黒鷲の旅団
21日目(6)ニコラ・オリーシャ
「ぶっ……ふ、ふふ、あはははは!
ウケる。何それ。可愛過ぎ。あはははは!」
「う、うっせー! 笑うなあああ!」
えーと……どういうご関係だ。
笑われているのはトール少年。
笑っているのは妙齢の女性。
宮廷魔道士。魔術師ギルド所属。黒髪の美女。
名前はニコラ・オリーシャ。
東区、エノーラの酒場でトール少年と引き合わせた。
年齢がトール少年と親子ぐらい違って見えるのだが。
しかし、彼女が彼の友人に該当する人物らしい。
「やー、ごめんごめん。だって、あの強面の青沼君がね。
こんな、ショタってるなんて、思わなく……く……
ああー、もうダメだこれ。あははは。いーひひひ!」
「だから、ショタっつーな!
好きでこんなガキンチョになったんじゃねーやい!」
トール少年、これが素なのかな。
少々荒っぽいが、表情は生き生きしている。
本来の自分を出せる相手か。
少なからず気心が知れているのは確かと見える。
「あっ、すいません。お騒がせして。
改めまして、ニコラ・オリーシャです。
霧霜卿、施療卿の噂はかねがね。
魔女協会を支援なさっているとか。
私、フリアリーゼ様にお世話になった事があって」
フリアさん、大魔女フリアリーゼか。
彼女は転生したばかりの頃、この街に辿り着いて。
言葉も通じず、文化の違いにも苦労した。
加えて、黒髪。なまじ美人なのも災いしただろうか。
神聖教会関係者からは、不吉だ魔性だと敬遠されて。
そんな途方に暮れていた所、拾って貰ったという。
魔法については才能と、勤勉な学習態度を評価されて。
より高みを目指すなら魔術師ギルドの方が良いと。
推薦を受け、移籍。魔女協会を去った。
しかし、心残りもあった様だ。
微々たる物ながら、仕送りもしているとか。
心残り……フリアさんにもあったかも知れない。
異邦人に対して、規則を目溢しする様な、何か。
お堅いあの人が、男を、俺を敷地に入れてくれて。
そうなると、俺と魔女協会の友好関係。
幾らかは、この人のお陰もあるのだろう。
トール君とのご関係は?
「青沼君、トール君とは元・同級生でして」
同級生……にしては、年が離れて見えるのだが。
転生の、死んだタイミングの違いなのだろうか。
「そこが分かんないんですよ。
紫原の、ニコラの死んだのは俺の2年前で。
それが20歳ぐらい離れて転生してる。
向こうの1年が、こっちの何年、みたいな……」
「や、私は転生じゃなくて転移だから。
神様が事故の直前で拾ってくれたって」
「は? え、お前、いつ……」
「4年前よ、こっちの世界に来たの。
もう三十路前だわ。嫌ねえ」
「え、だって俺、赤ん坊から始めて、8年……」
「ぶふっ! 8ちゃい!
今、8ちゃいなんだ!?」
「8ちゃいってゆーな!」
えー、何だ。何か時間軸がメチャクチャだな。
先に転移した方が年上で。
しかし、後から転生した方が経験年数は多いのか。
転生と転移で、何の違いが……ふおっ!?
「へへー、隙あり〜」
脇腹をカーチャにツンツンされた。
逃げて行くカーチャを振り返る、
振り返ると、酒場の入り口に子供達の姿。
ああ、すまん。待たせてしまっているな。
次は一緒に買い物に行く、順番待ちの竜騎兵隊。
「おっちゃん、まぁだー?」
「早くっ、早くっ」
焦れたカリマとか、ぴょんぴょこ跳ねている。
ごめんごめん。分かった分かった。
同級生同士、積もる話もあるだろう。
あまり邪魔しちゃ悪いので、俺は引き上げよう。
「あっ、最後に1つだけ。
私、魔法の他に占いが得意なんですけど。
ハインさんって何か、受難の相みたいなのが見えてて」
受難……は、いつもの事なので。
もう諦めてるから気にしないでクダサイ。
今度改めて、日本の話だのも聞かせて貰おう。
酒場の女将やトール少年。
それとニコラ女史。本名は『紫原紀子』だと。
また寄らせて貰うと約束……ふおぅ!
分かった。分かったからカーチャ、ツンツンしない。
どうも子供達相手だと油断してしまう。
それじゃ、またの機会に。
俺は子供達を連れて酒場を後にする。
まだ寄る所が沢山あるなあ。
次は銃の店。闇商人バルタザールの所へ。
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