黒鷲の旅団 >21日目(16)損害状況


黒鷲の旅団
21日目(16)損害状況

 状況。状況は……どうなっ…………あ、これ、土か?

 不意の閃光と衝撃に、視覚と聴覚をやられた。
 かろうじて嗅覚は戻って来て、眼前にあるのが地面だと気付く。
 唐突過ぎて、自分が倒れている事にも気付かなかった。

『誰か! 誰か返事して!』

 聴覚が機能していないのに、ジルケの声。
 ジルケ……そうか。念話。念話魔法。

 少し冷静になって来た。
 念話魔法展開。ジルケ、俺は大丈夫。
 他に念話魔法を持っているのは誰だった?

『あっ、念話! はいっ!』
『ああー、耳やられてんだ、これ』

 カリマとティルアの返事。
 ひとまず苦しんでいる様子は無い。
 念話魔法が無い者も、落ち着いて聞いてくれ。
 どこか痛い子は居ないか。
 居たら、まず自分に治癒魔法を。

 探知、解析……子供達は全員、HP表示は7割以上。
 軽傷。引っ繰り返って、どこかぶつけた程度。
 何をされたかも分からんが、着弾点から離れていた様だ。
 マルカ達の助言に従って良かったな。

 空間魔法、空間把握。ディメンジョン・リセプト。
 ブラックアウトした視界に白い輪郭線が浮かぶ。
 モノクロだが、手探りよりは大分マシだ。
 探知みたいに効力を共有出来るか……どうか。

『あっ、何か見える』
『ん、あれ、どっちが地面?』

 空間把握の効果は、どうやらリンクした様だ。
 子供達の輪郭がモソモソと動き出した。
 どれが誰かも分かり難いが……

 ティルア。頭の上で手を振ってみて。

『ここだよー。おーい』

 みんな、周囲を見渡して。見えるか?
 ティルアの周りに集合してくれ。

 魔法か古代兵器だか、強力な遠距離攻撃を受けた様だ。
 味方本陣が狙いとすれば、ここはまだ大丈夫な方だろう。
 次を撃って来ない辺り、連発は出来ないと思いたいが。
 またゾワゾワする様なら、帰還スクロールで一旦離脱しよう。

 治癒。治癒魔法……まだダメかな。
 目がチカチカして開けられない。
 耳鳴りがして音を拾えない。
 目と耳、脳にも負荷が掛かっただろうか。
 治りそうな予兆はあるが、少し時間が要る。

 こんな状態だが、俺は本陣側を探って来る。
 今行けば助かる命があるかも知れん。

 手伝う、とアンヌ。
 もう回復しつつあるのは流石、魔人の生命力だが。
 しかし子供達についていてくれ。
 俺が敵なら追撃を仕掛ける。周辺警戒を頼む。

 俺は味方側へ……まずは、さっき見掛けた貴族娘達。
 衝撃で川の向こうに薙ぎ倒されていた。

 えー、誰さんだっけ。解析。
 バベットとキャロライン、が打ち身。
 エリシュカとジュゼッパが少々の骨折。
 他、4名ほど軽症者。命に別状は無い。
 治癒と鎮痛、鎮静魔法。

 俺達を追って来たのはラッキーだった。
 落ち着く様に言い聞かせて、集めて座らせておく。
 視界が戻るなら、うちの子達と合流してくれ。

 ラッキーじゃないのは本陣側。
 探知。生存反応も、大勢居た味方が今は点在する程度。
 空間魔法で見える輪郭線もメチャクチャだ。

 それでも、イェルマインと少年チームは健在。
 陣中は陣中でも外側に居た。
 位置的に、俺達を追うか決めかねていたのだろう。

 瓦礫や衝撃波を浴びた様で、しかしHP残量は半分前後。
 診断。主に火傷や打撲。欠損が無いのは幸いだ。治癒魔法を。

 イェルマイン、念話魔法が無いので筆談してくれた。
 俺の手の平の上に指で字を書いてくれる。
 マグとお姉さんチームは、巡回。戻っていない?
 神人の脳内ウインドウ、ログにダメージ表記あり。
 死亡無し。探してみよう。まずは自己保全を。

 次。次は……本陣中央に向かう程、被害が酷いな。

 輜重隊は。募兵官ヘイゼルさん、重体。
 馬車か何かの残骸に全身を挟まれていた。
 診断。骨折と打ち身。呼吸不全。
 火傷が無いのは残骸が盾になったのか。
 重力魔法で残骸を排除。すぐに治療する。

 あっちに倒れているのは……頭が割れている。死体。
 そこの変に曲がっているのは息がある。救助。
 モノクロ視界も良いんだか悪いんだか。
 周囲の生臭さだの焦げ臭さだのが、想像力と嫌悪感を煽る。

 騎士ローレンシアは……あれか。
 反応は生きている様だがダメージあり。
 少し遠い。俺達と別れた後、足早だったから。

 助けに……と向かっていて、肩を叩かれた。
 振り返って、しかし誰だ。
 空間魔法でも輪郭しか分からん。

 念話魔法で呼び掛ける。
 今、視覚と聴覚に障害が起きていて……

 と、不意に視界がクリアになって。フレスさん?
 フレスさんと門弟、フレスヴェーナ派の面々の姿。
 続いて音も戻って来る。
 何か盲目・難聴治癒の魔法を使ってくれた様だ。

「応援が遅くなりました。
 すぐに救助活動に加わります」

 それは……助かるけれども。
 いつまた次を撃って来るか分からん。
 敵陣監視、緊急離脱も視野に入れて。
 迅速に救助を行ってください。

 フレスさん達が救助活動に散って。
 俺は公主に呼び掛ける。
 結構な被害状況だ。急いで対策を立てないと。
 もう傍受がどうのと言っている場合じゃないだろう。



前へ黒鷲の旅団トップへ次へ