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黒鷲の旅団
22日目(6)上を見上げて

「あっ、大魔道士じゃん」
「大魔道士さん、いらっしゃい」

 ……こっちはこっちで早くないか。

 思う所あって冒険者ギルドへ。
 職員やら唯人の冒険者やらに大魔道士と呼ばれる。

 ハイ・ウィザードなら上級魔道士だ。
 恐らくはアーク・ウィザードの称号の事なのだろう。
 魔女協会で称号を繰り上げたから……だと思うが。

 しかし、一体どんな早さで伝わっている。
 特に言い触らしもせず、割と真っ直ぐ来たんだが。

 用件は、冒険者等級の繰り上げ審査依頼。

 子供達が正魔女試験に失敗したら。
 いや、大丈夫とは思いたいけれどもだ。
 もし失敗した時、他に何か上がっていた。
 それなら多少は気が休まるのではなかろうか。
 そんなワケで、子供達の等級審査を頼む。

「あれ、本人は?」
「良いの良いの。ほら、黒鷲さんだよ」
「あー、黒鷲さんか。そっかそっか」

 ダニエルと俺の悶着は、支部長から聞いている様子。
 受付さん達も、本来必要な本人確認は免除。
 パーティウインドウから解析、転写。書類で確認して貰う。

「あ、ハインさん」

 審査を待っていると、トール少年の姿。
 住居は東区の酒場に落ち着いたらしい。

 裏を返せば、あの物置部屋が唯一の拠点。
 やはり普通の宿は取れそうにないか。
 不自由していない、というトール少年だが。
 魔物従者達までみんな一緒では狭いだろう。

 今日の用事は?
 彼は討伐した魔物の素材を持ち込んだ様だ。
 買い取りの査定を待っている所か。

 少し情報を共有する。
 神人と転生者の違いは何だ。

 ステータスや何かのウインドウ表示。
 これは神人にも転生者にも、NPC・唯人にもある。
 唯人的には魔法で能力を可視化して云々。
 異世界人からしたらゲームっぽい仕様。

 神人には脳内ウインドウからのマニュアルがある。
 これは転生者には無い。
 代わりに守護担当となった神様から助言が来る?

 ウインドウは表示させれば、他人も横から見れる。
 何か見たい項目とかあるか?

「いえ、大体は女神さまが教えてくれるので。
 あ、でも、折角だから。冒険者に関して、とか」

 冒険者に関して……俺も熟読はしていないな。
 折角の折角だ。開いて見てみよう。

 冒険者の定義。直訳は冒険をする者。
 職業としては日雇いの何でも屋といった印象だろうか。
 金を貰って危険冒険を請け負う。
 怪物退治などは分かり易い例だろう。

 依頼達成を繰り返し、経験と実績を積むと等級が上がる。
 等級が上がると、ギルドで受けられる恩恵も増える。
 以下、この世界における等級。ランク付け。

 ランク0:無等級
 ランク1:鉄等級
 ランク2:黒鉄等級
 ランク3:銅等級
 ランク4:赤銅等級
 ランク5:銀等級
 ランク6:白銀等級
 ランク7:金等級
 ランク8:白金等級(プラチナ)
 ランク9:霊銀等級(ミスリル)
 ランク10:金剛等級(ダイヤ)
 ランク11:神銀等級(アダマンタイト)
 ランク12:神金等級(オリハルコン)

 金属の選定は強度の他、希少性や華やかさもあるのだろう。
 鉄より赤銅が上なのは、火竜の鱗の色だから、らしい。

 上の方では、アダマンタイトとオリハルコン。
 魔法で特殊加工しないとアダマンタイトの方が強いらしいが。
 しかし加工した前提なのか、オリハルコンが上。
 まあ、そもそも、まずお目に掛らない金属だ。
 どっちが上ってのも論じ難い問題だと思うけれども。

「そんなに上があるんだ。神金級、なれるかな」

 目指す気なのか。チャレンジャーだな。

「ぎゃははは! 無理無理、無理だぜぇ〜!
 お前みたいなガキ! チビ!
 オマケにテイマーだって? 笑わせらあ」

 絡んで来たのは数日ぶりのダニエル。
 前に見た時は、魔王軍討伐隊に便乗していたな。
 状況から、侯爵を見殺しにして逃げたんだと思うが。
 鼻を覆う様に包帯。診断スキルが骨折と言っている。
 無様な格好で煽っても、無様は無様だ。

「下ばっかり見下してると、小さい大人になりますよ」
「はあ? 生意気なガキが……うおっ!?」

 一瞬だった。誰を止める暇も無かった。
 ダニエルが掴み掛って、トール君が投げた……投げた?
 ダニエルは屈強でもないが、それでも子供が大人を。

「あんまり見た目で判断しないでください。
 これでも柔道やってたんです」

「やるじゃんか、坊主!」
「小さいのに強いんだねえ」

 見ていた冒険者達が沸き立って。
 トール君のお株は上がった様子。

 しかし、ちょっと軽挙だったんじゃないか。
 あれでも貴族。怪我させたなどと騒がれたら。
 貴族の実家から圧力掛けて来なければ良いが。

「え、あっ、マズった!?」
「覚えてろよ、てめえええ!」

 トール君が振り返るも、間に合わない。
 背中をさすりながらダニエルが逃げて行く。

 何かされる前に、こっちから弁解に行くべきか。
 あいつの親の顔とやらも拝んでみたい所だしな……

 うちの子達の審査結果は後で受け取ろう。
 トール君と、目撃者数人を連れて行く。
 受付さん。あいつの実家、どこだか分かるか?



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