黒鷲の旅団 >22日目(11)誰しも茨の道の途上


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22日目(11)誰しも茨の道の途上

「ぎゃぶっ!」
「ぐぶぉ!」
「ぶべっ!」

 アウローラ、早々に後方3人を排除。
 掌底で弾き飛ばし、壁にめり込ませてしまった。
 レベル800台。恐ろしくも頼もしい。

 マリナとフィリッパは追従して戸口へ。
 ヘルヴィとヘレヴィが脇を固める。
 武器。コールストレージ。幸い魔法阻害は無い。

 阻害が無い。探知。解析。空間認識。
 外部に敵は居ない様だが、状況は良くない。
 アウローラさん、そのまま外に出てくれ。
 事情説明と応援要請を頼む。

 探知情報が、外部の反応変化を告げていた。
 敷地内の光点が、友好の緑から警戒緊張の黄色へ。
 俺が信徒相手に暴れている、などと思われては困る。
 後ろから捕縛されている間に正面から刺されるのはご免だ。

 あまり講堂を壊すなよ、とアウローラ。
 今、あんたが一番壊してるだろ。
 壁の3人を指差すと、ゲラゲラ笑って去って行った。

 俺も迎撃しつつ後退しよう。
 暗殺者連中、数こそ多いのだが。
 しかし、講堂左右の長椅子が邪魔だ。
 マリナ達の牽制射撃も始まる。

 連中の装備は軽装に見えて、対魔法仕様との鑑定結果。
 付与魔法は効果が薄い……が、それだけか。
 距離30m足らずで、狙撃銃を防ぐ防御力は無い。

 スコープを覗かず腰溜めに撃つヘルヴィは正しい。
 フィリッパ、ヘレヴィ、無理の無い構えを。
 狙い撃つ距離でなし。どこか当たれば大怪我だ。
 マリナの弓は同時複数射の物量作戦で火力を補う。

 敵方は堪らず長椅子に身を隠す。
 乗り越えて来る余裕はあるまい。
 外側を回り込んで来ないかだけ注意。
 早々にフィリッパが氷花魔法で塞ぎ始める。

 目下、障害は正面の通路。
 俺に迫るのは、まずニセ両親。狭そう。
 左右に長椅子。前後に動ける幅は大人2人分程度。
 間で腕を振り回せば、相方に肘が当たる。

 すぐ気付いたか、向かって左の女が短剣を左手へ。
 両利きに鍛えているとは流石の暗殺者。
 しかし俺が中央袈裟掛けに振れば、背中の方が無防備だ。

 女が下がって避ける。返し刃の追撃は右へ。
 向かって右、男の右肩後方が隙を作っている。
 男は男で腕を回し、短剣で防いで来るのだが。
 対する俺は両手が自由。右の片手剣を左手へ。
 開いた右手で曲刀を繰り出し、脇を、左の剣では肩口を裂く。

「どけえええい!」

 煌いたのは両手剣、いや、刀か?
 前の2人が左右に散る。合間に刀使いが斬り込んで来る。

 こちらも武器変更。刀。ハーフソードの構えで迎撃。
 武器の出し入れ自在な所は、ホント神人で良かったな。

 下がりつつ左払いパリィ、下がり返し刃右パリィ。
 左下打ち落とし、反転縮地、顔面に柄打ち。
 顎を打った。追撃。兜割り。
 避けられるも逆風の太刀で追う。右腿を裂いた。
 刀使いが転倒。無理に追撃せず、再び後退に移る。

「くそ、何故こうまで使える!
 銃士で術士じゃなかったのか!」

 吠える暗殺剣士。その手のセリフは聞き飽きたな。

 そりゃあ、銃も魔法も使うけれども。
 だから剣を使っちゃいかん、なんて決まりは無いだろう。
 次の攻め手を迎撃しつつ、少し講釈をくれてやる。

 魔法使いは剣を持てない、は、おかしい。
 腕力の許す範囲で物体を持つ。掴む。振り回す。
 この物理現象のどこに無理がある。
 そりゃあマッチョな前衛専門職には劣るにせよ。
 それは『使えない』という事にはなるまい。

 あるいは、自分は剣に生涯を捧げて来たのに、か?
 鍛錬しているから負けないハズだ、は、おかしい。
 自分が努力したからと、相手が努力していない事になるか。
 それは慢心だよ。死に至る慢心だ。

 大体……あんた兼業剣士だろう。
 最強剣士になりたきゃ、暗殺者やめて剣振ってろよ。
 こんな余計な仕事していて、追い付かれない道理は無い。

 技術は才能と鍛錬と環境要因の掛け算だろう。
 俺も電脳社会の傭兵、環境に恵まれているのは否定しない。
 反復鍛錬は頭にデータをインストールすれば定着する。
 しかし、それは俺だけに限った話じゃない。
 近接戦闘経験2万時間分なんて、誰でも入れてるぞ。

 脳負荷に耐え、時に心身を病み、寿命をすり減らして。
 四肢を失い義体に替えて、苦い敗北を繰り返して勘を養い。
 銃と近接戦を当たり前に使える様になって、ようやく凡庸。
 俺なんて凡庸だ。俺以上は幾らも居る。
 努力で血が滲んでいるのが自分だけだと思ったか。

 などとダラダラ喋っていたら、ドカドカと足音。
 アウローラが戻って来たか。
 配下は衛兵、神殿騎士団。併せて30名ばかり。
 講堂を取り囲む様に展開しつつある。

「退くぞ。時間を掛け過ぎた」
「この借りは覚えておくぞ!」

 連中は講堂の奥に下がって、爆薬か何か。
 側面の壁を破壊すると、脱出を開始した。

 やれやれ、だ。引き際は確かにプロだったな。

 聞きたい事があったのだが、捕虜は、と。
 フィリッパ達に撃たれて倒れているのが2人。
 アウローラが壁にめり込ませたのが3人か。
 息はある。治療と尋問に掛かろう。

 尋問は連中の方が得意だったかな。
 何だか怪訝そうな顔の異端審問官の姿がある。
 今日の所は休戦でお願いしますよ……



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