黒鷲の旅団 >21日目(13)ウィリアム・テル1/3


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21日目(13)ウィリアム・テル1/3

「暴れるとマズいから、私が見て来るわ。
 さっきの撃った奴? 私にも紹介してね」

 墜落した敵将はアンヌが先行偵察。
 輜重隊は林の傍で待機、イェルマイン達に合流して貰う。
 俺と弓弩・銃士隊は、先にヴィルを迎えに行ってみよう。

「誰? 誰がアレ撃ったの?」
「おっちゃんの知ってる人?」

 子供達がざわざわ。落ち着いて。
 ヴィル。ヴィルヘルミーナ・フォルカー。
 俺と同じ傭兵で、一緒に腕を磨いた仲だ。
 例えばユッタとイェンナみたいな関係かな。

「えー、それだとラブラブじゃん」
「「ぶーっ!!」」

 カーチャが茶化して、ユッタとイェンナが吹いた。
 全く同じリアクションとは仲良しだな。

「ら、ラブじゃねーし!」
「そうだよ。ラブじゃなくてライクだよ」
「お、お、おう……」
「……ちょっ、何で赤くなるの!?」

 イェンナはライクでも照れ臭かった。
 まあ、面と向かって言われるとな。

「っていうか、あたしらよりレー姉ちゃんとペトだろ」
「ぶふぉっ!?」

 飛び火した。レーネあたふた。
 ペトリナは、そんなレーネを見て少し寂しそう?
 ちょっと拒否されたと思ったんだろうか。

「わ、私は、レーネちゃんさえ幸せなら良いよ」

「あっ、あっ、違うのよペトちゃん!?
 ラブでも何でも大丈夫だからね!?」

 甘やかしレーネ、そんな簡単に言っちゃって大丈夫か。
 ペトリナは小っちゃくガッツポーズした様に見えた。
 あれはあれで、意外と策士なのかも知れない。

 まあ、ホント、お前達が幸せなら何でも良いけどな……

「でも、どんな人だろ」
「えー、美人さんだったらどうしよう」

 ティルア、エメリナ、慌てなくても紹介するから。
 というか美人だと何かマズいのか。

「わ、私は愛人さんでもオッケーだよっ!」

 フェドラちゃん、それは誰が誰のだ。
 ヴィルと俺はそういう仲じゃないし。
 そんな関係にならんでも、置いてったりしないから。

 とにかく、ヴィルと合流して……

「うー」

 第一声がそれかい。

 軽く片手を上げて適当な挨拶。
 声というか音を出しただけみたいな。
 相変わらず無口な娘だ。

 外見は元の世界と大差無いな。
 ウェーブの掛かったブラウンアッシュの髪。
 背丈も小柄で、およそ子供の様に見える。

 ……子供達がどこかホッとして見える。
 同僚とか言ったのが、かえって良くなかったか。
 大人の女が俺を連れて行く、などと思っていた様だ。

 まあ、ヴィルもあれで中身は大人なんだけれども。
 100歳越えのアンヌとも仲が良い子供達。
 中身がどうあれ、外見が近い方が安心するかな。

「元気そう。何より……それ、何。
 グリーンベレーの真似事?」

 子供達をざっと見ての、ヴィルの評価。
 別に反乱分子をどうこうじゃないけどな。
 育てていると言えば育てている。俺の教え子達。

 それで、ヴィルはどうした。
 スイス山中に居たと聞いていたんだが。
 農民反乱とやらはどうなったのか。

「多分、大丈夫。他の2人がやってる、から」

 他の……何?

 どうも聞く所、農民反乱軍には現在、英雄が居る。
 誰も姿を見た事の無い、神出鬼没のスナイパーが。
 実は3人で1人の英雄を演出しているらしい。

 傭兵銃士ヴィルヘルミーナ・フォルカー。
 革命軍の射手リアム・エンフィールド。
 反乱貴族ファビアン・テルミドール。

 で、3人の名前から綴りを拾って。
 架空の英雄に付けた名前がウィリアム・テル。
 これは狙ったのか偶然なのか。

 ちなみにヴィルの来訪目的は出稼ぎらしい。
 公主軍に肩入れして、そこそこの金を貰って帰る。
 反乱軍も、金が無いと活動出来ないからな。

「ねー、私達も紹介してよ」
「やっほー」
「こんちわー」
「あっ、妖精だ!」
「あっちも妖精が居るー」

 ヴィルのポケットやカバンから、妖精。
 妖精が……5人? 全員従者なのか?

 メイビス、リコリス、テティス、アイギス、ポラリス。
 出自はウンターヴァルデンの森の中。
 ヴィルは国軍に襲われている妖精郷を助けに入ったという。
 以来、義理堅い妖精さん達は、借りを返すべく?同行している。

「傭兵さんと妖精さん、的な?」

 考える事まで一緒かよ。
 まあ、うちのトゥーリカとも仲良くしてやってくれ。

 さて、アンヌから通信。敵将を捕らえたらしい。
 意見を聞きたいと言うので、まずは行ってみようか。



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