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黒鷲の旅団
22日目(18)待ち人は来たらず

「おっちゃん、そこ寒くない?」
「何してんのー?」
「タソガレてるって奴?」

 館のエントランス外。軒下に座っていたのだが。
 様子を見に来たのはイェンナ、ティルア、カーチャ。
 賑やか3人衆といった所だな。

 外は未だ、雨が降りしきっている。
 何か心配させてしまったかな。
 俺は大丈夫だよ。温熱魔法があるから。
 天気を見ながら魔法を作っていたんだ。

 気象観測、空調、防霧、防水、温風、中和。
 穏天魔法マイルドなんちゃら。
 なんちゃらの部分は、ウインドとかレインとか。
 何となく天候を緩和する地味な魔法。
 需要があるかは正直微妙だな。

 凍結、風、中和。
 涼風魔法クールウインド。

 温風、加速、水蒸気、温熱、浮遊。
 上昇気流魔法アップドラフト。

 涼風、加速、水蒸気、凍結、重力。
 下降気流魔法ダウンドラフト。

 ホント地味な魔法ばかりだとは思うのだが。
 しかし、大きな魔法の取っ掛かりにもなりそうだ。

「何か、風っぽい魔法ばっかだね」
「嵐の魔法みたいなの作るんだ?」
「えー、嵐の中で? 危なくない?」

 うん、まあ、その辺は使い様だと思うけどな。

 例えば、嵐の元になっている低気圧に対して。
 高気圧の魔法をぶつけて、阻むとか静めるとか。
 ああ、気圧とか言われても分からないか。
 お天気の授業もしてやりたいが、何から教えた物やら。

 ともあれ、中に戻ろう。
 カーチャが両腕をさすっている。少し寒いのだろう。

「んま〜い。お代わり―」

「ホントよく食う子だね。
 半分ドライアードなんて嘘だろう」

 雨宿り、領主代行主催のお茶会は継続中。
 やたらお菓子を食べているのはツェンタ。
 キキーモラのお婆さんにも呆れられている。

 それでも、美味いと言われれば悪い気はしないか。
 お代わりは用意してくれる様子。
 何だか無遠慮でスイマセン。

 用意してくれるけれど、ツェンタ。程々に。
 今からそんなに食ったら、晩メシが入らなくなるよ。

「ごはん? 食べるー」

 そうか……まあ、無理しない程度にな。
 常に食べられるだけ食べなくても良いんだから。

 少なくとも、食料分野において。
 うちの子達は随分と恵まれている。
 他所の孤児達は大丈夫だろうか。
 気にし始めたらキリが無いのだけれども。

「ひゃー、寒い寒い」
「ただいまー、なんつって」

 馬車が1台到着して。
 キャスティーナさん……じゃなかった。
 シャンタルと交代のヘリヤ。
 追加の騎兵剣を持って来たジュス姉さん。

 今日の騎兵剣は6本か。
 ユッタ、イェンナ、マリナ、ペトリナ。
 あと、ヘルヴィとヘレヴィに持たせる。

 持たせてみて、ちょっと長い?
 長いけど、敵が遠くなる方が安心かな。

 次は私が欲しい、とジルケ。
 突撃するなよ?まず射撃だよ?と念を押しつつ。
 各第2隊の隊長から行き渡らせても良いか。

「おーい、通信来たよー」

 ヘリヤと入れ替わり、帰り掛けのシャンタル。
 キャスティーナさん、ではなく農村チームか。
 魔物の再襲撃あり、援軍が欲しい様だ。
 雨に加えて夜に入る前に、掃討してしまいたいと。
 そうだな……暗くなる前に。

 各隊、出撃準備。
 どどど、ざざざ、ざかざかざか、ざざっ。
 一斉に動き出した子供達。
 あっという間に廊下で2列縦隊で整列した。

 統率された部隊としての振る舞いは頼もしく。
 しかし、カッコいいぞと褒めるとムフムフ笑う。
 子供相当で可愛らしい。

 それじゃあ、領民保護の件はお願いします。
 また寄らせて貰うと約束して、屋敷を出る。

 ……キャスティーナさんは結局、戻らなかったな。

 通信も試みたが、繋がらなかった。
 今日は前線勤務でないと聞いたが、それでも多忙か。
 何か戦況が悪いのかも知れない。

 相談したい事も幾つかあったんだが……
 まあ、最低限の用件は済んだ。
 まずは優秀な代理ちゃんに感謝。

 さて、他人より自分達の心配をしよう。
 悪天候で活性化している様な魔物が相手になる。
 増水も警戒しよう。川や水場に近寄らない様に。
 いや、川に落ちても大丈夫な方法を考えるべきだろうか。



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