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黒鷲の旅団
22日目(8)成果諸々

「あっ、出て来た!」

 小ガーランド子爵の屋敷を出た所。
 ユッタやイェンナ達が駆け寄って来た。
 授業が終わって、俺を探していたのか?
 冒険者の誰かに俺の行き先を聞いたのだろう。

「怪我してない?」
「敵は? 敵は?」

 何だか各々、息巻いている様子。
 今日は殴り込みじゃないから。偵察だから。

「何だ。違うってさー」
「撤収! 撤収ー!」

 ティルアが肩を竦め、レーネが何か合図。
 すると、物陰から高所から、ジルケ達がわらわらと。
 よくよく見れば、花人・魔物隊以外は全員居た。
 包囲陣形で伏兵まで仕込んでいたとは念入りな。

「え、おっ、何だ? 襲撃か?」
「いや、まさか。子供ばかりに見えるが」

 少し離れての話し声は、隣の館の警備兵達。
 他の家々からも、侍女やら執事やらが顔を出している。
 こちらの人数が人数なので、注意を引いてしまったか。
 王城に近い上流街。立ち並ぶのは貴族や豪商の屋敷。
 屋敷の主人、周辺の家々にも話が伝わるだろう。

 早々に立ち去る。
 ただし、コソコソしても印象が悪い。
 総員、2列縦隊。堂々と帰ろう。
 権力相手では、見栄や威風も防御力になる。
 印象操作を軽んじてはいけない。

「お疲れ様ですっ」
「お騒がせしてまーす。こんな感じ?」

 レーネ、警備兵に敬礼。
 アンヌ、家々に会釈。
 そうそう、外面を意識して。
 ギャラリーがにこやかに手を振ってくれる。

 俺も貴族式のお辞儀なんぞを繰り出しつつ。
 子供達の隣を歩きながら聞く。
 ユッタ、イェンナ。試験はどうだった?

「勝ったよ!」
「楽勝だった!」

 勝っ……うん、上手くやったんだな。偉い偉い。
 試験の場合は受かったとか言うんだが。
 試験なんて初めてだものなあ。

 他の子もみんな受かった?
 失敗した子は居ない?
 にかっとした笑顔が並ぶ。
 大丈夫そうだな。それは良かった。

 中流街との境目まで行って、整列。
 振り返って上流街の方に一礼。
 貴族の館で働く人々は、拍手で見送ってくれた。

 試験の具体的な手ごたえについては、後で聞こう。
 子供達は先に帰って昼食の支度だ。
 俺はトール君達と、冒険者ギルドに寄ってから戻る。
 受け取るべきは冒険者等級の審査結果だ。

 ギルドに着くと、蒼い顔をした支部長が居て。
 こちらの姿を見て、ホッとして、へなへなと倒れた。
 おい、大丈夫か。心労が祟っているな。
 一緒に来ていたマルコ達が担いで行ってくれる。

 今日は勉強になった、とトール君。
 いや、俺も半ば他人だからこそ冷静だったのだし。
 お前さんに聞く耳があったのも良かったんだろう。

 自分の判断を過信しない事だ。
 心地の良い手段がいつも正しいとは限らない。
 イエスマンばかり集めると、いざという時に全滅する。
 やっぱり諫めてくれる人って必要だよな……

 それはそれとして、冒険者等級審査結果。

 サンドラちゃんは銀等級に据え置き。
 追加で銀等級に昇進は、ユッタ、イェンナ。
 トゥーリカ、マリナ、フェドラ、レーネ、ペトリナ。
 マルカ、ティルア、カリマ。

 赤銅等級に昇進。カーチャ、ノイエ、ツェンタ、アイリス。
 テルーザ、エメリナ、フレヤ、ジェマ、ルーシャ。

 銅等級。ジルケ、ヘルヴィ、ヘレヴィ。
 フィリッパ、ローダ、テクラ。

 黒鉄等級。フリーダ、リリヤ、ダーシャ
 ルジェナ、マリッタ、アルメル。

 鉄等級。トゥリンとヒュリヤ。
 アンヌは魔王の娘なので審査保留。残念。

 あと、頼んでないのに俺の審査もされていて。
 俺は白銀等級に昇進された。
 権限や恩恵自体は、銀も白銀も大差無い様子。
 ただ、実力や実績としては確かに上だという。
 依頼人がどちらを選ぶか、といった差は出て来る。

 金等級に上がるには試験を……今は別に良いや。
 ひとまず急ぐ案件ではない。

 認定証を受け取っていて、ふと気付く。
 何人か、名前の他に何か書かれている子が居る。

 例えばユッタ・ハルストローム。
 の下に、グリフィンスレイヤー。

 ジルケ・ハイネマン。
 の下に、ゴブリンスイーパー。

 何だこれ。解析……2つ名? 実績系の称号か。
 一定数、対象を狩り続けると取得。
 得意な魔物に特攻。ダメージ追加効果。

 ジルケの場合、得意というか嫌いというか。
 まあ、これも努力が実を結んだと言えなくもないが。
 そのまま邁進させて良いのか、ちょっと心配だ。

 あと、成果と言えばもう1つ。
 フィリッパの両親……らしき人物が見つかったと。
 どこで。神聖教会なのか。

 まあ、ついでの用事もあるしな。
 昼食を済ませたら出向いてみるとしよう。



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