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21日目(11)認識外からの奇襲

「お〜に〜い〜?」

 んん? アンヌ、どうした。
 少し屈んで、下から覗き込んで来る。

「…………おにい?」

 ああー、はいはい、可愛い可愛い。

「ふふっ。にいにいに〜い〜に〜い〜」

 両頬を撫で回すと、にいにい言う。
 どういう遊びなんだろうな、これは。

「あーズルい」
「私もー」

 寄って来るカリマとリリヤ。はいはい、順番ね。
 にいにい言わなくても良い。

 現在地、トゥルチャ南西はホリアまで移動。
 イェルマイン達の合流を待っている。
 丘が目隠しになっていて、敵軍も見えんが友軍も見えないな。

『7th Earth』の世界は、海岸線などは地球と似せられていて。
 しかし起伏の方は、幾らか違いが出ている様だ。

 原因は、例えば神人の都合。
 領主用のウインドウ機能で鉱山町を設置する。
 すると、鉱山が、それなりの山が『生える』だとか。

 貯水池を設置。地面から池が生える。
 水脈が開通して、放っておいても当面枯れない。

 あるいは戦争で、デカい攻撃魔法で地形まで変えるだとか。
 生体系も何もメチャクチャだ。
 神人はもっと自重した方が良いんではなかろうか。

 ちなみにトゥルチャ・イズマイール間はおよそ緑地だったが。
 深い森もあり、聞けば所によりエルフも居るだと。
 この辺はホント、ファンタジー世界の様相。

 魔王軍が森を突っ切らないのは、エルフの横槍を嫌ってか。
 しかし不安は不安なので、レイニさん達が監視している。
 村に突っ込んで来る様なら、ポータルで俺の屋敷へ避難だ。
 村人全員、ケンタウロス達共々、入場許可は設定してある。

 それで、主戦場の戦況監視はハーピーの報告を待つとして。
 アンヌはどうした。ちょっと絡みに来ただけか?

「あっ、あのね、にいに」

 ……にいに。

「あっ、いや、待って。無し。今の無し」

 唐突に赤面するアンヌ。
『おに〜ぃちゃんっ』だって大概だろう。
 今更、何と呼んでくれても構わないが。

「やっ、ダメよ。無し無し。
 あーもー、恥ずかしいわねっ」

 先生をパパとか呼んだみたいな気まずさかな。
 やっぱり似た様なモンだと思うんだが。
『おに〜ぃちゃんっ』だって大概なんだが。

「いやー『シャンタルたん』も結構クるんだけどもさ」

 いつの間にかのシャンタルたん。
 魔女協会から、というかフレスさんからの派遣?
 上級魔女から正魔女まで編成して、後から援軍が来るらしい。
 フレスヴェーナ派、本格的に支援してくれる様だ。

 成人女性に『たん』付けは照れ臭いか。
 でもシャンタルたんの場合、最早お互い様なので止めません。

 先行して来たシャンタル。道中、何か見た?
 公主軍の進軍開始は見た様で、まずまず順調。
 敵の方はまだ見てないか。

 さておき、アンヌの話。
 魔王バティスタン軍のログを見て、だ。

 魔王バティスタン軍、女卑まで行かずとも男尊の傾向がある。
 装備も訓練環境も、男の方が優遇されているらしい。
 しかし、ログだ。敵将に女らしき名前ばかり並んでいる。

 つまり……敵は主戦力を温存している?

「かも知れない、というのがケース1ね。
 でなきゃケース2、防衛線配備が女だけなのかも。
 その場合、男は別動隊を率いているという線と。
 そもそも来てないって線も浮かぶけれど」

 どうだろう。一番悪いのはケース2の1だが。

 聞いた話では、バティスタン軍。
 戦術は出来ても戦略がイマイチらしい。
 ただ、どこまでイマイチか断定は難しい。

 頭の悪い敵の相手は難しい。
 常に最善手を打って来るワケではないからだ。
 苦し紛れの突貫が、想定外の被害をもたらし得る。

 脳筋一家の全員が脳筋とも限らんし。
 唐突に誰かが知恵を身に着けるかも分からない。

 どうあれ、悪い方を想定するべきか。
 別動隊が居ると仮定して、沿岸部への哨戒が要る。
 しかし、本気で掛かって来るなら撃退は難しいだろう。
 下手に戦力を裂くより、哨戒程度に留めるべきか。
 ケンタウロスから派遣か、魔女協会援軍から人手を割くか。

「すんすん……何か臭い」
「何だろう。くらくらする?」

 子供達、異臭と不調。それとHP微減?
 解析する……全員集合。なるべく寄ってくれ。

 治癒、解毒、防毒、消臭、空調、結界魔法。
 治療と、ひとまずだが安全圏を作る。

 解析の結果、毒だ。
 風上から、弱いながら毒を流されている。

 探知範囲変更、ディープサーチ・ナロウ。
 左右を狭めて、遠くを探る。
 風上……チラッと敵反応が出て、すぐ消えた。
 被探知に気付いて逃げた様だ。

 探知を嫌って、数km先から毒を送って来た?
 タチが悪いタイプの知恵者が居る様だ。
 あれが標準か、特異な存在なのかは分からんが。

 多少の不整地でも、丘の上を抑えたい。
 移動開始。各員、警戒を厳に。
 地味ではあるが攻撃を受けた。
 向こうからは気付かれているんだ。
 引き続き、罠はあるものと思って行こう。



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