黒鷲の旅団
22日目(20)リンドヴルムの鼻先で
「いや〜、流石は旦那」
「救命胴衣どうしようかって話してたんです」
村に着くとイェルマインとマグダレーナ。
やはり水難対策は懸念事項だった様だ。
川が増水していて、見るからに怖い状態らしい。
戦況は? まだ小競り合い程度か。
村落外縁の防御陣地で牽制射撃が続いている。
そこを固持し、また、そこから進めずにも居る。
第1弓弩銃士隊と、骸骨騎士団が前列へ。
射撃しつつ前進、陣地防衛を交代する。
エリック達を2列下がらせて気泡魔法を付加。
第2弓弩・銃士隊、花人隊は第2陣地で待機。
陣営が整った所で、情報確保と通信作戦会議だ。
探知、解析……敵影確認。
大物ではケルピーが7、オーガ2、キマイラ3。
雨の為かグリフィン等の飛行系は無し。
小物はゴブリンが100弱。ホブ3割程度。
トロール傭兵も数匹。
あと、ヴォジャノーイ……って何だ。
半魚人ならぬ半カエル人みたいなのが30余り。
亜人種ないし亜人系のモンスターの様だが。
人を襲う、んだろうな。敵対の赤反応。
他に大物では多頭蛇ヒュドラが1。
これもレベル80とやや脅威だが。
それ以上の脅威が1つ。
やや遠方にリンドヴルム……川由来の竜。
リンドヴルム、レベル2千弱。
脅威度判定は災害級。
しかし中立反応でもある?
ひとまずリンドヴルムは放置。
なるべく刺激しない様に。
しかし、万が一あれが突っ込んで来た場合。
村を捨てて退避、が良策だろう。
人の手でどうにもならんのが災害だ。
災害級ってのは、そういう評価のハズだ。
村はまた建て直せばいい。
食料資源は数日なら持たせられる。
後で火竜を倒したメンバーに討伐を依頼しても良い。
今日ここでの撃退に拘る必要は無い。
それよりも各人の命の方が大切だ。
熟練農夫のノウハウを育て直すのに何世代かかる。
その生産物で養えるハズの何世帯が飢える事になる。
俺達の目的は竜退治じゃない。
栄光よりも人的資源の被害を……
反射魔法展開! 総員防御!
都合良く話が終わるのを待ってはくれないか。
ケルピーの水魔法が飛んで来た。
骸骨騎士団の盾、マリナ達の反射魔法がそれを防ぐ。
……とにかく、生き残る事を第一に。
任務は村人の保護、次いで村の保全だが。
お前達の誰が死んでも割に合わん。
誰も死ぬなよ? 怪我だって無い方が良い。
敵前衛はケルピー。キマイラが続く様子。
オーガやゴブリンは嫌らしくも下がって様子を見ている。
ヒュドラは……ゴブリンを襲って食ってる?
動き出すまで後回しで良い。
前に出ずとも攻勢に転じよう。
敵の数が減ったら危険も減る。
花人隊、前進して第1防衛陣地に合流。
第1弓兵隊は右翼、第1弩兵隊は左翼へ展開。
後ろにジルケ達を加えて、各兵種2列横隊にしたい。
『弾かれます! 障壁魔法!』
『全部じゃないよ! 効いてる奴も居る!』
レーネとティルアの通信。
詳しく解析する。ケルピーのレベルが40〜60程度。
上位4体が障壁魔法を保持している様子。
全部が障壁ありと思って撃とう。
強力な狙撃銃か、魔法付与矢弾なら徹る。
ケルピーの苦手属性は炎だが、天候が雨。
単純な炎じゃダメだ。爆薬か燃料魔法を付与。
付与出来るか。使い手は。
銃士隊はルーシャ、弓兵隊はフェドラが所持。
弩兵隊には俺が行く。行くけれども。
ティルア、リリヤ、喜び過ぎ。
カリマ、エメリナ、露骨に残念がらない。
これはもう、各隊順繰りに回らないとダメか?
中衛、第2陣地はイェルマイン隊に預けた。
バリスタとカタパルトを順次射撃。
これも障壁を貫通するだろう。
上手い子はタイミングを合わせて撃て。
『旦那、お客さんです!』
『何か手伝う事は!』
イェルマインの通信越し。
鍛冶屋のデトレフ、道具屋のブシュラ。
レイニ隊やケンタウロス戦闘要員も一緒か。
状況。林2つ隔ててリンドヴルムが居る。
こちらに来るか来ないか分からん。
リンドヴルムが動き出したら俺達も逃げる。
それまでは、出来る範囲でザコ潰しだ。
リンドヴルムが来ない可能性もゼロでなし。
どうせ逃げるんでも、安全に逃げたいしな。
追手は少ない方が良い。
デトレフ、ケンタウロス隊は非戦闘員の避難誘導を。
余裕があれば戻って来て射撃に加わってくれ。
サンドラちゃんはバリスタに付いて魔法付与。
発射時に通信で合図があると尚良し。
ジュス姉はラミア、アンヌはリザードマンと左右索敵。
村落防衛時の二の轍は踏まん。
小賢しいゴブリンの迂回戦力を探せ。
レイニ隊は俺と前進、第1陣地に合流しよう。
マイナさんはブシュラと、子供達に魔力薬の分配を。
出来る方策は大体採っただろう。
あとは、リンドヴルムの思惑が分かれば良いんだが。
下手に呼び掛けて、気に障って襲われても困る。
今は目の前のザコ掃除に専念しよう。
前へ
/黒鷲の旅団トップへ
/次へ
|