黒鷲の旅団 >21日目(9)ぱんぱかぽこぷす


黒鷲の旅団
21日目(9)ぱんぱかぽこぷす

「あーっ、くっそ。当たんねー」

 ぱぱん、ぱぱん、ぱぱん。
 クイックショットを練習中のイェンナ。
 格好だけは一人前のガンマンだ。
 惜しむらくは、着弾点が全然的外れ。

 まあ、最初はそれでも良いけどな。
 今でこそ練習用に買ったゴム弾。外しても被害は小さい。
 実戦でも、まずは撃って見せられれば良い。
 銃弾だと意識すれば、まぐれでも当たったら怖い。
 撃てるというだけでも牽制にはなるだろう。

 昼食後、農村開拓地に移動。
 子供達には武器の練習をさせている。

 村の運営は順調。警護にはケンタウロス達も協力してくれた。
 今の所、目立ったモンスターの襲来も無く、平和な物だ。
 改めて練習させる機会を得る事が出来た。

 ただ、魔王バティスタンの軍の侵攻は確かな話で。
 シュテルン公国、イーディス公主の軍も動いているハズだ。
 ならばこれは、嵐の前の静けさ、だろうかな。

「ふんっ! ふぉっ! こんのっ!」

 弾が的に当たらない。当たらないけれども。
 イェンナ、よくもまあ果敢に引き金を引く物だ。
 一度は掠り程度でも狙撃されて、銃弾は怖いハズなのに。

 いや、撃たれたから、負傷したからか?
 焦るな。足手纏いだなんて思わなくて良いんだ。
 まずは当たる様に、両手で持って、よく狙ってみよう。

「えー、それだとおっちゃんの弟子っぽくないー」

 単に俺の真似したかっただけなの?

 拳銃の片手持ちからクイックショット。
 右手で銃を持ち、左手は撃鉄を叩く。
 照準器を使えずに、それでも当たるのは経験の差だ。
 いきなり当てて行くのは難しいかも知れん。

 んー……よし。それじゃあ、よく見ててくれ。
 銃を抜く。標的に銃口を向ける。
 ここまでは分かってるな?

 脇を締める。背中を伸ばす。
 的に対して左足を軽く踏み出して撃つ。
 これで幾らかは、銃口が的の方に向く。
 後はちょっとずつズラしてみようか。

 ぱぱん、ぱこぷす、ぱぷちゅん。
 まだ的中とは行かないが、ちょっと掠り始めた。
 振り返る顔が凄く嬉しそうだ。その調子でな。

 他の子は……ぼちぼちかな。
 ユッタやルーシャは丁寧に狙う。よく当てている。
 カーチャやフィリッパは苦戦中。

 正面からの的当ては、この辺で。
 次。遮蔽物を用意します。
 身を隠して、顔出して撃って、また隠れる。

 カリマ、ちょっと顔を出す時間が長い。
 狙い切れなかったら一旦隠れよう。
 サッと見て、居なかった。じゃあサッと隠れる。
 ちょっと間を置いてからまたサッと見よう。

 ヘルヴィ、ヘレヴィは何か動きがカッコいい。
 両手で銃を持って隠れて、後ろの気配を窺って。
 銃撃が当たってないのが残念だけど。

 弓弩隊も射撃練習。第2弓弩隊の指導は第1隊。
 第2弓弩隊、精度はマチマチだが射撃には慣れて来た感。

 それと花人隊も練度を上げている。
 枝木の矢は貫通に向かないが、継矢がチラホラ。

 練習に加わっていないのはサンドラとアンヌ。
 サンドラが薬の調合を教えている。
 アンヌも何か、生産的な仕事に興味を持ったらしい。

 他には、剣を貰った4人。
 レーネ、フェドラ、マルカ、テルーザ。
 経験者の2人を指導役として、木剣で軽く稽古。

「おわっ! ちょ! うおぅ!」
「わわわわ、ストップ! フェドラさん待って!」

 軽く稽古……おかしいな。
 指導している方が追い込まれている。

「待ってくれないのが戦いだよ〜♪」

 レーネを相手にフェドラの連撃。
 袈裟斬り、返し刃の薙ぎ。
 そのまま回し蹴り、後ろ手に重力魔法。
 振り返って衝撃波魔法。そしてまた斬り込んで行く。
 剣戟は凡庸でも、魔法戦士としては大分完成されている。

 対して、剣士に後付けで魔法を覚えたレーネ。
 剣の腕はともかく……いや、彼女もよく防いでいる。
 重力魔法を切り払った。刀身に反射魔法を付与したのか。
 裂空スキルとは違った魔法処理。あれは俺も参考にしよう。

「はっ! やっ! たっ! とっ!」

 テルーザはマルカに挑戦。
 好きに打ち込んでみて、と言われたらしいのだが。
 かなり的確に『隙』を狙って打ち込んでいる。

 右足狙いの突きから、打ち上げは手首狙い。
 反転後退。剣を身体の後ろに隠した。
 左手に持ち替えて突きの急襲。
 上下左右に揺さぶられ、直感マルカも思考を求められる。

 しかし、どこで覚えた誰の技だ……みんなか。
 俺とかアンヌとか、レーネとかヘルヴィとか。

 引っ込みがちだったテルーザ。
 しかし、ただ引っ込んではいなかった。
 ずっと皆を見ていた。
 いつか自分もと思っていたのだろう。

 はい、ストップ。終了。訓練終了。

 探知魔法に友軍反応。
 見ると配達員の恰好をしたケンタウロスが駆けて来る。
 首都から手紙。通信傍受を嫌った公主かも知れない。

 みんなは休憩を。
 俺が出迎えてみよう。



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