黒鷲の旅団
21日目(10)スタートは下り坂の様相
「配達でーす」
「うーす」
駆けて来たケンタウロス配達員見習い。
名前は確か、サビーネさんだったかな。
その背に指導役、配達屋のヨアヒム。
やっぱり乗った方が早いか。
「ホント速いのなー。
いつもなら3日分の配達が終わっちまった。
俺、仕事無くなっちまいそう」
そうならない様に調整するけれども。
今の所、トラブルは無い?
指導が良いんだろう。引き続き頼むよ。
さて、やはり荷物は俺宛てで。
受け取ったのは羊皮紙の束。何これ。
差出人は予想通りイーディス公主だが。
1枚、目を通して……ああ、これ、ログだ。
戦闘ログを転写してて寄越したのか。
「進軍? 進軍する?」
「な、な、何か、手伝う?」
ティルア、落ち着け。情報を整理してから。
サンドラちゃん、道具屋で地図を借りて来てくれ。
戦況ログの羊皮紙を時系列順に読む。
必要な情報を抜き出し、転写。
地図を広げ、戦地の目印には小石を置いて行く。
えー……一番早いログ。11:17、戦闘開始。
昼食を早めるも間に合わず、敵の奇襲に始まった様だ。
最初の戦闘はオデッサより北西、オルゲイ。
シュテルン軍は大将ディートリッヒ。
副将は魔人ブランディエーヌ。
兵数はおよそ2万5千に上る。
対する敵将は魔人ライザネルザ、兵数1万程度。
しかし、この1万。メインは屈強な武装トロール。
ガルーダみたいな大型モンスターも含まれている。
対するシュテルン軍の兵は、ほぼ人間だろう。
ライザはブランが抑えた様だが、戦力は覆せず。
兵を魔物に食われながら、泥沼の撤退戦に移行。
これは士気もガタ落ちと思われる。
次。ボルグラード南西、ガラツィ。
イーディス軍より、功を焦った貴族軍が暴走。
先走って魔王軍と当たってしまったらしい。
エドヴァルトは結果オーライなどと笑うだろうけれど。
イーディスにしたら、足並みを揃え損なったワケだ。
細かい戦績を見てみようか。
ケルステン伯爵軍、兵数8千。
対する魔人メアリーロア、兵数5千。
戦闘の結果、ケルステン軍は全滅。
ラングヤール伯爵軍、兵数7千2百。
魔人ブレンダルシア、兵数5千。
結果、ラングヤール軍、敗走。
ゾルゲ伯爵、兵数6千。リュール子爵、兵数4千。
魔人ジュリアベータ、兵数7千。
貴族軍は挟撃を図るが、各個撃破の返り討ちに。
バルビエ伯爵軍、兵数7千5百。
魔人ハンナデルタ、兵数3百……3百?
しかし戦闘の結果、伯爵軍が壊滅。
……これ、兵力差の割に、何だ?
追記にも『何をされたか分からぬままに』とのメモ。
こういうのが一番怖いなあ。
何をされたか……罠かな。
火攻め、水攻め。あとは毒とか。
出向くなら防毒・防疫手段も視野に入れたい。
地図上、戦闘のあった場所に小石を置いて。
敵軍の防衛ライン、歪な円形が出来上がる。
横からヘルヴィが、ここね?と指差した。そう、そこだ。
どこも戦況は敗色だが、濃淡がある。
押し込まれ具合の強い所と弱い所。
逃げ惑う敵を追って、調子に乗って突出したのだろう。
ガラツィから南、ブライラに誘い出されている1隊。
こいつの側面を突いて、勝機の足掛かりとする。
イーディス公主の軍も南西から押し上げるだろう。
ブザウかスロボジア経由。あるいは両方か。
戦闘に巻き込まれると危険だな。
ヨアヒムらは南、フェテシュティ経由で首都へ帰らせる。
各隊、出発準備。慌てなくて良いから確実に。
ハーピー隊は空から先行偵察。
まだ戦闘は不要だ。無理をしない様に。
輜重隊には馬車を1台追加した。
御者は新入りのリザードマン、チェンバレン。
言葉はカタコトだが馬の扱いは平気そう。
先輩2名の指導も良いのだろう。
それと骸骨騎士団。まだ手を貸してくれる様だが。
国軍と接触するのに、徒歩で晒すのは印象が悪いか。
ラミア達同様、馬車へ。物資と一緒に乗って貰う。
南、コンスタンツァのイェルマイン達にも通信。
公主側には後だ。一旦、傍受を警戒する。
何をされて、どう勘付いたか分からんが。
公主は通信でなく、郵送で戦闘ログを寄越した。
何か、傍受されているとする根拠があるのだろう。
連絡は道中、他の手段を考えたい。
今日は後方支援が主。気楽と言えば気楽。
しかし、味方の敗走も目立つ下り坂の戦況だ。
気を抜かない様に行こう。
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