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22日目(2)リータ、日の当たる方へ

「あっ、あっ、お帰りなさいませ!」

 屋敷に戻って、最初に出迎えたのはリータ。
 非戦闘メンバー。妹のラケルに比べて引っ込み思案。
 あまり前に出て来ない子なのだが、何かあっただろうか。

「あの、ええと、お家が……お馬さんなんですけれども」

 カーチャ達は先に行かせ、リータに続いて牧場スペースへ。
 ああ、うん……そうだった。見てすぐ思い立った。

 馬のお家、厩舎が足りていない。
 普段はみんな出払ってしまうから良いのだが。
 俺や司令部で5、弓弩銃士隊で32。花人隊に12。
 馬車3台から6で、合計59頭。

 対し、牧場の付属設備としての厩舎が、40頭分。
 屋敷の方にも繋ぎ場が10頭分ぐらいあるが、足りない。
 追加の馬が来た所で、はみ出してしまった。
 入り切らない分は牧草スペースに待機させている。

 このまま、という訳にも行かないだろう。
 神人の自宅にも、降雨の影響があるかも知れない。

 牧場スペース内の付属設備設定枠は使い果たしている。
 もう1つ牧場を作らないとならない。
 しかし、屋敷の施設設置枠がまた、足りない。
 空き1マスに対し、農場は2マス分を使うイメージ。

 えー……拡張機能。拡張機能は無いか。
 神人脳内ウインドウ、マニュアル。
 あった。あったけど金が要る。

 屋敷の施設設置枠が現在9。
 3×3マス。屋敷の正面に並んでいる。
 これを1段階拡張すると3×5マス。
 左右に1列ずつ増える形になるらしい。
 この拡張に必要な経費が1千万。

 加えて、牧場設置が200万。厩舎1つ当たり100万。
 伯爵達の別館も増築したい所であり……
 朝食後、魔法の売り上げを受け取ってからにしよう。

「す、すいません。出過ぎた事を」

 頭を下げるリータ。
 良いんだよ。指摘してくれて良かった。

 食堂に向かいながらリータと話す。
 他に何か困っている事は無いか。
 ヴァンパイアやケンタウロス達は仲良くしてくれる?

 リータとしては、吸血鬼は近付き難い。
 高貴なイメージが貴族を想起させる。
 貴族に捕まって、虐待されていた過去を思い出す。

 ケンタウロスの方は、陰口を叩かれてしまった。
 リータは身体的損傷から、排便がコントロール出来ない。

 そんな一方で、ラケルの方は順調。
 物怖じせず、伯爵に遊んで貰って楽しそうにしている。
 それ自体に情操教育的な効果でもあったのか。
 排便コントロールも幾らか改善しているらしい。
 そんな順調なラケルと比べて、気後れしてしまう。

 結果として、リータは孤立しがちとなった。
 皆と距離を置いて、コソコソと仕事をしている。
 事情を知って気遣うユッタ達に対しても、恐れ多い。
 自分なんかには勿体無いと感じてしまっていた。

「良いんです。今、凄く幸せです。
 これ以上望むなんて、罰当たりですよ」

 諦めた様に笑うリータ。
 そりゃあ、虐待されていた頃よりはマシだろうけれども。
 もっともっと幸せにしてやりたいんだがな……

 昨日見つけた再生魔法は、効くのかどうか。
 ドロドロの元人間をも人間に戻す、強力な治癒魔法。
 ただ、事情が違う上、強力過ぎて失敗も怖い。
 効いたとして、俺が見て確認する訳にも行くまいし。
 これも魔女達と合流してからにしよう。

 よしんばダメだとして、また他の方法を探すさ。
 ごめんな。もう少し我慢してくれるか。
 取りあえず朝食へ。リータ、手を繋いで行こう。
 収穫の手伝いにケンタウロス達が来ている。
 リータは俺が大事にしている子だと見せておきたい。

 子供ケンタウロス達に声を掛けられて。
 手を振ってやると、数人寄って来る。

「おじさん、おはよー」
「そいつ臭いんだよー?」

 ちょっと怪我してて、色々上手く出来ないんだよ。
 この子は悪くないんだ。からかわないでやっておくれ。

 リータの手を引いて歩いて見せて。
 反応はチラホラ、かな。
 興味、忌避、気の毒がる子。

 興味が変なチョッカイに繋がらなければ良いが。
 やはり面倒見役の大人を付けておくべきだろうか。
 しかし、冒険好きのマイナさんを留め続けても悪い。
 他にも誰か、使用人みたいなのを雇った方が良いだろう。

 再び食堂へ向かい……ハタと止まるリータの足。
 どうした。ああ、漏らしちゃったのか。
 洗浄、乾燥、消臭、芳香魔法。
 何も気にする事なんて無い。
 泣くな泣くな。大丈夫だから。
 抱き締めて頭を撫でつける。

 自分でも処置出来れば良いんだろうか。
 リータも魔法を使える様に。
 しかし、リータは人間種。低い魔力適正。
 せめてレベルを上げる必要がある。

 屋敷を出ないままレベルを上げる方法……あるか?
 俺達で、何か捕まえて来たら良いんだろうか。
 魔物だと暴れて危ないが、小動物では経験値が低い。
 可哀想に思わせてしまっても気の毒だし。
 何か適当な獲物が居ると良いんだがな。

「あっ、リータだ!」
「リータちゃんが来たよ!」
「いつもどこ行ってんだよー」

 迎えに出て来るティルアやマリナ、マルカ達。
 被差別者に優しいのは、彼女らも傷ついて来た故か。
 戦闘要員でなくとも、確かな仲間意識がある。

 リータ、前にも言ったが、元気でいてくれな。
 その方が、こちらも気が休まる。負担が少ない。
 それは何も、身体に限った話じゃない。
 心もだ。もっと幸せになってくれて良いんだよ。

 遠慮がちにでも頷くリータ。
 それじゃ、朝ご飯にしようか。



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