黒鷲の旅団 >21日目(19)手札充分、先手必殺


黒鷲の旅団
21日目(19)手札充分、先手必殺

「あいつは、えー……魔人クリムゾンシグマ。レベル1143。
 戦闘適性はS+だけど、敏捷A、魔法適正はBだわ。
 脳筋タイプっぽいから、大きな魔法は使って来ないと思うけど。
 みんな一応、衝撃波や何かには気を付ける事。
 レベルは上でも、私にはアレがある。勝てる相手よ」

 俺が解析するより先に、アンヌがテキパキと解析。情報共有。
 子供達に注意点を申し付け、勝てると言って不安を解消する。
 お前ちゃんがデキる女で、にいに嬉しい。

「ぶふー! にいには無しだってば、もうっ。
 か・ら・か・う・なっ♪」

 おうっ。尻を蹴られた。
 手加減も手加減の甘々キックだが。
 分かった分かった。降参降参。

「俺を無視してイチャコラしてんじゃねえぞコラァ!」

 起き上がって来たクリム何とかさん。
 パッと見は活動的な、威勢の良い若者といった印象だが。
 どうするよ。自分の事も構ってくれと言っている。

「ぶーっ! ぶふふふ! それじゃジェラってるみたいだわ。
 しょうがないわね。相手してあげても良いわよ?」

「じぇ、ジェラッ!? ふふふフザけやがって!
 嬲り殺しにしてやる!
 来い、俺のグレーターデーモン達!」

 転移……いや、召喚魔法か。
 クリム何某の後ろに魔法陣が展開。
 上位悪魔っぽいのが続々と姿を現す。
 現した端からパンパカ撃たれる。
 うちの子達もなかなか遠慮が無い。

「えっ、ちょ……ズルいだろ! ズルくね!?」
「え、えっ、だって?」

 クリム憤慨に戸惑うけれども。
 合ってるよ、ユッタ。続けて続けて。
 動き出すのを待ってやる義理は無い。

 パンパカパンパカ、どこんばこん。
 魔法付与矢弾を前に、魔法障壁も空しく貫通する。
 上位悪魔だけに大した頑丈さではあるが。
 こちらの魔法付与も、大魔女・上級魔女の補助付きだ。
 怯む。仰け反る。膝を付く。
 悪魔達は次々に負傷。戦意を喪失していく。

「クソッ! 先にガキ共から!」
「やらせるワケ無いでしょ!」

 アンヌが飛び掛かって猛攻を開始。
 クリムは堪らず後退する。

 戦闘技能的にも、完全に手玉に取られているクリム。
 魔人の年齢は見た目じゃ分からん。
 背丈は上でも、アンヌより若輩かも知れん。

 さて、この隙に、銃士・弓弩隊はブライラへの攻撃を再開だ。
 魔人様が出陣したハズなのに、敵の矢弾が止まらない。
 この状況は少なからずプレッシャーになるハズだ。

 花人・魔物従者隊は、クリムの警戒を継続。
 アンヌ優勢。負けるとも思えないが。
 不利を悟って援軍を呼ぶかも知れない。
 魔人が1人2人来るとしたら……

「おーい、何か手伝おっか?」

 イーディス公主。丁度良い所に。
 主軍から見て側面に魔人が出現した現状。
 対応の為、騎士団を率いて来た。

 主軍は貴族の私兵団だったな。
 手隙なら騎士団を借りたい。

 それと、そっちはヴィルと連絡取れているか?
 大砲破壊が大丈夫そうなら、進軍を開始してくれ。
 時間が勿体無い。あと、そこで暴れている奴が焦る。

「おっけーい。そんじゃ騎士団と、近衛隊も置いてくわ。
 あとは全軍、ゆるゆるとしゅっぱーつ♪」

 陽気だなあ、このお嬢さんは。
 従う諸侯・兵卒には戸惑いの色も見られるが。
 指揮官が不安そうだと、部下はもっと不安になる。
 嘘でも平気そうな顔をする。それも1つの才能だ。

「あっ、ちょ、待て! おい!」
「よそ見すんなーっ!」
「ぐおあああ!」

 アンヌ、ドロップキック。
 どーんごろごろごろ。
 跳ね跳んで転げて行くクリム何某。
 段々、気の毒になって来たなあ。

 功を焦ったか知らないが、手札が足りていない。
 強いからと慢心して、準備や偵察を怠るから……
 どーんごろごろ、どこんばこん。
 ダメだな。アレは聞こえてない。

 クリム、起き上がり際に悪魔召喚。
 出て来る端からドカカカカ。
 花人・魔物従者隊が牽制射撃。
 倒し切れないが、騎士団と近衛隊が割って入る。

「右を抑えるぞ! 突撃用意! ……うおお!?」

 悪魔の群れに突っ込もうとする騎士ギャレットだが。
 しかし、配下の兵達がビビって動けない。
 動けないんだが、横隊は綺麗に形成された。
 花人と骸骨騎士が隙間を埋めてくれた様だ。

「騎士ルドルフ・ケッテラー、参る!」
「ルピナス・メッテルリッヒ、いざいざー!」

 死んでも心は護国の騎士、骸骨騎士ルドルフさん。
 ルピナスは花人ルピリエッテ、従騎士気取り。
 花人達もどこかで叙勲してやりたいなあ。
 今度の戦いが手柄になると良いんだが。

 ともあれ優勢。このまま押し切りたい所。
 と、そう簡単には行かないか。

 探知魔法に感。魔人が……3人。3人か。
 ハンナデルタと、もう2つは知らない名だ。
 ハンナは後方に控え、残り2人が向かって来る様相。
 レベルはそれぞれ500前後といった所か。

 騎士団長クロイツァーと、上級魔女ヘリヤ&シャンタル。
 近衛兵長セレステリアと、大魔女フレスヴェーナのタッグ。
 レベルと手札、戦闘力は足りるだろう。
 それぞれ前衛の魔人を1人ずつ、分断して対処してください。

 ハンナデルタは俺が足止めしてみよう。
 後方から、うちの2人目のエースも急いでいる。

『ごめんごめんごめん! あとちょっと!
 すぐ行く今行く! あと10分ぐらいだから!』

 ジュス姉さんの通信。出遅れてるな。
 10分か……何とか7分ぐらいで頼むよー?



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