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22日目(4)ヒーラーと墓穴

「こちらは迷惑しているのです!
 まったく、ケシカラン事ですな!」

 なるほど……これは蹴っても良かったかな。

 豪奢な僧服を着た、太った中年男性。ゴルドーニ氏。
 それと、護衛らしき取り巻きが2人。
 彼らは治癒士。ヒーラーの組合だった。
 神聖教会の下部組織に当たるらしい。

 ご用件は、俺が方々でやっている無償医療について。
 客足が離れてしまい、お布施が減っている。
 魔女協会としては代金を頂いているが、それも安いのだと。
 相場を守って適正な報酬を受け取れとのお達しだ。

 しかし、無償医療。
 俺が無償で助けるのは、代金を論じる暇も無い様な急患。
 あるいは金が無くて教会にも行けない奴だけだ。
 大々的にやったのは炊き出しの時ぐらいだが。

 その、大々的に無償医療をやった。
 俺は無償で治すのに、教会は金を取る。
 それが伝わって、支払いを渋る客が出て来たのだという。
 結果、将来ある若いヒーラー達が貧窮している。

 まあ、言いたい事は分かった。
 俺だけが原因だと一概に言える事でもないが。
 治癒士が減って助からない命が増えても困る。

「ご理解頂けたのは何よりですが。
 言葉ばかりでなく誠意を見せて貰いたいものですなあ」

 誠意、ね。何か支援が必要だろうか。
 察しが悪いもので、具体的にどの位の何が要るんだ。

 なかなか金だとは明言しないが、誘導する。
 金銭的に困窮しているヒーラー達の支援、で良いか?
 500万だと足りるだろうか。足りないか。
 すぐ出せる限度額として1千万。ひとまず、どうだろう。

 それで結構、と言質を得た。
 金を得てホクホク顔で帰るゴルドーニ達。

「なっ、あ……あああああれ、良いのか!?
 あんな肥えた豚のどこが貧窮しているんだ!
 あの様な金! 大金! 勿体無い!
 全部あの男の懐に入るだけではないのか!?
 治癒士の貧窮も、あいつがきっと金を吸い上げてて!」

 憤慨する筆頭大魔女ジズデリア。落ち着いて。
 そうかも知れないが、そうでないかも知れない。
 幾らかは下っ端ヒーラーにも回ってくれる事を願うよ。
 国軍が魔王軍と交戦中、俺達と奴らで衝突するのもマズい。

 しかし、まあ、それはそれとして。
 この一件は、後で異端審問官にでも垂れ込もう。
 暗に金を、贈賄を要求された。
 神より金を崇めている奴が居るんじゃないかってな。
 内紛に至るか分からんが、嫌がらせにはなるだろ。

 奴らも俺達の事は気に入らないだろうが、だからこそ。
 確たる証拠さえ示せば、身内の恥をそのままに出来まい。
 奴らは出向く。奴らが来ただけで、教会信徒は震え上がる。

 確たる証拠。その証拠として、転写魔法。
 金を受け取るゴルドーニの似姿を描き出す。
 ホント嬉しそうで憎たらしいな、これ。

 あの金は確かに、名目は若手ヒーラーへの支援であり。
 実質はヒーラー組合幹部ゴルドーニらとの和解金であり。
 そして裏を返せば、ゴルドーニの掘った墓穴だ。
 あいつは自分で自分の掘った穴に落ちたんだよ。

「悪知恵働くよねえ。ホント魔女でないのが惜しい。
 ハインたん、女装とか興味無い?」

 シャンタルたん、女装しても男は男だろう。

「じゃあ、女体化とか」

 変身魔法かよ。勘弁してくれ。

「パンツ貸すよ?」

 着る物の問題でない。
 というか、何故にパンツだけ。

「え、ダメ? パンツを履いた魔女」

 履いてない奴が居るみたいに言うな。
 ホウキで飛ぶ時とか、絶対困るだろ。

 えー……話題を変えよう。
 特許。新魔法特許と魔法伝承料。
 それと授業料も計算しなきゃならんが。
 残額が心許無いので、先に売り上げをください。

 売り上げは、まずSクラスが25件。新規攻撃魔法。
 特許取得の為に伝授したフレスさんを除外して。
 残りの大魔女が3つずつ、上級魔女が1つずつで21。
 残り4つは外部向けの温泉魔法だな。

 S級はお高いので、上級魔女でも負担の様だ。
 段々に揃えるという。まあ、急がず慌てず。

 Aクラス78件。Bクラス133件。Cクラス56件。
 増えたな。どうしたコレ。
 神人の魔法収集家が買い漁って行ったらしい。

「北部大魔法ナントカと言っていた様だ。
 うかうかしても居られまい。
 先を越される前に、次のを作って貰わんと」

 フリアさん。そうだな。
 また時間を作って取り掛かろう。

 売上総額としては3920万。
 罰金と支援金を相殺して、まだ釣りが来る。
 残高4133万。増築資金には足りるだろう。

 特許取得は、温癒魔法が治癒Cクラス。
 制動・音紋・気象観測が補助Bクラス。

 今回の伝授は、整地・再生・転生魔法。
 転生魔法の披露には魔力が足りない。
 ジズ様が魔法機関と同じ魔法で取り出してくれた。

 模倣魔法。相手のスキルを習得する。
 準禁呪級補助魔法らしく……罰金分、出そうか?
 大丈夫というけど、やっぱ出しておく。100万。

 それから、子供達の魔女授業だが。
 話を振ると、むふっと笑う魔女達。
 何か目論んで……え、何。試験?



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