黒鷲の旅団
21日目(5)イーディス公主、画策する
「……マジっすか」
マジっすわ。
イーディス公主と謁見、までは順調に。
立て替えた金の支払いは、少々渋られた。
難民救済。食糧支援。軍備の再編。
国庫のやり繰りが大変で、先立つ物が欲しい。
しかしゴールドのインゴットを渡すと、状況は逆転。
むしろ釣りが来るぐらいだと言う。
『ゴールドのインゴット(大)』×3個。
推定売却額がおよそ1億5千万。
沈めた船代どころか迷惑料・支援金まで込みだな。
こんな物を気前良くくれた魔王ウルリカ。
海洋魔王事業は、そんなに儲かっているんだろうか。
で、このインゴットというか金塊というか。
俺達では売り捌けないので公主に進呈する。
代わりに、立て替えた分だけ資金を回収したいんだが。
「ん? 使った事、無い?」
んん? 何か換金の方法があるのか?
公主に教えて貰って……盲点だったな。
神人の脳内ウインドウに換金欄というのがあった。
アクセスすると手元に魔法陣みたいなのが出る。
不用品をここに放り込むと、金がカードに振り込まれるのか。
「あー、やー、ちょっと待って。
そこカード置いて。
置いてからやってみて」
言われるままにマネーカードをテーブルへ。
続いて換金魔法陣にインゴットを入れる。
と……何だこれは。
カードを持っていない場合の措置なのか。
地面に別の魔法陣が現れ、金貨が凄い勢いで噴出し始めた。
「あはっ、そうそうこれこれ。ブワーって。
この換金、あんま使うと貨幣価値おかしくなるからね。
面白いんだけど、なかなか見るチャンスが無くて」
……さよか。
貨幣価値を考えているのは偉いとして。
床いっぱいに広がった金貨。
片付けるのが大変だな。
宰相や執政官が目を白黒させている。
換金して、1億5千万。
立て替え分2500万だけ頂戴して、あとは国庫へ。
カウントは空間魔法と演算魔法から。
更に空間魔法で範囲指定、転移魔法で引っこ抜く。
2500万、確かに頂きました。
「ふふ。凄い手際。
やっぱあんた、嫁に欲しいわー」
俺が嫁かよ。嫁というか女房役。
傍から支える補佐的な人の事を言いたいんだろうけれども。
話は変わるが、密書が来たとか。
「あー、それ。まだ大丈夫。
何かあったら呼ぶかも知んないけど」
『まだ』ねぇ……
リュドミラといい、含ませて来るな。
せめて何が起きているのか知りたいんだが。
「うー……口止めされてるんだけど。
ほら、この所、あんたばっかり手柄を立てて。
ばっかりでもないっけ?
ただ、『次は俺達が』って連中も居てね。
神人の新人領主とか、NPCの貴族だとか」
要は、他の連中に手柄を立てさせたい。
俺達はあまり前線に出て欲しくない、という事か。
何も、功を競うつもりは無い。
後方に就くのは構わんとして……状況は。
「食い付くわねえ……
まあ、後ろについてくれるなら良いけど」
状況。北はウクライナ、オデッサ周辺。
南東の魔王バティスタンによる進攻を受けた。
黒海を跨いだ電撃作戦により、複数都市が陥落。
シュテルン公国は奪還作戦を計画している。
総大将は第2公子ディートリッヒ。
魔人ブランディエーヌの協力も得て威勢を上げている。
で、密書だが。差出人は第4公子エドヴァルト。
領土分割に一枚噛まないか、と。
第2公子1人の手柄になっても、個人的な旨みが無い。
私兵団を率いてボルグラード奪還を画策。
手柄として、そのまま領有権を頂戴したい。
ただ、魔王軍と正面から当たるには戦力不足。
近傍、イズマイールをイーディス公主に突いて欲しい。
イーディス公主はこの話の乗る事にした。
領土、あるいは返還に当たっての賠償金獲得を狙う。
敵対する魔王軍を追い出せば貸しにもなる。
バティスタン軍か。一度戦った事があったな。
追い払われて不利と見て、矛先を変えたのか。
戦闘開始時期は……まだ分からない。
ディートリッヒが動いたら、それに合わせて、か。
午後はトゥルチャで待機かなあ。
ひとまず情勢は理解した。
何かあったら通信を貰おう。
「おっけーい。あ、それと。
昨日のあの子。何だっけ、トール君?
商人さんから、友達を探してるって聞いて」
トール少年の友達が見つかった?
どうやら宮廷魔道士になっていたらしい。
エスコートを頼まれ、引き受ける。
中庭で落ち合い……ん?
何か、思っていたのと違うのが来た様だが……
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