黒鷲の旅団
21日目(21)マルカ再燃
「ちくしょー! 次に会ったらタダじゃ置かねーからな!」
逃げて行くクリム何某を見送って。
俺達は今後の打ち合わせに移ろう。
「今日はちょっと調子が悪かっただけだからな!
勝ったとか思ってんじゃねーぞコラアア!」
見送っ……いいからサッサと行けよ。
爆薬付与、CISウルティマックス100軽機関銃を掃射。
クリム何某はようやく背を向けて走り出した。
えー、それで、今後どうするかだが。
「もう遠くのは撃たなくて良いです?」
カリマの問い。そうだな、超遠距離射撃は終了。
遠からず公主達が、ブライラに到達するだろう。
撃ち続けていると邪魔になってしまう。
騎士団・近衛隊は、イズマイールへ進軍し、制圧する。
ヴィル達の口ぶりでは、敵を全滅させそうな勢いだったが。
街の奪還を果たした所で、メンバーは3人だけだ。
正規軍として改めて街を接収しよう。
さて、うちの子達はどうしよう。
粒子砲の攻撃で、馬の大半は死なずとも逃げてしまった。
戻ったのも居るが、全員で長距離を移動するには足が足りない。
それと、新人を中心に疲労も色濃い。
当たったら死ぬ程度の攻撃を目の当たりにしたんだ。
身体の傷を癒やした所で、精神的にはクタクタだろう。
そんなワケで……チームを分けよう。
俺とジュス姉さん、あと希望者が居れば、騎士団に追従。
イズマイールまで行って、ポータルだけ認証して来る。
戦闘後で荒れた街だ。観光どころでもないと思うが。
粒子砲の残骸ぐらいは見物出来るかも知れん。
残骸が見たいのはカーチャとティルア。恐いもの見たさ。
あと花人からポインセティナ。ちゃんと壊れたか確認したい。
まだ怖がっている仲間が居て、安心させたいのだと。
それ以外でまだ元気な者から選抜して、アンヌが引率。
馬商人の所で不足した馬の手配……が、47頭か。
軍馬って20万だっけ? 痛い出費だが仕方ない。
数は今日揃わなくても止む無し。
ただ、発注だけは済ませておきたい。
馬の目利きならレーネとマリナだろうか。
ペトリナも付いて行きたがるが、少しフラフラしている。
代わりに名乗り出たのはフェドラ。お願いしようか。
残りの弩兵隊はペトリナが引率、ツェンタがカバー。
弓兵隊の統率は……マルカ、大丈夫か?
「えっ、う、うん……頑張る」
マルカは少々自信に欠けている印象だ。
怖い物を肌身で感じ、どことなく挫けてしまったか。
マルカ、ちょっと話そう。
両手を広げて呼ぶと……ごふっ!
痛烈な頭突きで突っ込んで来た。
突っ込んで来て、すりすりすりすり。
あ、違う。これ、熱烈なハグか?
「おやじ……ごめん。あたし、ビビっちゃった。
ビビって逃げるしか出来なかった。
おやじみたいに、冷静に対処?とか。
あたしなんかに出来るかなあって」
そうか……マルカ、よしよし。よしよしよしよし。
恐れるのも、逃げるのも恥じゃない。
怖い物を怖いと認識してからが本当の戦いだ。
お前は『戦士』だが、同時に『参謀』だ。
損害を抑えるには臆病さも要る。
正しく危険を察知して、味方を誘導して被害を抑えた。
それで助かる命があった。お前は上手くやったんだ。
『仲間の為』は言い訳に使って良い。
自分なんか、なんて思わなくて良いんだよ。
「うん……大丈夫。ちょっと元気出た。
やるよ。あたしだって、おやじの子だもん」
よしよし、偉いぞー。よしよしよしよし。
念入りにマルカを撫で回して、離れる頃にはニヒヒと笑う。
ひとまず大丈夫そうかな。
エメリナ達、残りのメンバーもフォロー頼むよ。
イズマイール進攻組と、買い出し組。
それ以外の者は屋敷に戻って、休養と夕食の支度。
まずは全員、最寄りのポータルを目指す。
移動開始……何、もうちょっと?
帰って休むだけの、うち子達は急がなくても良いのだが。
騎士団麾下の一般兵卒らも、士気が落ちている様だ。
肩を落とし、膝を付き、あるいは座り込んでいる。
難民対策の一部として、新兵を多く雇い入れたという。
装備だけ与えて、訓練も付け焼き刃程度。
そんな若手兵士が、大量破壊兵器の被害を目の当たりにして。
挙句に上位悪魔の相手。対峙しているだけで負担だったろう。
とは言え、シュテルンとの兼ね合いもある。
奴らより先に街を抑えないと、交渉の材料に使い難い。
役割分担、分散……うーん……俺が敵ならどうする。
今の俺達に対する一番の嫌がらせは何だ。
分散した途端に魔人が戻って来る、が最悪の事態か。
騎士団長に20人選抜して貰い、先行部隊を編成。
補佐にヘリヤとシャンタルも付ける。
ポータルまではアンヌ達も一緒に行って貰う。
イズマイールからはキャスティーナに迎えを頼む。
同流してからトゥルチャを出発して貰おう。
俺やジュス姉さん達は、半時遅れで後発組に同行。
後発組の指揮はセレスさん。
フレスさんもこちらについて来て貰う。
屋敷に戻してしまえば、休憩組は大丈夫だろう。
街の見張りは他の大魔女達も出てくれる様だ。
フリアさんらが居れば、誘拐被害は防げるだろう。
アンヌは彼女らに買い出し組を預け、俺を追って貰う。
これで少なくとも、魔人に単独で当たる事は無い。
無い……ハズだ。見落としてないか?
何かあったら、手隙の者から急行して援護。
結局最後はそうなるんだろうけれども。
日が傾いており、薄暗がりは探知距離も落ちる。
各隊、再始動。用心しつつ任務に当たろう。
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