黒鷲の旅団 >21日目(12)ちぐはぐな用兵


黒鷲の旅団
21日目(12)ちぐはぐな用兵

「林を出た途端に来るよ!」
「総員、戦闘準備!」

 俺が言うまでも無く、ユッタとレーネから。
 各隊に意識が伝播していく。

 林を抜け、丘へ。
 毒を散らしていた奴から、俺達の動きが知れただろう。
 本隊挟撃を防ぐべく、手下を差し向けて来る。

 敵側のお出迎えは航空戦力。
 グリフィン、ガルーダと、ワイアームやワイバーン。
 よく見ればコカトリス、ヒポグリフも混ざっている。
 どれも大型の飛行モンスター。

 数がこちらとほぼ同数だな。
 1匹1人食って来い、のつもりか?
 魔物兵団、維持も大変だろう。
 だろうけれども、食われてやる道理はない。

 左右に展開。射撃開始。近付けさせるな。
 死体でも巨体、落ちて来ると押し潰される。

 測量、電磁加速魔法を順次展開。
 展開する間に、銃士隊が先行して狙撃。
 新型の狙撃銃が唸りを上げている。
 弓弩隊も電磁加速が行き渡り、魔法付与矢を投射。
 ぼとぼとと飛行モンスターを落としていく。

 ぼとぼとぼとぼとぼとぼと。
 どすどさどすんどこん。
 どんばたんごすどさどしゃあ。

 減らない。敵が減らない。
 落としても落としても、敵の数が減ってくれない。
 墜落する敵、墜落地点が徐々に近寄って来る。
 まだ距離はあるが、それでも焦燥感に駆られる。
 どうやら後詰を繰り出して来ている。

 一旦、林へ後退……したいけれども。
 あまりにも途切れず、転進のタイミングが掴めん。
 敵側も我先にと冷静さを失っている様子。
 下がると木々なんかお構い無しに突っ込んで来そうだ。

 我先に……大した統率だな。
 ぼとぼと撃墜されて、魔物でも恐怖はあるだろう。
 だろうに、突っ込んで来る。誰か統率者が居る。
 冷静ではないが、しかしそれでも誘導されている。
 本能のままに突っ込ませたら、ああはなるまい。

 動いていない敵反応、指揮を出している奴を探す。

 先鋒ではなく敵中列。付与、燃料気化爆発魔法。
 着弾。爆炎が4匹ばかり飲み込んで撃墜。
 隊列に乱れが出来て……しかし戻って来る。
 違うな。ここら辺じゃない。

「違う? 違うって?」
「何か探してる?」

 近場のルーシャ、フィリッパが反応した。
 変な敵が居たら教えてくれ。
 敵の指揮官かも知れない。

 どどん、ぼがん、どさどさどさ。
 爆薬系魔法付与の矢弾が飛行魔獣を撃ち落とす。
 活力、鎮静、中和、抵抗魔法。
 子供達の疲労と焦燥感を緩和しつつ迎撃を続ける。

 しかし妙だ。減りもしないが増えもしない感。
 総数が常に一定、俺達の数を超過しない。

 敵の指揮官は何を考えているのか。
 損害には超反応で対処して。
 しかし陣容を変える知恵、あるいは権限が無い?

 バティスタン軍、恐らく個々の頭が悪いのではない。
 指揮系統がおかしいとか、何か変な基準で動いている。
 言われた以上の事をすると厳しく叱責されるとか。

「面白い仮説だけど、まずは正面を抑えないと」

 それはそうだが、アンヌは何をしている?

 荷馬車のホロを外した。
 石柱魔法。を腕力で粉砕。
 石柱の残骸をホロで包んで……投げるの?

 ホロをスリング代わりに、散弾投石機の様相。
 魔人の怪力は相変わらずのデタラメだ。
 魔法付与のおまけ付きで、大型魔獣も吹き飛んでいる。

 7匹撃墜。っと、探知範囲拡大。
 後ろから……5、6、7匹追加された。
 やっぱり、魔獣指揮官役に作戦立案の権限が無いのか。
 同数を差し向けろと言われている。
 そしてそれを忠実に守っているかの様。

 じゃあ、他の、作戦立案をしている奴はアホなのか。
 それとも戦略とは別の思惑があるとでもいうのか。

 探知……探知が捗らない。
 敵将は、指揮官はどこに居る。
 敵の中じゃない? 離れて見ているだろうか。

『変な敵ってどこ?』
『えー、魔獣しか見えない』

 子供達の間でも通信、探してくれている様だが。
 ちょっと正面が忙しくて、他に気を回せないか。
 気付いたら、手が空いたらでいい。
 戦場を監視している敵を撃て。指揮官かも知れない。

『JA(ヤー)。任務了承』

 ふと、通信に女の低い声が入って来て。
 自陣より離れた草原から火線が上がる。
 敵陣より遥か上空……ああ。
 翼の生えたヘビみたいなのが、雲の上から落ちて来る。
 そんな高高度とは気付かなかった。

 撃ったのは……お前だな、ヴィルヘルミーナ。



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