黒鷲の旅団
3日目(1)差別と抗議

「朝だよー! 起きろーっ!」

 トゥーリカに起こされた。
 顔に乗るな。パンツが見え……

 ……履いてない。

 見えちゃうよー。
 見せといてエッチ言うな。
 困ったイタズラ者め。
 小さ過ぎて、見てもよく分からんて。

「おはよごじゃましゅ!」
「おはようございます」

 サンドラちゃんと大魔女様が来訪。
 朝食を同席する。

 この辺の地図を持って来てくれた。
 大魔女様から情勢について聞かせて貰う。

 この辺がルーマニア。
 ワラキアと呼ばれる地域らしい。
 カルパティア山脈より南側。

 敵対する公国軍は、北から侵略を開始。
 既にトランシルヴァニア陥落。
 モルダヴィアをも接収した。
 これを取り返さんとして。
 こちらの公主軍が南西から押し上げる。

 現在の最前線が、ここ。ブカレスト近郊。
 敵軍の本営は北のハズだが。
 しかし昨日の敵は南門の方から来た。
 それだけ切り込まれているという事か?

 公主軍の領土は、南はブルガリア。
 トルコ側からも魔王軍?が迫っている。
 状況は芳しくない、と。

 なるほど、情勢として。
 まだ傭兵の仕事はありそうだ。
 参考になったよ。ありがとう。

 大魔女様に礼を言って別れる。
 サンドラちゃんと修行に行こう。
 今日は招集の鐘が鳴らない。
 一時休戦かなあ。
 逃がした公女が何か口を利いただろうか。

 っと、金が無いな。使い過ぎた。
 先に賞金首の報酬を貰って来ないと。
 どこで貰えるんだっけ?

「ああー、そうだそうだ」

 女将が預かってくれていた。
 本当は冒険者ギルドで申請するらしい。

 それから道具屋へ。矢弾の補充をする。
 装備品の修理セットも仕入れたい。
 サンドラは魔力回復の魔法薬を買うのか。
 俺も買おうかな、と迷っている所で。

「痛い! 痛い!」
「あははは!」
「死ねー! 亜人めー!」

 外でバタバタと騒ぎが……何だ?
 窓からユッタ達の姿が見える。
 何かに追われている? 街中で?

 見ると、相手は身なりの良い子供達。
 ユッタ達に向かって石を投げていた。

 あれは放置できない。駆け付ける。
 リボルバー抜き撃ち。石を撃墜。
 何やってる。神経魔法、麻痺を付与。

 1人を取り押さえる。
 残り2人が逃げて行った。
 殺したりはしない。理由を話せ。

 ……亜人だから石を投げた、と。

 聞けば、ユッタがハーフホビット。
 イェンナがハーフエルフ。
 フェドラに至っては半魔人。

 しかしマリナは人間のハズだが。
 下層区の子供だから馬鹿にされている?
 とんでもない差別が根付いている様だ。

 憲兵が駆け付ける。
 保護者らしい姿もあるな。
 逃げた奴らに呼ばれて来たのだろう。

「子供の喧嘩だろう!
 大人が関わるな!」

 と、えー、誰さん?
 中央通りの宿屋の主人オズワルド。
 人質の父親か。

 石を投げたら、それはもう流血沙汰だ。
 大人が言って聞かせるべきだ。違うか?

 大事な子供が石を投げられたんだ。
 俺だって鉛弾ぐらい飛ばす。

 あんた達、大人が言って聞かせない。
 だから、こうなった。
 そこをあんた達も真剣に考えてくれ。

 他の保護者……そっちは料亭にパン屋?
 食い物だけでなくて、子供の世話も焼け。
 何が悪い事なのか、きちんと教えろ。

 ……キョトンとされてしまった。

 亜人なんかにお人好しだと憲兵カーム。
 こいつらに何を言っても無駄だろうか。

「ま、まあまあまあ!
 とにかくまずは言い分を聞こう!
 息子さんを解放させてだな」

 パン屋アントンが仲裁。
 時計塔の件だな。俺が浮気現場を見た奴。
 余計な事を言われたくないのだろう。
 こちらも一旦引き下がろう。

 捕虜を解放して、俺も解放される。
 捕縛を諦めてるのは、神人だからか。
 それとも未遂に終わったからか。

 一旦、ハミルトン爺さんの店へ。
 落ち着いた場所で手当てをしよう。



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