黒鷲の旅団
22日目(15)余波の端を通って
「左、オーガ4! 弩兵隊、迎撃!」
「右前、キマイラ2! 弓兵隊、遠射します!」
村を出て早々に、大型モンスター多数。
レーネとマリナがテキパキと対応に掛かる。
「来たよ、グリフィン!」
言いながらユッタ、立て続けに2射。
ヘッドショットを受け、グリフィンが2体落ちて行く。
動体相手にもよく当てるユッタ。
元々上手かったが、更に磨きを掛けている。
ユッタの撃ち漏らしをイェンナ達で撃ち落として。
戦況は余裕だが、子供達の緊張は解けない。
広域探知。探知状況。解析。
数が多く、内訳も大物ばかり。
「やっぱ、あれのせいかなあ」
イェンナが左手、北の空を見上げた。
北側、イズマイール方面。
上空に分厚い暗雲が立ち込めている。
根深く残った闇の気配、か。
戦乱の影響、その余波だな。
人死にが増えると闇の気配も増えるんだった。
ブラッドエーテルの運用。粒子砲による大量殺戮。
相当な犠牲者が出ており、その影響は少なくない。
闇の気配は周辺のモンスターを強化。数と質を増す。
ゴブリンはホブになり、トロールやオーガに入れ替わり。
オオカミは追い立てられ、キマイラなどが跋扈する。
空は普通にグリフィンとか飛んで来る。
村の方は魔女達の魔物避けが効いていた様だけれども。
この分だと集落の間、行商や旅人、各種流通が滞る。
既に神聖教会もイズマイールの浄化に当たっていると聞いた。
しかし、今日明日は厳しいだろう。
被探知に反応してか、遠方の敵反応まで寄って来る。
仲間をやられて怒っているのか。
あるいは、他に手頃な獲物が居ないからだろうか。
いずれにせよ、暫くは落ち着けない状況が続きそうだ。
第1波を凌いで、ノイエやアイリスが活力魔法を展開。
俺も手伝おう。矢弾の方は足りているか?
第2弓弩隊の疲労が激しい。隊列の内側で休ませる。
「エレクトレール! シュートォ〜!」
フェドラ、電磁加速魔法で鉄矢の強射。
狙うのは遠方のコカトリス。
近付かれる前に処理、安全確保している。
石化は即死に並んで怖いからな……
電磁加速第4位、エレクトレール。
細長い前後帯状に弾体加速領域を発生させる。
中を通った分だけ、矢弾が加速され続ける。
上手くやれば、環状のエレクトリープより強力。
しかし、電磁場も射撃自体も敵に向けなきゃならん。
電磁場の帯を、動く敵の移動先を予測して展開。
そして矢が正確に帯の間を通った。
頭を粉砕されてコカトリスが墜落する。
射撃制度、魔法制御、相対位置の予測の同時進行。
フェドラも大概、天才肌だなあ。
「デューテロン・ボルト!
グレイシャ……おあああ、魔力が切れるぅ〜」
S級攻撃魔法を連射していて、失速。
シャンタルが上空から、ホウキでフラフラ降りて来た。
すとんと収まった先が、馬の上。俺の後ろ。
「やあー、ごめんごめん。でへへ」
でへへって……まあ、いいけど。
無理するなよ? 少し休んだらまた頼む。
フレスさんの力になります宣言。
フレス派の魔女が交代で追従して来る事になった。
攻撃、付与、障壁展開。戦略の幅が広がる。
特に上級魔女は、魔力も持ち技も多い。
それでも、この状況は負担か。
「何か、こう……無いかなあ。
ドカドカーっと掃除できる様な新魔法とかさ」
新魔法、は、俺も模索したいけれども。
あんまり大きい魔法は魔力が足りなくなるしな……
魔物を粉砕しつつ、鉱山町へ到着。
あ、ダメだ。魔物が跋扈している。
元々住民が居なかったので、何も対策していない。
しかし、そんな状況でも移民希望者が来てしまっていて。
3人ばかり坑道開発予定地、洞窟の中に隠れていた。
魔物避けを施すには術者が常駐しなきゃならんのだが。
僅か3人に対して術者を置いて行くのも勿体無い。
一旦保護して、後日落ち着いたら出直して貰おう。
食料ぐらいは用意するという条件で同意を得る。
鉱山町はサラッと目につく魔物だけ討伐。
後の対策は、もっと落ち着いてから考える。
いつ落ち着くんだ、という気がしないでもないが。
3人保護して、馬車の中に押し込んで。
このまま、まずは港町を目指す。
キャスティーナの館には港のポータルから飛ぼう。
港町の方は大丈夫だろうか。
あちらは人が居るから、対策しているか。
それでも、油断せずに行こう。
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