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黒鷲の旅団
21日目(23)選んだ物、選ばなかった物

「ごはんっ、ごはんっ!」

 屋敷に戻って、玄関先。
 出迎えたのはカリマ、ツェンタ、リリヤにトゥリン。
 ティルアも合流して、スキップで俺の周りを回る。3周。
 そのまま5人で食堂の方へ向かって行った。

 同郷のヒュリヤに聞いた話だが、トゥリン。
 父親と、帰ったら一緒にご飯食べようと約束して。
 しかし父親は帰らぬ人となり、約束は果たされなかった。
 それから彼女は、一緒にご飯、に拘っているらしい。

「何かあったわね。51になってるわ」

 ご飯シスターズと入れ替わりで、アンヌ。
 51、は、俺のレベルか。出掛けは54だった。下がっている。

 レベルダウン。復活ペナルティ。
 魔力の不足分を生命力で補い切れず、1回死亡分。
 消滅する程でないにせよ、無理を押した。

「で、何があったワケ?」
「何か、赤ちゃん作ってた」
「ぶーっ!!」

 待て、カーチャ。その表現だと誤解を招く。

「ふう〜ん、随分と隅に置けないじゃなあい?
 相手は誰よ? 誰なのよお? このこのー」

 アンヌも違うから。説明するから。
 違うと察していて、敢えて絡んでいないか。

 人間が魔法の媒体に変換された黒いドロドロ。
 そのドロドロから魔法で再構成。
 赤ん坊と子供を合わせて5人、助け上げた。
 ひとまずはトゥルチャの農村で預かって貰った。
 特に赤ん坊の世話は、俺達では手に余る。

「黒いドロドロ、ね。私も見た事はあるわ。
 ブラッドエーテル、エリクシルの出来損ない。
 あんな物に頼る奴なんてのも、気が知れないけれど。
 そこから人間に戻すってのも大概よ?」

 大概……そうかも知れない。

 フレスさん曰く、魔法による人体の生成自体、成功例として稀。
 研究材料として目を付けられる前に、手厚く保護すべきだと。
 警護の為、今夜は門弟達と村に残ってくれた。
 今後の対応については明日、公主や魔女達と話し合う。

 子供達はそれとして、イズマイール。
 接収は滞りなく、エドヴァルト公子も使いを送って来た。
 領土返還の是非や、休戦締結についても明日だ。
 恐らくだが、魔王バティスタンを追い出すまでは休戦だろう。

 エドヴァルトもボルグラードを奪還。
 俺達がガラツィ、ブライラ、イズマイールまで押し上げて。
 しかし、シュテルン公国主軍はキシニョフを攻め切れず。
 オデッサや以東は未だ制圧されたままだ。

 そのオデッサ奪還作戦だが。
 冒険者ギルドからも参戦志願者が出たらしい。
 人員が足りるので、俺達は下がらせて貰おう。
 休養、装備の点検、気持ちの整理。
 やらなきゃならん事も色々ある。

 気持ちの整理……どうするかな。
 また海でも連れて行こうか。
 鍛錬をさせた方が自信が付くだろうか。

 気持ちの……うーん……

「大丈夫よ。みんな、勝った無事だって喜んでるから。
 あー、ほらほら、カーチャ。先に行っといで。
 カリマ達、自分が食べる事で頭いっぱいでしょ。
 おじさんのご飯用意してあげないと」

「あ、そっか。任せてー」

 促され、カーチャがてててと走って行って。
 アンヌは俺を振り返りながら聞く。

「で、気持ち? 整理出来てないのはあんたよね。
 悩みとか聞いてあげても良いわよ?」

 察しが良いなあ、アンヌちゃん。
 気遣いの出来る妹分で、にいに感心。

「ちゃ・か・す・なっ。ていっ♪」

 甘々キック再び。分かった分かった。ごめんごめん。
 見えちゃうから、あんまり足を上げるな。
 何だって、お前ちゃんのドロワーズは旧式なんだ。
 下が縫ってあると尻尾が不自由だから?

 相談……俺の悩み。悩みというか反省というか。

 5人助けたといえば、助けたのだが。
 それが最善手だったか、どうか……どうかな。

 触手に掴まれた瞬間、意識がリンクした。
 ドロドロにされている人間達の意識。
 子供だけでも、何人居た。何十人。何百人。

 その中から、無作為に助かる命を拾い上げた。
 拾い上げなかった命を、見捨てた。何十人。何百人。
 本当にジャスト2千人だったと仮定して。
 俺は5人選んだが、残りの1995人を見捨てたんだ。
 もう少しでも、上手くやれなかっただろうか。

 例えばフレスさんやジュス姉さんに説明して。
 魔法伝授と膨大な魔法力で、協力を取り付けたなら。
 もう何人かは助けられた……かも知れない。

「でも、それ、選ばせた責任を共有するのよね。
 それに、戸惑って選べなくて、時間切れになったりして。
 結局は助からなかったかも知れない。でしょ?
 ベストは知らないけど、ベターな選択ではあったのよ。
 生まれや境遇で差別しない、公平でベターな選択」

 そうか……そうだと良いんだがな。
 事情を聴いたフレスさん達も複雑な顔をしていて。
 巻き込んだ方が良かったか、どうか……

「あーもー、やめやめ。ごはんごはんっ。
 しなかった事って、結局は出来なかった事なのよ。
 そりゃ、助からなかった奴らは悲しいけれど。
 だからって、助かった奴らを喜ばない理由は無いでしょ。
 元気出さないと、次はベッドの中まで慰めに行くわよ?」

 それは流石に、俺が格好悪過ぎるなあ……

 レーネにも言った事だ。感情は無くならない。
 その感情を置き去りにしてでも、やるだけの事はやった。
 後悔しても何しても、まずは選んだのだ。
 選ばないで放棄したのではない、だけマシとしよう。
 次があれば、もっと上手くやりたい所だが。

 子供達が待っている。まずは夕食だな。
 明日の事は、明日また考えるとしようか。



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