黒鷲の旅団
22日目(14)絞首台より失敗を踏み台に
「ああ、黒鷲様! 良い所に!
どうかご慈悲を! 息子をお助け下さい!」
ポータルで農村へ移動して、早々に事件の気配。
ケンタウロスのご婦人が2人駆け寄って来た。
「うわああん! いやだあああ!」
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
手を引かれるまま向かってみた。
ケンタウロスの少年2人が縄でグルグル巻き。
台の上に立たされて泣いているのだが。
その2人の前に、ぶら下がったロープの輪っか。
絞首台に見える……ちょっと待て。何やってる。
「おおぉ、よくぞお越しになられました。
こ奴らが、お子様に無礼を働いたと聞きましてな。
すぐにでも、こう、間引きますので。
どうか変わらず、ご支援頂きたく」
ケンタウロス長老スラヴォミールさん平伏。
刑吏役のヴィクトリエさんらも集まって来て膝を付く。
無礼というのはリータへの悪口か。
そりゃ、困ったモンだぐらいには思ったが。
処刑なんて、幾らなんでもやり過ぎだ。
しかし長老さん達、必死の様相。
俺の身内に無礼。ケンタウロス全体への悪印象になる。
それで俺の後ろ盾を失っては部族全体が困るという。
部族社会ってのも怖いモンだ。
部族全体の為ならと、切り捨てられる者が出て来る。
それを容認しがちな社会が出来上がっている。
それとヴィクトリエさん、どうか皆殺しだけはって?
最初にビビらせ過ぎただろうか。
男衆が束になって勝てなかったのは、唯の作戦勝ちだ。
それに、そもそもは、うちの子に対する無礼への処罰。
俺にお伺いを立てずに処罰を決めてどうする。
処刑して後で聞かされるとか、ドン引き2倍増しだぞ。
処刑は無し。態度を改めてくれたら良いんだ。
放免も出来ないなら、せめて俺が直々にお説教しよう。
ケンタウロス少年2人を台から降ろしてやる。
名前は? ハヴェルとカシュパル。
座らせて、落ち着かせて。話をしよう。
お説教。何がいけなかったか。
身体の事を馬鹿にしたのが良くない。
俺の子だから、ではなく。誰に対しても。
男は女に優しくするモンだろうが、それを差し引いても。
例えばだが、腰から馬なんか生やしてキモチワルイ。
そんな事を言われたら、お前さん達だって嫌だろう。
俺だって、足が2本しか無くてキモいと言われても。
そんな事を言われたって、どうこう出来るものでもない。
背が高い、低い。足が太い、細い。
痩せろ、顔を変えろ、髪を増やせとか。
そんな事を言われても、だよ。
同じだけ食っても太る奴は太る。
だらしないの限りではない。
そんな、好きで抱えたでもない特徴を罵って。
誰かを落として勝った気にはなるな。
落とした奴以外と、お前との関係性は変わらない。
勝った気分だけ。自分の価値は増えていないんだ。
努力しないで勝った気分だけ味わおうとするな。
あくせく他人を落とす様な、セコい強者になるな。
自分が勝っていると思うなら、自分を誇れば良いだけだ。
どっしり構えていられる様な、ちゃんとした強者になれ。
強者でありたければ、他人を落とすより自分を磨け。
努力がなかなか実を結ばない事もあるけれども。
全く努力しないで実を結んだ例は無いだろう。
今日は失敗したかも知れない。
でも、それでお前が全くダメな奴だなんて言わないから。
今日からでも明日からでも、少し自分を変えてみないか。
と、まあ、後は自分でどうするか考えてみて欲しい。
言うなと言っても陰口が零れる事はあるだろう。
それでも、相手に聞こえる様な所で言うなよ?
それは相手を落として傷つけるだけじゃない。
お前達の品格をも落とす行為だからな。
以上、お説教終わり。
ハヴェルとカシュパルは、終始涙目で俯いていて。
しかし、真面目くさった顔だ。
口に出さずとも、あれこれ考えているのだろう。
ひとまず内省に任せ、経過観察とします。
また懲りずに手伝いに来なさい。
気持ちと責務に折り合いをつけるのも修業の内だ。
喜んだのはケンタウロスの母親達。
旦那よりも父親らしかった?
それは俺がどうこうより旦那の力不足だと思うが。
何かお礼を、というのは辞退する。
俺より子供らを励ましてやんなさい。
さて、お説教はそれとして。
長老さんと少し話をする。
軽挙妄動はお控えください、も、そうだけれども。
ケンタウロス配達員3名は、今の所、順調。
配達局からも、もう少し増員したいと言われている。
また3人ぐらい選抜してみてくれ。
それから、農村の方。
村長ゼールバッハさんと相談。
果樹園設置の提案と、場所について相談した。
提案自体に乗ってはくれたが、時間が欲しいという。
手広く開墾計画をしていて、見直さなきゃならんと。
何を生やすかも検討しないとな。
話が纏まったら、通信を貰おう。
レイニさんのチームに通信魔法を伝授してある。
それと……転生した子供達。
容体や何か、健康面は至って元気。
ただ、どこから聞き付けたのか。
探りを入れに来た魔術師を数人追い返したという。
匿う場所を考え直した方が良いだろうか。
俺の自宅も、出入り制限を解除しがち。
締め出すと今度はケンタウロスの収穫手伝いが困る。
どこかに別の家か部屋を借りたい。
公主……戦争中で連絡がつかんか。
キャスティーナさんに相談してみよう。
黒鷲団、出撃。まずは鉱山町を通って港町を目指す。
道すがら、モンスターも掃討して行こう。
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