黒鷲の旅団
22日目(16)留守番姫の友達
「降って来ちゃったね」
窓の外を振り返り、空を見上げるユッタ。
うん、まあ、降って来ちゃったけど。
これはちょっと、降って来ちゃい過ぎだな。
イズマイールから立ち込めた暗雲は、ちゃんと暗雲だった。
広がった先で、相当量の降雨を生み出している。
相当量。土砂降り。冷気を伴う冷たい雨になった。
この中を強行しては風邪を引く。
俺達は港町への行軍を中止。
トゥルチャのキャスティーナ邸へ逃げ込んだ。
「くしゅん!」
「ひぷしゅ!」
クシャミをしているのはノイエとジェマか。
逃げ込んだといっても、みんな大分濡れてしまった。
防水魔法が行き渡るにも時間が掛かってな。
既に乾燥魔法は施したが、冷えて来たただろうか。
温熱・温癒魔法を追加していく。
「皆さん、どうぞこちらへ。
温かい飲み物も用意しています」
屋敷の管理人、領主代行キュリアさん。
大勢で押し掛けた上に、世話を掛けてすまん。
「領民を守るのは領主の、そして領主代行の役目です。
他にも必要があれば、何なりと」
留守を預かるだけあって、信頼と権限を得ている様だ。
すまんを重ねる様だが、この際頼らせて貰う。
鉱山町からの避難者3名。
屋敷の客間に泊めて貰う事になった。
農村の子供達についても協力を得る。
転生者5名、他の赤ん坊や母親達も預かってくれるという。
雨が落ち着いたら連れて来よう。
それと……シャンタルを介して港町と通信。
駐留していた魔女、チェチーリアとジニーから。
避難して来ていた船員達の撤収は完了。
昨日の内に迎えが来た様だ。それは何より。
残っているのは新規移民が12名。
内訳は人間種ばっかりらしい。
ひとまず亜人融和政策だのは置いとこう。
魔物避けは効いている様なので引き続き駐留する、と。
何かあったらこちらを頼る様に言って、通信終了。
次、農村側。レイニさんと魔女ルーツィエ&ロロット。
魔物の襲撃を受けたという報告を受ける。
被害は酷いのか?そうでもない?
襲撃して来たのはケルピー4体。
中型からやや大型の、馬に似た水棲モンスターだという。
雨で増水した川を辿って来たのだろう。
魔物避けの為、村には入って来なかった。
ただ敷地の外縁部、ケンタウロスの駐留地が襲われた様だ。
村には入らないという協定だったが、仕方なしと判断。
死人が出る前に、村内への避難許可を出した。
許可の確認が遅れたというが、その辺は裁量の範囲とします。
負傷者が数名。治療済み。
ケルピーは水の魔法を使うらしい。
村には入って来ないのだが、来ないなりの嫌がらせ。
魔物避けの外から魔法でチョッカイを出して来る。
村人はレイニさんを中心にバリスタや投石機で反撃。
カルバリン砲は雨で湿気って使えず。残念。
とりあえず撃退し、今は警戒態勢を継続中か。
こちらも援軍が必要なら呼んで貰うかな。
夜通しの警戒態勢になりそうだ。
状況確認はこれぐらい……と、まだあった。
南、コンスタンツァに出向いたイェルマイン達?
イェンナが同窓のエリック少年から通信を貰った様だ。
代官の館に居ると伝えて、こっちに来るって、と。
何やら相談したい事があるという。
詳しい話はついてから聞こう。
「おに〜ぃちゃんっ♪ そいやっ!」
ぐわ!?
唐突にアンヌからヒップアタックされた。
不意の出来事に受け損ない、よろけてしまう。
「ふふふ、なあにメロメロしてるのよ。えっちぃ」
えー……それは違うと思うんだが。
そんな事より、子供らが待ってる?
分かった終わった今行くから。
破廉恥ギリギリの催促はヤメレ。
屋敷の主人、領主代行が張り切っている。
パタパタと走り回って、茶会の支度。
普段は独りで居る事が多く、来客が嬉しいのだろう。
しかし……代行とはいえ領主の館だが。
執事やメイドの姿は無い。
本当に自分だけで屋敷を運用しているのか。
キュリア曰く、節約だという。
家事も一通り出来て、自分しか居ない。
必要無い所に、公的な金を使いたくないのだと。
公費削減か。理屈は分かるが寂しくないか。
キャスティーナさんも、そうケチな人物ではない。
従者の一人も付けてくれそうな物だが。
「大丈夫ですよ。今日は皆さんが来てくれて。
それに、誰も居ない時は友達が……あっ」
不意に照明が薄らいで。
気が付くと、大勢の精霊?亜人種?に囲まれていた。
名乗りによれば、プーカ、シルキー、キキーモラ達。
確か妖精の親戚だったかな。
トゥーリカみたいに手乗りサイズではないが。
「あんたが黒鷲かい?」
「聞いてたのとちょっと違うかなー」
「キュリアに悪さしたら許さないんだからね」
賑やかに喋る妖精達。
聞く限り、館の主人は好かれているらしい。
茶会の支度も手伝ってくれる様だ。
天気は大荒れ。土砂降りはさらに悪化して来ている。
今夜は気を抜け無さそうだ……が、だからこそ。
今の内に気を抜いておこうか。
前へ
/黒鷲の旅団トップへ
/次へ
|