黒鷲の旅団
21日目(17)粛々と反撃態勢
「ぶはっ! ああーもー、死んだかと思った!」
……普通は死ぬんじゃないかなあ。
公主は被害領域の、ほぼ中心部に居た。
周り一面、衝撃波に抉られていて。
彼女は地面に、めり込む様に突っ伏していた。
土埃で汚れているが、目立った外傷は無い。
彼女の他に生存者は居ない、という規模の被害なのだが。
死んで復活したのでもない様子。どう助かったんだ?
「神聖教会の、加護ってかバフみたいな奴よ。
即死級のダメージを、一回だけ無効にするって奴。
クッソお高いんだけど、念の為貰っといて良かったわ」
随分と便利そうな御業が存在する様だが。
公主の金銭感覚で、クソお高いお布施……嫌だなあ。
子供らに都度授けて貰うのは難しいだろう。
そもそも亜人種では門前払いか。
さておき……どう巻き返そうか。
「状況は? 何をされたと思う?」
状況……まずは被害状況を見た限りだが。
損害を受けたのは、イズマイール方向から直線的に帯状範囲。
地面が抉られ、黒く焦げ付いている。
こんな事が出来るのは、例えば戦術レベルの大型荷電粒子砲。
あるいは、それに類する魔法か何かかも知れない。
流石に丘を削り切って平地にする程の火力は無い様だが。
それでも、この効果範囲は脅威だな。
根本的な対策としては、イズマイール制圧だろう。
どんな大砲でも術者でも、使えなくしてしまえば良い。
問題は、ガラツィ・ブライラの敵残存戦力。
これを構っている合間に、次弾を撃たれる可能性がある。
かといって、無視出来る戦力でもないだろう。
トゥルチャから緑地を突っ切って行ければ良いんだがな。
魔王軍も警戒する現地エルフが、どう動くか分からない。
うちにもエルフは居るが、一般的エルフ族とは相性が悪い。
虐められていた子と、親が駆け落ちして殺された子。
交渉には引っ張り出せない。むしろ揉めるかも分からん。
「トゥルチャは回り道。
時間は掛けられない、はず?」
ヴィルの質問。確かにここからだと遠回りになるが。
あそこの村には、俺の登録しているポータルがある。
現在は非戦地だから、転移機能が使える。
俺とパーティ登録すれば、移動をショートカット出来る。
最寄りのポータルを探さなきゃならんけれども。
「分かった。潜入作戦を提案。
私が行って、砲だけでも壊す」
ヴィルのレベルは244。
この世界では、イェルマイン達よりも先輩だった。
しかし、もう少し戦力が欲しいだろうか。
魔人が相手になれば、まだまだ厳しいレベルであり。
砲でなく術者だったら、探すのに手間取るかも知れん。
公主から呼び掛け、幾つか参加表明あり。
俺に選抜を任せられ、まず唯人を弾く。
傭兵アシュリィ。レベル671。
キャスティーナ伯爵。レベル1092。
生き返れる神人で少数精鋭なら、この辺りだろう。
2人はヴィルに追従して貰う。
現地を守る戦力に対して、陽動を掛けてくれ。
撃破しても構わないが、必須としない。
砲の爆破さえ叶えば、後は撤退しても構わない。
爆破手段は……ヴィルに燃料気化爆発魔法を伝授。
あんまり多用するなよ?
手の内が知れると、遠からず対策される。
残りの戦力は、ビジル南方へ後退。
丘の稜線を利用して、次弾から身を隠す。
しかし、ただ隠れても居られない。
潜入チームに気取られない様に攻撃続行だ。
遠射でブライラの敵を攻撃する。
釣り出せるならば迎撃する。
守りを固める様なら、そのまま釘付けにしてやる。
「決まった? すぐ移動。ポータルは」
「1つ南の町まで戻らんと」
ヴィル達が急ぎ移動を開始。
隣町までの足として、公主軍が馬を提供する。
「みんなタフだよね」
「落ち込んでる場合と違う」
「ふふ、そりゃそうだ。よし、やるか」
ヴィルが肩を竦め、公主が伸びをする。
待ち受ける強敵と大軍。超兵器。
幾分、絶望的な状況だが。
しかし、それでも絶望しなかったならば。
その絶望的は、絶望、にはならない。
まあ、ちょっと忙しいかも知れないが。
それでも、いつも通りの物語。
それじゃ、俺達も掛かろうか。
粛々と反抗作戦を開始しよう。
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