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22日目(3)魔法審問

「マイナ姐さん、お代わりお代わり」
「あ、待ってフレヤ。私の分も」

 朝食。競ってお代わりをするフレヤ、ヘルヴィ。
 マイナさんについては、幾分受け入れてくれた様だ。
 戦闘はヘチョイが料理は上手い。認める所があった。
 実力志向の彼女らなりにも、気を使う事にしたのだろう。

「大丈夫ですよ。沢山ありますから」

 優しく諭すマイナさん、表情が明るい。
 暗にでも褒められては自信を持つ。

 マイナさんについての心配は、まあ、皆無ではないが。
 居場所を確立しつつある。ひとまず安心か。

 本日、傭兵稼業は休業。
 余裕がある内に、気になっている事を片付けて行きたい。

 まずは自宅周りの施設、区画整理と増築。
 元手として、魔女達と合流、魔法伝授の特許料を受け取ろう。

 区画整理中、屋敷周りに居ると施設を移動し難い。
 作業の間、子供達は魔女協会でお勉強が良いだろう。

 合間に、リータに再生魔法が効くか試して貰って。
 しかし結果如何に関わらず、使用人も雇用したい。
 料理関係はともかく、その他の家事で手が足りていない。

 マリナやペトリナからは、マリナの母ベラさんを推薦。
 元は貴族の出身で、メイドさん経験者だった。
 客に酷い事をされた娘を診ていた事もあるらしく。
 リータの事も嫌がらないだろうという。
 まあ、リータに再生魔法が効くかは置いといて。
 未経験者の指導役としても有力候補。声を掛けてみようか。

 朝食を済ませ、子供達や魔物従者隊を連れて魔女協会へ。
 正門に着いた所でフリアさん。俺に来客が2件だと。
 少し険しい顔をして、何かマズい客か。

「1件はまあ、蹴っても良い程度の話だが。
 もう1件……私も事情を聞きたい」

 ひとまず子供達を授業へ。
 フッケちゃん、レイヴン婆さんが引率してくれる。
 授業料については、また後で。

 フリアさんと魔女協会の客へ向かう。
 先に待っていたのはフレスさん、シャンヘリコンビ。
 筆頭大魔女ジズデリアと……鎧甲冑を着た天使?

「私は大陸魔法機関所属、魔法審問官。赤の1103号」
「同じく赤の1107号です。本日は捜査にご協力頂きたく」

 捜査。魔法機関が何の捜査か。
 焦点は昨日のあれ。黒いドロドロ。
 ブラッドエーテルなどと呼ばれる魔法媒体だった。

 魔法秩序を乱す、機関でもご禁制の品。
 生産から使用から、とにかく罰則が掛かる。
 使用。使用か。促されるまま俺も使ってしまった。

 慌てて弁解しようとするフレスさんだが、落ち着いて。
 力づくで捕縛する気なら、既にそうしているだろう。
 まずは事情聴取に応じたい。

「本当に、やましい所は無いのだな?」
「ご婦人、どうか静粛に」
「取り調べは我々が行う故」

 フリアさんを制止する、無機質な声の天使達。
 フルフェイスの兜で表情も分からない。
 声質は男女らしいが、気配が人間のそれじゃない。
 もっと機械的、いっそ機械めいている様に感じる。
 解析、鑑定……鎧の情報しか出ないな。

 聞かれるのは、昨日のドロドロ。
 ブラッドエーテルについて知る限りを全て。
 と言っても、俺の知る限りはたかが知れている。

 生産者、魔王バティスタン軍の誰か。
 大砲をゴーレムの様に動かす為に使っていたらしい。

 俺が見つけた時には、大砲自体も破壊されていて。
 中から零れていた残り物。
 5万人分の残り、2千人分ぐらいと言っていたな。

 誰が言ったか……説明が難しい。
 あれに触れた折、元にされた人々の意識が見えて。
 その中に、妙に落ち着き払った青年が居た。
 このドロドロを上手く使えば、何人かは助けられると。

 そうだと思い立ち……えー、紙。紙は無いか。
 作ってしまえ。錬成、製紙、転写魔法。
 紙を製造して、俺の記憶から青年の似姿をコピペ。
 天使達と、魔女達も後ろから覗き込んで来る。

「これは……魔法神、でしょうか?」
「神託だと? あり得るのか?」
「でも、ブラッドエーテルは輪廻の境界線とかって」
「だからって神様がヒョッコリ顔出すかね」

 うーん……と、唸り声が重なった。
 魔女達も、天使達も首を捻ってしまう。

「うむ、まあ、まずは法規に照らそう」

 取り纏めてくれるのは1103号さん。
 ひとまずは罰則金1千万という判断となる。
 子供5人救助の為、2回ずつの危険物使用。
 準禁呪級魔法の罰金相当。

 生産には関与せず。意図せずして取得、行使。
 何と知らずに、でもないが、悪用の意図無し。
 初犯であり、人命も救助している。
 情状酌量を協議の上、減刑の可能性あり、と。

 ひとまずの1千万だが、先に払ってしまおう。
 払える額だし、決まるまで拘束されるよりは良い。
 差額については後で返してくれれば。

「1千万、確かにお預かりしました。
 冷静沈着な応対に感謝します」

 1107号さん曰く、聞き取りだけで逃げる暴れる。
 乱暴しないと信じて貰えないケースもあるとか。
 その辺はきっと、教会の異端審問官のせいだなあ。

 理知的な連中だったと思いつつ、見送って。
 魔法神とやらに苦情入れるにはどうしたら良いんだろう。
 まったく、何がボーナスタイムだ。
 言われるままやったら、罰金が1千万付いたぞ。
 子供を助けた事に後悔は無いけれども。

 それはそうと、もう1件来客があるんだったか。
 蹴っても良い案件だというが、まずは会ってみよう。



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