黒鷲の旅団
21日目(24)リアルトロフィー
『なかなか慎重な奴だのう。
そろそろ2人や3人は死なせるかと思ったが』
『悪趣味だよ、ジジイ。次から次に、試練、試練ってさ。
私らのお気に入りを、あんまり虐めないでよねー』
『いやいや、虐めているワケではないんじゃよ。
人は窮地に立ってこそ、成長と魂の輝きを』
『そうやってあれこれ誘導するのが虐めなんだってば。
サディスティック覗きジジイ。スケベ。変態』
『お前さんはホント口が悪いのう……
永遠を生きる身には、刺激や娯楽も必要じゃろう?
他人のほわほわスローライフなんか眺めてて楽しいか?』
『いいじゃん、ほわほわスローライフ。
大体、あんま絶望さすと魔王化するよ、アレ。
バウアーと組んで掛かって来るよ?』
『それは怖いのう。あやつらの魔法ヤバイんじゃもの。
ええい分かった分かった。後で褒美でも送っておこう。
何だかんだ思い悩んでおる様じゃし、ひとまず良かろ』
『留飲でも下がったって? やっぱサドジジイじゃん』
『じゃーから、単にイジワルだけでやっておるのではなく。
聞いとるかね、ウルリカちゃん』
……何だったんだ、今の会話は。
リンク接続解除間際の外部寸評。神様トークだったか。
老人めいた神と、魔王かつ水の女神のウルリカが話していた。
話の内容からして、神々が人間の運命を操作している。
あんな人間臭い神……神?
いっそ人間のRPではないのか?
異世界の様で、やっぱり異世界じゃない?
ウルリカは一般ユーザーではなく、運営か関係者?
分からん。判断材料が足りない。
ゲームでないという方の根拠もポツポツ出て来ている。
そう言えば、もう1人。
物語の外から物語を見ている奴が居たな。
傍観者。物見遊山のサンダーバロン氏。
彼もゲーム運営か、それに関わる何かだろうか。
彼とリアルで接触で来たら、何か分かるだろうか。
いっそゲームだったら……というのは俺の願望か。
割り切ろう、割り切ろうと言葉にして。
しかし、心はそう簡単に、理屈通りには行かない。
触手と接触した瞬間、流れ込んできた記憶。
何十、何百と、垣間見てしまった子供達の面影。
魔法の媒体として、乱暴な即決で握り潰した命。
どうせ助からなかったなどと、そう簡単に……
いっそ出撃任務でもあれば、気が紛れただろうか。
リアル傭兵稼業は戦線停滞中。やる事が無い。
やる事が無いからこそ、ぐるぐると考えてしまう。
もう酒でも煽って寝ちまおうか。
という矢先、不意にインターホンが鳴った。
「お届け物でーす」
部屋の外に、配達屋らしきツナギを着た女。
背中に天使みたいな翼があるのは何のコスプレか。
よく見ると胸元に『7th Earth』のロゴ。
運営会社の派遣か何かだろうか。
あんたも大変だなあ。受付に不審がられなかったか。
そんな事を言いながら、受け取りのサインをして。
受け取った箱の中身は何だ。トロフィーが2つ?
カップの中から妖精が上半身を出しているデザイン。
この妖精が、ちょっとトゥーリカに似ている。
妖精のポーズが違う物が2つ入っていた。
それと、書類が幾つか。
説明書き。実績達成のトロフィーだと。
新しい実績を実装して、過去に遡って達成を確認。
『従者を3日死なせない』と『半月死なせない』の達成。
それに伴いトロフィーを送ります、といった内容。
今時のゲームは、リアルにトロフィーをくれるのか?
ハイテクなんだかアナログなんだか分からんな。
それから……公式オフ会のお知らせ。
運営スタッフを交えての懇談会があるらしい。
運営に接触するチャンス、か。
ラーティカイネンの件、探りを入れられるかどうか。
思い返せば『7th Earth』、随分と色々あった。
最初は別のVR世界から転送されて。
真っ暗な空間でキャラメイクだ何だと……
……いや、待て。今の女。配達屋。
帽子を被っていて顔はハッキリしなかったが。
あの声はキャラメイクの時のお姉さん。
守護天使エレアノーラさんじゃなかったか。
エレア……あれ。名前が合ってるか自信が無いな。
たまにしか見掛けないモンだから。
本社ビル受付に通信。配達屋の女を呼び止めてくれ。
と、通達するも、誰も見つからず。
受付は配達屋が通った事さえ知らなかった。
どこを通って……いや、それよりも。
異世界から、もう入り込んで来ている奴が居る?
それも、ヨルクを考えれば今更か。
公式オフ会については覚えておこう。
万全の態勢で臨まないと。
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