黒鷲の旅団
2日目(8)傭兵さんと妖精さん
「おっちゃん、気を付けなよー」
通り掛かったイェンナ。
その手に俺のマネーカード。
取り返してくれたのか。ありがとな。
「え、う、うん……疑わないんだな」
義理堅いのは何となく知ってる。
でへへと笑うイェンナ。
褒められ慣れてない様な。
ブラックマーケットへ足を運んだ。
ほの暗い明り、趣深いのだが。
案の定、治安も良くない様だ。
調度品を見ていた俺は早速スられた。
笑って駆けて行くイェンナ。
彼女を見送って、また買い物へ。
返して貰ったカード……カード。
この辺だけ妙に非仮想感がある。
磁気の代わりに魔力で刻まれる残額情報。
魔法が普及しているなら、そういう物か?
まぁ、普段から銀貨何枚とか持ち歩けない。
便利で良いと言えば良いんだが。
ともあれ、カードで買い物をする。
調度品の店で、趣のあるランプを買う。
ふと、サンドラが駆け出して。
見たらイェンナが隣の露店を見ていた。
何を売って……何、妖精?
助けてと泣いている。
「こんな……え、違法なのでは!?」
「何でもアリがブラックマーケットですぜ」
大魔女様に詰め寄られても余裕か。
店主、闇商人ダルテリオ。
戦時中は奴隷売買も行われるらしく。
法治主義者など、そちらこそ異邦人。
闇市の元締めが黙っちゃいないとか。
大魔女様、への字口。
闇商人、妖精が欲しければ金を出せ、か。
幾らだよ。10万? 仕方ないな……
サイクロの撃破報酬が消し飛んだぞ。
首の賞金が別に出るから良い様なものの。
助けた妖精。名前はトゥーリカ。
帰って良いと伝えるのだが。
妖精だって義理堅いんだよと言う。
必至な様相でついて来る。
何か出来る? 魔法とか。
しかし使わせてみると、サンドラ初期型。
ぷちっと小さな火が出る程度で……
「いや、その……調子が悪いだけだって!
絶対役に立つよ! ホントだよ!」
その辺はまた改めてだが。
まあ、良いか。
少なくとも偵察役や話し相手にはなる。
よろしく妖精さん。俺は傭兵さんだ。
似てるね、と、ちょっと笑ってくれた。
トゥーリカを一行に加え、散策を続ける。
興味が湧いたかイェンナもついて来た。
しかし本当に雑然としているな。
本通りはまだ、雑然としているだけだが。
裏通りの方には、更にヤバそうな気配。
怪しい目の男、女……何かの唸り声とか。
「あらぁー良い男♪」
「お兄さん、遊んでかなぁい?」
娼婦さんに声を掛けられた。
フレスさんが咳払い。追い散らす。
また今度ねと手を振られてしまった。
「あ……す、すいません。
お邪魔でしたか?」
フレスさん、何故かドギマギ。
いや、どの道断るつもりだったから。
遊ぶ様な金なんてもう無い。
みんなトゥーリカに使ってしまった。
残る予算は……と。
見れば、以前に配達した相手。
細工師ミラベル婆さんの露店があった。
編みカゴとハンカチを買おう。
トゥーリカ、これ、お前の部屋なー。
「えっ! お、おおー……えへへへ。
仕方ないなあ、使ってあげよ〜う♪」
トゥーリカ、ハンカチをハグ。
どうやら気に入ったかな。
まあ、住み難かったら言ってくれ。
「お帰りー。あら、妖精だね」
「はーい、初めまして。
可愛いトゥーリカちゃんです。ドヤァー」
酒場に戻るとトゥーリカが女将に自己紹介。
何だ、ドヤァってのは。
ともあれ、サンドラの荷物整理。
宿泊費を払って、俺はまた物置部屋へ。
トゥーリカの宿代も払う。
良いよと女将は言ってくれるのだが。
可能な限り、一人前として扱いたい。
あと……そうだ、サンドラに返さないと。
『初級魔女指南書』を取って来る。
「それだ!」
聞き慣れない大声。
……ん、フレスさんか?
「あ、いや、えっと……失礼。
魔法に興味がおありですか?」
恩を返し足りない様子の大魔女フレス様。
魔女協会の通門証をくれる。
協会にある図書館を使ってくれて良いと。
今度、明るい内にお邪魔しよう。
サンドラは大魔女様と魔女協会へ帰る。
イェンナは……自分で帰れる?
まぁ、気を付けてな。
ふと通知ウインドウ。
コピー元、現実世界の俺から。
削除や再コンバートは無し。
引き続き子供達の力になってやれと。
自分の判断だ。そうするとは思ったが。
憂いが1つ無くなったのは良かった。
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