黒鷲の旅団
21日目(22)5/2000
「これ、良くないなー」
「うぇあ……げろげろだ」
ポインセティナとティルアの感想。
俺も、魔術や何かに関しては疎い方ではあるが。
素人目で見ても、これは良くないと思う。
後続部隊と一緒にイズマイールへ到達。
守りを固めたのが功を奏したか、魔人の再襲撃は無し。
ここまでは滞りなく到着出来た。
それで、粒子砲の残骸前まで来た。
砲の残骸は大きく穿たれて、機能を喪失。
そこまではまあ、良いとして。
その破損部から、黒くドロッとした物が流れ出ていた。
ボコボコと泡立ち、血生臭い様な悪臭を放つ。
砲の燃料? 汚染物質か? ちょっと近付きたくない。
このドロドロは何だろう。解析魔法アナライズ。
解析結果が『メリッサ・バートン』……何故に人名。
詳しく解析すると、町娘で平民階級で17歳、と表示が出る。
出るんだが、指定範囲には黒いドロドロしか存在していない。
何の間違いかと、解析魔法を使い直す。
すると別の名前が表示される。
『カミル・ゼメク』は衛兵。42歳。
『ラルフ・レーラー』は男爵の息子。自身は騎士。21歳。
『シャーリー・バーンズ』は平民。宿屋の女将。34歳。
解析魔法って故障するのか?
解析魔法が反射か転送されてどこかへ?
黒いドロドロは異次元とでも繋がっているのか?
あるいは……考えたくもないが。
フレスさん、これの所見についてだが。
と、ダメだ。後ろで吐いている。返答出来ない。
その反応で、多かれ少なかれ察してしまうけれども。
この、悪臭を放つ黒いドロドロ。
これ自体が、町の住人達の変わり果てた姿だというのか。
何をどうやって、一体何の為に。って、この砲か?
そんな折、診察スキルに反応。
要救助者あり……ちょ、いや、待て。待ってくれ。
俺の前には黒いドロドロしか無いってば。
しかし、要救助。何がどう助かるというのか。
歩み寄り掛けて、俺は硬直した。
目が。黒いドロドロのそこら中から、眼球が浮き出して。
無数の触手の様な物を一斉に伸ばして来た。
触手に掴まれた途端、視界がブラックアウトする。
大量の情報が頭に流れ込んで来た。
『助けて! 誰か助けて!』
『痛い、痛い、痛い……!』
『うわああああああ!』
悲鳴。絶叫。肌を焼かれる様な苦痛まで。
触手越しに、俺の頭に直接伝達されている?
『あー、これこれ。静粛に』
不意に絶叫が止んで、真っ暗な視界の中に……誰。
真っ白な服を着た、若い青年が佇んでいた。
天使、神……あるいは悪魔か。
俺からしたら、どれも似た様な物だろうか。
『なかなか興味深い意見だねえ。黒鷲くん。
しかし、時間が惜しい。本題に移ろう。
お察しの通り、このドロドロは人間さ。
人間の身体を呪物で魔法の媒体に変換した物だ。
動かせない大砲を、ゴーレム化して動かす原料として。
実に5万人分。もう2千も残っていないだろうけれど』
ペラペラと頭の痛い事を並べてくれる。
それで、これを俺にどうしろと。
『これは言わば、ボーナスタイムだ。
誰も助からない所、君に救助権を与えよう。
君の魔法と知恵と機転、そしてこのドロドロ。
上手く使えば、2〜3人は助けられる。頑張って』
俺の魔法と……魔力の媒体と、何だって?
まだ生きている様な物を消費して、救う者を選べというのか。
そんな一方的に言われても困るんだが。
「……っちゃん! おっちゃん!?」
ティルアの呼び声で我に返った。
カーチャ、セティナと、触手から引き離してくれた様だ。
さて、どうする……やるだけやるか。
選ぶなんて無理だ。手の振れた所からランダムに。
このドロドロを、まずは人間に戻せないか。
治癒、分解、錬成、培養、整復、形成外科魔法。
発動は再生魔法リカバライズ。
両手で掬い上げたドロドロが、脈打つ肉塊に変わった。
生き物っぽいけど、これじゃ助けた内に入らん。
もっと、ちゃんとした人型……新しい身体とか?
分解、錬成、変身、精製、移植外科……除細動。動け!
発動。転生魔法リンカネーション。
「……ふぎゃああ」
肉塊が、赤ん坊になった。
何か背中に翼が生えていて、人間じゃ無さげだが。
それでも、助かった……と言えなくもない様な。
同時、ぶじゅううう。黒いドロドロが蒸発した。
魔力の元として消費された。されてしまったのか。
ドロドロの残り、7割程度。
これを消費して、あと2人ぐらい……
……違う。そうじゃない。
まだ魔法と知恵だ。機転はどうした。
スキルポイントを100、節制発動に振る。
限界まで魔力消費を抑えて発動する。
消費量を抑えれば、消費するドロドロも減るハズだ。
馬鹿げた大魔法になって、消費魔力が無茶苦茶でも。
若干の不足ならレベルダウンも辞さない。
再生、転生魔法。2発、3発……4発。
魔力切れで意識が途絶え、しかし追加で4人。
赤ん坊2人と男の子2人。女の子1人。
レベルダウン3つ、ドロドロも全て蒸発してしまったが。
蒸発する中、何か安らかな気配さえ感じた気がした。
『うん、見事。想像以上だよ』
復活待ち、透明化した俺の背後で声。
神様よ。気苦労ばかりでボーナス感が無いんだが。
ふふふと笑って気配が消える。ホント一方的だな……
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