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21日目(14)墜落童女

「これなんだけど、どうしたら良いかしら?」

 ……どうしたら良いんだろうな。

 撃墜した敵将を確保したアンヌ。
 どうした物か聞くのだが、ちょっと困った。

「わああ、いっぱい来ちゃった。
 見逃してください。お願いしますー」

 子供。少なくとも外見は子供、少女。
 少女というか、童女? 小さいカリマぐらい。
 傍らには翼の生えたヘビの死体。
 こいつに乗って上から見ていたのだろう。

「ど、どうじょよろしくー」

 ……ヘコヘコしてる割に余裕があるな?

 一応は魔人らしく、頭に角なんかもあるのだが。
 素直ぶっていて腰が低い。顔はニコニコしている。
 こう、何だっけ。あざと可愛い印象?
 アンヌも虐めるのは少々気が引けた様子。

 それと……足が、変な方向に曲がっていて。
 墜落した時に骨折したのだろう。
 大して痛くなさそう。小さくても魔人は魔人だな。

 取りあえず足を治そうか。
 痛くなさそうでも、見ていて落ち着かない。

 治癒、鎮痛、整復魔法……あと、解析。
 名前はハンナデルタ。レベル466。
 状態は骨折が処置済みに。精神異常に動揺と疑念。

 疑念……まあ、何の下心かと思うかも知れないが。
 借りだと思うなら、ちょっと話を聞かせて欲しい。

「スリーサイズは測った事無いですー」

 そういうのが聞きたいのではないですー……

 気を取り直して、幾つか質問をする。
 答えられる範囲で答えて貰う。

 飛行系魔獣の航空管制は、この娘で間違いない様だ。
 おかしな用兵は指示に従ったとの事。
 思惑については知らないという。

 ただ、何かおかしいな、とは思っていた様子。
 脳筋一家のブレインになる日は遠くないのだろう。
 軍師のタマゴって所だろうかな。
 権限が与えられるかは分からんが。

 ちなみに、毒を撒いていたのも?
 やはり自分だと言う。
 毒攻撃はもう勘弁してほしいんだが。

「それは止められないですー。
 でも見逃してくださいー」

 うーん……一存ではどうにもならんか。

 見逃しても良いが、条件がある。
 テイマーの力で、逃げた魔獣は呼び戻せるな?
 ブライラの本隊には合流しない事。
 オデッサの本拠地へ、海上を飛んで帰ってください。

「はーい。分かりました。帰りますー」

 ハンナデルタはグリフィンを呼び出して。
 飛んで……ブライラ方面へ。案外したたかな奴だ。
 威嚇発砲したら、慌てて黒海へ進路を変えた。
 そうだ。それで良い。

 これで公主軍にはひとまず毒攻撃が来ない。
 まあ、他に似た様なのが居なければだが。

 ふと、後方からドカドカと蹄の音。
 慌てて追って来たイェルマイン達だった。

「すいやせん、遅れやした!
 あと、お届け物が少々」

「ご主人〜……」
「力及ばずー……」

 運ばれて来たのは、ボロボロになったハーピー達。
 偵察中、飛行系の魔獣に襲われた様だ。
 逃げ切れず、林の中に隠れていたのか。

 大型の魔獣とハーピーの比較。
 ハーピー達の方が軽い、小回りが利くと言った所でだ。
 大型魔獣の羽ばたきは運動エネルギーが違う。
 直線的な速度では敵わないと見える。

 うん、まあ、まずは生きていてくれて良かった。
 偵察に熱中して深入りし過ぎただろうか。
 苦手なりに阻害魔法も覚えさせた方が良かったな。

 敗走したハーピー偵察隊、ではあるが。
 偵察自体はキッチリこなしていた。
 川2つ、丘3つを越えた辺りに公主軍が集結中。
 ビジル辺りで一度陣容を整え、北上する。
 敵方もブライラから南下して来ている様だ。

 俺達は川を越えて直行しよう。
 交戦前に公主軍後方に接触、輜重隊で参戦の登録がしたい。
 通信傍受の件も気になるしな。

 全員、騎乗……ん? 待って?
 一部の子がグリフィンを解体中?
 ああ、もう、仕方ない。1匹だけにしなさい。
 手伝おう。手早く処理を済ませる。
 血抜き。肉を切って保存。あと羽根とか毟って。

 解体が済んだら、騎乗。ヴィルやハーピー達も馬車へ。
 進路は西だ。川と丘、藪と林を強引に突っ切るぞ。

 土、粉砕、重力、鎮静。整地魔法グラウンドリーヴ。
 凹凸さえ無くなれば、馬車でも何とかなるだろう。



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