黒鷲の旅団
２日目（９）出会って終わる話でなくて

　それにしても妙だ。
　このタイムラグは何だろう。
　端末との接続機器を外しつつ。
　俺は首を傾げていた。

　削除無し、の通知を送ったのは昨晩だが。
　届いたのは今、リンク直後だ。

　規約、仕様、ゲームシステム……
　各種ヘルプ項目を閲覧して、あった。
　重課金によるパワープレイ抑制の為の措置。

　なるほど、課金アイテム。
　ライバルとの課金合戦になる。
　ユーザーが疲弊する。
　それを、ここの運営は良しとしない様だ。
　現実からの干渉が一歩遅れるのだと。

　しかし、完全に抑制できる物でもない。
　タイムラグを見越して大金を積む。
　結局、裕福なプレイヤーが優位に立つ。

　その先は看過する、という事か。
　それとも、他に思惑が……

　まあ、考えても仕方ない。
　課金の意味も必要だ。
　運営チームも食ってかなきゃならん。

　……運営チーム、で思い出したが。
　元の訓練に使っていたＶＲゲームの運営。
　その内の１人が消息を絶っている。

　消息を絶ったのはプログラマー。
　敵キャラの思考ルーチンに携わっていた。

　戦闘用ＡＩのプログラマーが失踪。
　何やらキナ臭い感じがする。
　強制コンバート事件とも関わりがあるか？
『7th Earth』運営との接点は……

　残念ながら、ゲーム会社に伝手は無いが。
　この件は少し気になる。
　せめて記憶に留めておこう。

　それはそうと、課金機能。
　何が出来るのか目を通してみる。

　安価な所では、薬や矢弾、補給品の手配。
　戦争中の領主とか買いそうな。

　高価な物になると、小領地や持ち家？
　ポータルからの異空間に私有地を持てる。
　ゲーム内マネーでも買えるのか。
　この課金は必須では無い様だ。

　あとはオーダーＮＰＣ。
　……とは、何ぞや。説明を探す。

　気に入った仲間に出会えない人の為？
　容姿や何かを設定する。
　ＮＰＣを作って雇えるのだと。

　一から生み出すタイプ。
　と、条件で検索するタイプがある。
　後者の方が安上がりな様だ。

　試しに……出て来るかな。

　条件を指定して検索。
『身長：小柄』
『種族：半魔』
『メイン武器：弓』と。

　と、出るのか。
　検索結果にフェドラの姿がある。

　が、注意書き。
『既に従者として雇用されています』。
　雇用者の欄に俺の名前があり……何？

　いつ雇用扱いになったのだろうか。
　給金の頭割り辺りかな。
　少女従者隊（仮）が最早（仮）でない。

「ウェッヘッヘ〜。
　旦那も隅に置けないっすねぇ」

「置けないっすなぁ。
　んーふーふー」

　背後から忍び寄って来た同僚の男女。
　バリーとグラディス、何やってんだ。

「やー、おっぱいちゃん。良いっすねー」
「小さいのに大きい！　むふーん！」

　お馬鹿コンビめ。
　イヤラシイ目でうちの子を見るな。
　この子は家庭が貧しいんだよ。

　しかし、改めてフェドラを見る。

　ナナメにメットを被った紹介画像。
　ボロ着を着た孤児の少女。
　改めて見ると、案外グラマラス体型。
　顔も美人な部類だし……
　何か心配になって来た。
　この成りで、周りが変な気を起こさないか。

　再接続。思考を共有する誘導機能。
　服を買いに……って、店が閉ってるか。
　そして金が無い事に気付く。
　トゥーリカ周りに注ぎ込んだ。
　残額が１万を割っている。

　明日稼いだら、だなぁ……
　フェドラに服が欲しい。

　いや、フェドラだけじゃないか。
　イェンナにグラブが要る。
　マリナには靴が欲しい。
　ユッタも含め、顔が隠れる幅広の帽子を。

　そうなると、幾ら必要なんだ。
　服屋か仕立屋も探さないと、なのか。

　軽い眩暈と共に接続を切る。
　ブラウザの中で自律する俺のコピー。
　あちらもどこか苦悩して見えた。