黒鷲の旅団
21日目(18)アウトレンジ攻防
「当たった? 当たってる?」
「うーん……おっちゃん、どう?」
空へ武器を向けた子供達が聞く。
一応、効いている……みたいだが。
直撃かどうかは、俺にも判断が付かないな。
ビジルまで下がってブライラを狙撃。
距離にして、まあ、50kmぐらいだろうか。
魔法の電磁加速を施した狙撃銃でさえも、放物線軌道。
弓弩に至っては、ほぼ物理エネルギーは残っていないだろう。
しかし矢弾に爆薬系魔法を付与。届きさえすれば良い。
方向は、探知魔法を最大延長して、目標をギリギリ捕捉。
弾着の成否は解析魔法が頼り。
目標のHP表示が減ったかどうか、で判断するしかない。
「あ、そうだ。ドラっち」
「ふぉう?」
何かを思いついたイェンナ。
サンドラに、自分が持っていない魔法付与を依頼する。
……ん、それは遠見魔法か?
弾丸に遠見魔法を付与。射撃。
着弾点で魔法が発動する、と思われるが。
発射。少し待って……見えたかな?
「んー、ダメだ。すぐ消えちった」
いや、ダメだと断じるのは早いぞ。
続けて何発か撃ったら、もう少し見られるかも知れない。
俺も同じく遠見魔法付与、電磁加速、遠射。
立て続けに5発6発と撃ってみる。
真似する子供達の銃声を聞きながら、映像を受け取った。
着弾点は敵の少し上空。
どうやら弾丸自体は障壁魔法で防がれている。
視界の下にはトロールの群れ。盾を構えたトロール戦士。
それと、障壁を展開するのは下級悪魔。
数秒の合間に、魔法付与の次弾が飛来。
障壁で弾丸自体は防がれて。
しかし付与された魔法が発動する。
爆炎が落着してダメージを与えている。
撃ってみて着弾点を探る、か。面白い試みだと思う。
観測射撃って、本当はそういうこっちゃないんだが。
魔法でも化学でも、まずはアイディアが大事だな。
「ホントだ。見えるー」
「イェンナちゃん、天才だね」
「へへへへ、もっと褒めろ〜」
褒める褒める。偉い偉い。
イェンナを撫で繰り回すとケラケラ笑う。
はいはい、よしよし、可愛い可愛い。
さて、戦闘を継続しようか。
付与魔法を炎・爆薬から、燃料気化に変更します。
映像を見て分かった。着弾の周囲に捕虜は居ない。
制圧された町の人々はどうなったか……
いや、今は考えるのを止めよう。
どん。どどん。どがばごん。
流石の大火力か、燃料気化爆発魔法。
着弾点の爆発音が遥かから響く。
『ヤバイよ! 光ってる光ってる!』
丘の上からヘリヤの通信。
イズマイール側に光を確認。反撃のつもりか。
粒子砲が次を撃って来るらしい。
後退だ。丘を抉り切る力は無いと思われるが。
それでも念の為、障壁魔法を展開しつつ後退。
公主にも通信。全軍に後退指示をくれ。
「『うひょおお!』」
離脱して来るヘリヤの通信と肉声が重なっている。
彼女の後ろ、丘の向こうで光が溢れる。
丘の稜線がジリジリと削られて来ている。
大丈夫。みんな、落ち着いて後退しよう。
落ち着い……早速リリヤがコケてる。助け起こす。
腰が抜けているのはダーシャだが、任せろ?
フリーダとトゥリンが両側から引っ張っている。
大丈夫だ。落ち着いて……おーい、こっちこっち。
射線軸上を逃げるな。横に出るんだ。
焦って射線軸が分かんなくなっちゃった?
混乱気味のアイリスがティルアに手を引かれている。
花人達も隊列を組み、案内役を担ってくれる。
時間稼ぎに氷花魔法、氷河魔法。
みるみる溶けて行くのだが、しかし閃光を直視しない。
子供達は若干だが落ち着きを取り戻した様子。
丘を下らずに側面方向へ逃げる。
100mほど後退して……反転。障壁魔法を前面集中。
あと、遮光魔法。ハーフブラインド。足りないか。
光量を半減しても眩しい。もう半分にしよう。
防音、断熱、凍結。と、鎮静魔法。怖くない怖くない。
骸骨騎士、魔物隊、花人が順に防御陣形。防御態勢よし。
全員、衝撃に備え……ん? 止まった?
閃光が丘の半分まで削って、停止。
そのまま降りて来ずに、40秒ばかり照射して途絶えた。
通信……ヴィル、目標を破壊したのか?
『破壊はまだ。それっぽい大砲は見つけた』
『まずは射手を狙撃した様だ。これから作戦に移る』
キャスティーナが捕捉して、状況了解。
どうやら潜入チームは目標まで辿り着いた様だ。
よし。ひとまず凌いだとしよう。
射手を倒し、あれだけの超兵器だ。
そうそう連発も出来ないだろう。
次の行動へ。全員生きて帰るぞ。
「ハハッ、そう上手く!」
「行かせるわよ!」
男の声がして、アンヌ即応。
跳び蹴りをかまして、人影を草原へ突き飛ばした。
転移で来るとは少々予想外だが、敵。魔人か。
迎え討とう。各隊、広く鶴翼陣形。
前へ
/黒鷲の旅団トップへ
/次へ
|