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22日目(19)黒鷲団、対策会議中

「わ、わ、無理! 引っ張られる!」

 ノイエ、充分だ。離してくれ。
 それは捨てちゃって良いから。

 翼で水面上を飛ぶノイエが手を離す。
 支えを失って、水を含んだ布袋が濁流に飲まれた。

 村落に応援を求められ、しかし戦闘は始まっていない。
 余裕がある内に、俺達は少し実験を行った。

 布袋に砂などを詰め込んで、川に落としてみて。
 マルカ、フェドラ、ノイエが引き上げに挑戦した。

 これが、パワーファイターのマルカでも苦戦。
 水面を引き摺る様に、岸までは引っ張って来られたが。
 水を吸った布袋は、それでもカリマより軽い。
 一番小さいカリマより軽くても、この結果。

 戦闘予測領域、村周辺に川がある。
 仮に、雨で増水した川に落ちた場合。
 翼を持つ子が飛んで、引っ張り上げられるのかどうか。
 結論としては厳しいという事だ。

「あっ、どうだった?」

「こっちも無理。流れが急過ぎて。
 自分が泳ぐのでやっとだよ」

 川から上がって来たのはエメリナ。
 人魚化の水泳能力でも、誰かを助ける余裕は無さそうだ。

 んー……ちょっと待て。何か考える。

「だ、大丈夫だよ。気を付けるよ」

 カーチャ、お前さんを疑ってるワケじゃない。
 遊んでる時ならともかく、臨戦時までふざけないだろ。

 ただ、川に落ちない様に気を付ける、のは勿論だが。
 敵方に突き落とされるかも知れないんだ。
 そこへ来て、対策が気を付けるだけでは心許無い。

「3人掛りなら、どうかなー?」
「それなら行けるんじゃない?」

 フェドラ、マルカも考えてくれてるが。
 それは、たまたま落ちたのが1人だけで。
 たまたま3人、手が空いていたら使える方法だ。
 誰か流されて。しかし自分達の手は塞がっていて。
 そういう事態も想定される。

「あ、じゃあ、ボクらが突っ込んでって助けるとか」

 ジュス姉さん。魔人のパワーには期待大だが。
 1人ずつ拾うのでは、カバー範囲に限界がある。
 おまけに、水の中だと探知距離が落ちる。
 この濁流の中では見失う可能性が高い。

「ふ、浮遊! フロートの魔法とか」

 サンドラちゃん。
 予め魔法を掛けておくのはアリかも知れない。
 ただ、常に浮いてたらちょっと動き難いかな。
 かと言って、落ちてから魔法を使うのも難しい。

 魔法の詠唱・無詠唱。

 詠唱発動。呪文を詠唱する。長い呪文を唱えて魔法を呼ぶ。
 何とかの精霊よ我が元に来てナントカ〜、みたいな奴。
 時間は掛かるが消費魔力は小さめ。
 あと、イメージが希薄でも魔法になり易い。

 簡易詠唱。魔法をイメージしつつ魔法の名前を呼ぶ。
 発動も早めで扱い易く、魔力消費はそこそこ。
 精度で劣る為か、効力は詠唱発動より若干落ちる。
 制限は詠唱と同じく、声を出さない状況では使えない事。

 無詠唱発動。思念発動とも。
 イメージと魔力操作だけで魔法を練り上げる。
 声を出さずに使えるが、相応の魔力を消費。
 加えて、イメージが弱いと魔法にすらならない。

 子供達の中で無詠唱発動が使えるのは〜……
 ぱらぱらと手が上がる。少ない。
 サンドラ、マリナ、ノイエ、テルーザ、ルーシャだけか。

 溺れている状態では簡易詠唱すら危ういし。
 パニックになったら無詠唱だって出来るかどうか。

 でも、そうだ。最悪、息が出来れば。

 水、浮遊、結界。
 水球魔法がばがぼごぼごぼ。

 ……違う。そうじゃない。
 危うく自分の魔法で溺れ掛けた。
 水の球じゃなくて空気の球を作るんだ。
 まず試したのが自分で良かった。

 風、防水、結界。
 気泡魔法バブルスフィア。
 水を弾く空気の塊を作り出す。
 自分の頭に付与。雨粒は防ぐ様だ。
 急流に突っ込んで耐えるか否か。

 馬を降りて、川に頭を突っ込んで。
 大丈夫。浸水しない。
 これなら息が出来ぶふぉう!
 流れて来た魚が顔面を横殴りにした。

 ああ、くそ、生臭い。
 さっきから何の厄日だコレ。

 気を取り直して、気泡魔法を各自に付与。
 有効時間は……解析。1時間程度。
 1時間毎、ないし、戦闘開始前に掛け直そう。

 万が一、川に落ちてしまった時。
 この魔法で呼吸は出来る。
 落ち着いて、帰還スクロールを呼び出して。

 それも取り落としてしまったら、次の策。
 浮遊魔法……を、持ってない子が居る。

 植物魔法をロープ状に飛ばしてどこか掴まるか。
 水面に手を出せたら、炎でも閃光魔法でも何でも。
 最悪、通信だけでもくれたら救助が行くから。
 とにかく落ち着いて。諦めないでな。

 ヘリヤと、帰還予定だったシャンタルも残ってくれた。
 戦場には向かわず、下流域、交代で雨宿りしつつ待機。
 何かの時にはホウキの飛行で救助に向かってください。
 念の為、水泡魔法を伝授しておく。

 これだけ対策すれば……まあ、まだ不安もあるが。
 もしもの時、何も出来ないという事は無いハズだ。

 勿論、川に落ちない様には気を付ける。
 落ちずに済んだら、それに越した事は無い。

 レイニさんから通信。村落周辺に敵影あり。
 先に向かったイェルマイン隊が迎撃を開始した様だ。
 こちらも向かうとしよう。



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