黒鷲の旅団 >21日目(8)計算外の善手


黒鷲の旅団
21日目(8)計算外の善手

「ああー、すまねえな。
 もうちょい待っといてくれ」

 ハミルトン爺さんの店へ。
 待たされているのは俺の刀・大太刀・戦槌の修理。
 こちらこそ、破損しがちで申し訳ない。

「まあ、一介の剣士にしちゃあ、ちと物足りないが。
 しかし、お前さんは剣士の上に銃士で魔術師だろう。
 魔人の嬢ちゃんじゃないが、まあまあって奴だな。
 鉄で鉄が斬れるだけ、てぇしたモンよ」

 爺さんは鍛冶屋の凄腕だ。
 刃毀れを見れば、大体どんな素材と打ち合ったか分かる。

 鉄で鉄が斬れる。斬鉄の技。スキル。
 逆に言えば、俺の腕前では同素材以上は斬れない。
 この辺は、要・鍛錬だな。達人には遠く及ばない。
 一気に踏み込まれても持ち堪えるぐらいにはならないと。

 修理の方は、急かさず待たせて貰うとして。
 他方、騎兵剣レイテルパラッシュ。まずは4本完成。
 ジュス姉さんも腕を上げたか、良い出来だ。

 4本……誰から持たせようか。
 いずれ全員に揃えて貰うのだが。
 子供達にも聞いてみる。先に持ってみたい人〜……
 っと、みんな手が上がっちゃったよ。

 銃士隊は先に拳銃を慣らす、という事で納得して貰う。
 心得があるレーネとマルカは優先して持たせるとして。
 第2弓弩隊は、まだ後方支援・レベル上げに専念させたい。
 第1弓弩隊からそれぞれ、もう1人ずつ選抜しよう。

「あ、わ、私が……」
「ペトちゃんまで前に出たら、指揮を取れなくなります」
「あー、うー……そっかー」
「ティルアは重いの苦手だし、アイリスは視力がなー」
「ツェンタも斥候だから、前出すより広く見せないと」
「あっ、じゃあ、私。私やってみます」

 弩兵隊はハーフニンフのテルーザが立候補。
 自信はある? 無いけどみんな頑張ってるから、か。
 特に同郷のエメリナが活躍を見せ始めた。
 負けていられないと奮起した様だ。

 弩兵隊はスムーズに決まった感があるが。
 他方、弓兵隊は揉める揉める。

「私だって、お父さんに習ったもん」
「えー、レベルは私の方が上だよー?」
「自分ならマルカ姐さんの突撃にもついて行けます!」
「テルちゃんがやるなら、私もやりたーい」

 マリナ、フェドラ、フレヤ、エメリナ。
 揉め揉めきゃいきゃい、揉めきゃいきゃい。
 落ち着いて、と声を掛けると、ぐりぐりん。
 一斉に振り返って、みんな俺に決めて欲しいという。

 誰が良いかな。攻め手に回すなら瞬発のフレヤだが。
 果敢さと手札、魔法の多さではエメリナにも分がある。
 マリナは経験者で、強化魔法も得意。
 フェドラは魔法寄りだが、何でもこなす。

 まあ、遠からず全員に揃えるんだが。
 そうだな。今回はフェドラにしようか。

 あくまで主武装は遠射武器ないし魔法だ。
 斬り掛かられた時に受け止める物が欲しい、程度の話。
 強行離脱はしても、全軍突撃はしないからな。
 倒すより生き残る方、ディフェンスを重視しよう。
 突っ込みがちなレーネとマルカは我慢を覚えさせる。
 抑えの利くテルーザとフェドラには剣を教えて行く。

「ディフェンスだね。私がみんなを守るよっ」

 フェドラちゃん、君も含めた話だから。
 気負い過ぎて無理しないでくれよ?

 それから、ハミルトン爺さんに発注。
 全員にナイフ……もう持っている子も居るけど。
 この際だからお揃いにしたい。
 ハイランダー仕様のダークとか良いかも知れない。

 近衛隊制服。遠距離用の各隊主武装。
 近接の騎兵剣、中距離用の拳銃。
 工作から戦闘補助まで多目的用途のナイフをプラス。
 これを以て、子供達の標準装備とする。

「規格統一された軍隊ってワケだな。
 手入れや貸し借りも楽にはなるが。
 しかし……まあ、軍隊か」

 少し表情を曇らせる爺さん。
 懸念は何となく察しが付く。
 あくまでも、子供達に便利な様に、だ。
 俺が子供達を便利に使ったりはしない。

「お前さんを信用しないわけじゃない。
 ちゃんとした軍隊なら、避けて行く奴も居るだろう。
 ただ、ちゃんとした軍隊だから、って見られてな。
 偉い連中から都合よく使われねえかって。
 世の中、何が災いするか……上手く躱してくれよ?」

 分かった。肝に銘じておこう。
 公主の嘆願書なんかも惜しまず使う。
 計算外などと油断せず、あらゆる事態を想定しないと。

 さて、店を出た所で……誰だっけ。
 見知らぬ3人組に頭を下げられた。

「あっ、申し遅れました。
 自分はイメルの部下、シャウラと言います。
 あちらは、えー……ご依頼の」

 暗殺教団のシャウラさん、と、依頼……
 ああ、そうか。冒険者カリオンの家族。
 見た感じ、母親と妹だろうかな。

 先の魔王軍襲来。
 カリオンの実家も少なからず危険に晒された。
 立地は南区、特に被害の大きかった地域だ。
 居合わせた暗殺教団の構成員が救助に当たった。
 慌てて戻ったカリオンもまた奮闘。
 負傷したが一命は取り留めたという。

 ホント、何が災いするか。
 何が幸いするかも分からんのが世の中だ。
 仲良し3人組の分断の為、暗殺教団を派遣して。
 結果的に、助かった命があるのか。

 まあ、それはそれで良いか。
 カリオンはダニエルの仲間というだけだ。
 直接的に恨みは無し。ましてや家族にも。
 死なれちゃ恨み事も言えんしな……

 カリオンの容体は、傷は酷い?
 でもないのか。お大事に。
 依頼料を上乗せして依頼継続。
 シャウラさん、引き続きお願いします。



前へ黒鷲の旅団トップへ次へ