なせてしまった。
敵対していたとは言え、女子供だって結構居たんだ。
もう少し助けてやりたかったんだが。
悪意が、その矛先が、子供達に向けられる。
まごついてる間に、子供達が死ぬ。
落ち込んでいる暇も無い。
俺1人では、とても実力不足だから。
しかし実力は簡単に伸びる物でも無いのだから。
俺1人でやらなくても何とかなる状況にしたい。
だから、今の俺が優先すべきは、俺の嫁じゃなくて。
子供達を守り育てる、その為の協力者だ。
参謀、統率者、相談役、教育者……何でも。
魔人姉妹やイェルマイン達、公主と仲間達。
それから、勿論フレスさん達も。
これからも頼りにさせてください。
そう言うと、フレスさんはモゾモゾ。
俺の背中から降りて、ちょこんと座る……どうした。
「我が生涯を捧ぐに足る英傑と見込みました。
不肖、大魔女フレスヴェーナ。
真名をイレーネ・バルヒェット。
陰日向と御身のおしょばに*%/&$#▽■」
え、ちょ、何て? 最後の方、よく聞き取れなかった。
フレスさん? おーい……
……動かない。寝てる?
意味深な事を唐突に言うだけ言って寝るんじゃない。
まったく……ホント頼みますよ。
本当に頼りにしているんだから。
再びフレスさんを背負って魔女協会正門へ。
ヘリヤとシャンタルが出迎えてくれた。
すまん。あと、任せた。
明日も領地見回り。子供達の鍛錬。
ケンタウロス達の面倒も見てやらないと。
やる事が多くて大変だ。
もっとスロー然としたスローライフがしたいモンだが。
どれもこれも、後回しにしていられないからな……
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