黒鷲の旅団
2日目(5)小さくて大きな一歩
「よーし、通って良いぞー」
廃品の山を荷車で運ぶ。
今回、騎士剣2本以外は回収無し。
騎士団長がまた気を利かせてくれた様だ。
正直に提示したのも良かっただろうか。
少し遅い昼食。
奢ると言って子供達も誘う。
酒場に戻ると、困惑したサンドラちゃん。
「は……は……はーれむ?」
人聞きの悪い事を言うな。
何も、趣味で集めたんじゃない。
成り行きだ。
「んまい。お代わり」
「ちゃんとしたご飯は久しぶりだよ〜」
「うちのはちゃんとしたご飯かい。
待っといで。たんとお食べ」
イェンナとフェドラの感想。
聞いて上機嫌な女将。
最初は、亜人種の子供なんて、と。
少々渋っていた女将だったが。
金なら出す、悪さしない様に見ておく。
そんな条件付きで来店を承諾。
そしてまあ、美味そうに食べる物だ。
女将は早々に態度を軟化した。
「亜人っても子供は可愛いもんさね。
あたしも子供が居れば、ねぇ……」
女将さん、旦那が行方不明だった。
冒険者になって何年も戻らない。
サンドラを部屋に泊めたりしてくれる。
それも時々寂しい故だろうか。
「いやー、参った参った」
「ありゃあアレだな。賞金首の」
戻って来たのは冒険者ガイゼル達。
聞けば一つ目巨人に追い回されたのだと。
「懸賞金掛かってる奴?
だったら、あんた達の出番じゃないか」
「女将〜、無理言わないでくれよ〜」
「スッゲェ怖いんだよ〜」
「牙とか尖って、ギラギラしててさぁ」
牙、と聞いて、サンドラが顔を上げる。
何か興味が?
サイクロプスの牙は薬の材料になる?
貴重なのか? って、そりゃそうか。
「それだよ!」
「幾らになるかな?」
子供達が声を上げる。
お目当ては賞金か、牙の売却金だろう。
危ないぞと言うのだが。
俺が手伝えば勝てるかもって?
そりゃ、見てみないと分からんなあ。
まぁ、サイクロはまたの機会にしよう。
食事を済ませ、道具屋へ。
弓矢と弾薬を補充し、薬草探しに出発する。
魔法をマトモに使えないサンドラ。
何とかして、レベルの1つも上げたい。
今日はちょっぴり前に出て貰います。
「うじゅ?」
どこか気の抜ける返事。まあ、良いけど。
まず探知魔法。
と、木陰に盗賊が隠れている。
錬成魔法での作成リストにタールがある。
このタールを作って木に放る。
サンドラちゃん、火。炎の魔法。
ぷちっと小さな火の玉が飛んで、着火。
倒し切らんか。俺が拳銃でトドメ。
……どうなった?
サンドラちゃんに解析魔法を掛ける。
経験値バーが半分程度。
恐らく端に行くとレベルが上がるのだろう。
まだレベル1。魔力値、1……1か。
なるほど、厳しいな。
次、ゴブリンと斬り合う。
これは下がってて。
2対1。後退しつつ、片方に神経魔法。
各個撃破に掛かる。
曲刀や小刀を試す。切れ味はまずまず。
刀ほどは斬れないが軽い。手数が増える。
ゴブリンから手斧、袈裟掛けの一撃。
片手剣で受け止め、剣を取り落とす。
好機と見て、大振りが来る……掛かった。
掻い潜って刺突短剣。喉元を貫いて倒す。
振り返ると……サンドラちゃん。
麻痺したゴブリンを杖でぽかぽか殴る。
下がって。タール錬成。
もう一回、ぷちっとファイア。
ゴブリンが炎上。焼死。
と、サンドラが淡い光に包まれた。
レベルアップしたか?
解析。レベル2に上昇。
魔力値は3。3か……
だが、確かに3だ。
1に比べて実に3倍なのだ。
再び炎魔法を試させる。
彼女は杖の先から拳大の火球を放った。
「ふぉっ!?
な、ななな何か、上手くなった?」
そうだよー。成長してるよー。
才能、全く無いでもなかったんだよ。
「ふ、ふふぇへへ……
やった……やった……!」
涙と鼻水だらけで喜ぶサンドラちゃん。
程度としてはまだまだだが。
それでも本当に良かった。
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