黒鷲の旅団 >22日目(9)褒めて伸ばして褒めて褒めて


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22日目(9)褒めて伸ばして褒めて褒めて

「それはちょっと……悲しいですね」
「えー、あんなの同情する事無いよ」

 マイナさんとマルカ。
 まあ、勢いから言ってしまっただけかも知れんけど。

 昼食を取りながら情報交換。
 まずは俺が調べて来たダニエルの家の状況だ。
 ダニエルの素行の悪さには、親父さんも頭を痛めている。
 いっそ殺してくれれば、とも言われた。

 孤児のマルカにしてみれば、親が居るだけマシかも知れん。
 しかし実の親が実の子に対して、物騒な話ではある。
 そう言わしめるに至るだけの、何か経緯があったのか。
 深く知らない以上、今その是非に言及はするまい。

 ただ、その、自分を認めて貰えない。
 あるいは、ダニエルがああなった理由、の一端か。
 同情するしないはともかくとして。
 何か付け入る隙に繋がるかも知れない。

「嫌いな奴なのに、何で調べてんの?」
「イカと同じだよ。観察すんの」

 ダーシャの問いに、ティルア。
 そうだ。観察して弱い所を探す。
 権力という殻に守られた、攻め難い相手だ。
 美味かっただけ、イカのが上かもな。

「イカか〜」
「うーん……じゅる」

 ヨダレを啜るツェンタとアイリス。
 ゲソ揚げの味を思い出した様だ。
 後でまた海にも連れて行こう。

 ダニエルの親子仲は険悪。目下障害は祖父。伯爵位、と。
 父親はダニエルへの仕置き容認でも、祖父の恨みを買う。
 俺が何か手柄を立てて伯爵以上になるか。
 あるいは祖父の意識の方を何とかするのか。
 まだ遠い道のりだが、目標に具体性が出て来た。

 しかし、早まって手を出したりしない。
 安易に逮捕させて『後は我々が引き受けよう』などと。
 しかし結局、後になって抜け出して来て悪さをする。
 フィクションだと、よくあるネタらしい。
 そして現実の警備体制が、フィクションより強固とも限らん。

 なるべく直接恨みを買わない様に気を付けつつ。
 しかし最低でも永久追放相当に追い込む。
 戻って来たくても協力者なんていない状態にして、だ。
 足さえ付かなければ事故死にしても良いぐらいだが。

 安全かつ確実に、ダニエルを俺達の前から撤去する。
 いちいち顔を見る度に絡んで来るだけでもウザいのだし。
 何より、ペトリナに安心して暮らして欲しい。

 まあ、ダニエルの話は置いといて。
 試験の方はどうだった?

「正魔女とね、あと、魔法治療師!」

 ユッタをはじめ、正魔女試験に受かった子供達。
 得意げに認定証を見せてくれた。

 9人揃って正魔女の認定証と、初級の魔法治療師免許。
 魔法治療師。職業ヒーラーとして治癒魔法を使える証明。
 これがあると、魔女協会の指定した適正価格で料金を取れる。
 つまり、非戦時の副業への足掛かりでもあるワケだ。

 フレスさんに説明を受ける。
 正魔女は試験を受けて、数々の免許を取れるらしい。
 治癒術の他に、薬草知識、魔物使い、人形使い、生活魔法。
 精霊魔法、黒魔術、対人戦闘術、軍学、古代文字。
 他にも教えているが、以上の10項目は必修。
 必修10項目の習得を経て、上級魔女への道が開ける。

 ちなみにサンドラは魔女協会所属。
 授業料免除で、既に幾つか免許を取っている様だ。

 治療師に加えて、レーネ達を保護する為に取った魔物使い免許。
 インテリ方面、薬草知識と古代文字は元々得意分野。
 毒魔法のレポートが軍学、初級従軍魔女免許に繋がった。

 従軍魔女。バフ・デバフの他、魔法を使った作戦立案もする。
 さすが参謀ちゃん。参謀っぽい。

「ごっ、5個かあ〜」
「勝てねぇー」
「しゅふふふふふ♪」

 フェドラとイェンナに得意げなサンドラちゃん。
 まだまだ先輩の地位は安泰かな。
 今は人形使いの勉強をしているらしい。
 拳銃とかも練習している。努力家だ。

 偉い偉い。撫でこ撫でこ。
 頬を撫でるとグフフと笑う。
 可愛い可愛い。よしよしよしよし。

「ちぇー、ドラっちばっかり」

 そんな事無いよ。イェンナも偉いよ。
 カリマも偉い。ユッタもフェドラもみんな偉いぞ。
 よしよしよしよし、よしよしよしよし……

 ……結局、全員撫で繰り回してしまった。
 俺も段々、親馬鹿めいて来た様な。
 まあ、ダニエル一家の例もある。
 うちは叱るより褒めて伸ばそう。

 そう言えば、リータの件は。
 フレスさん曰く、再生魔法は効果があった。
 患部は治って、しかし、お漏らしが治らない?

 診断、解析……判定は『処置済み』だ。
 単に身体が忘れてしまっているのだろうか。
 今少し経過を見る事にしよう。

 午後の予定。まず、フィリッパの両親……かどうか。
 似た様な人が居たらしいので、確認しに行こう。
 その足で、ベラさんのメイド勧誘もする。
 俺とフィリッパ、マリナ。あと誰を連れて行くか。

 その間、他の子は装備の点検、矢弾の補充。
 それが済んだら、また領地巡りだ。
 お勉強と実地訓練の繰り返し。
 着実に実力を身に着けて行こう。



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